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英国国債利回り上昇、政治不安で風雲急を告げる
梅澤 利文
2026/05/18

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概要

5月15日、主要国でインフレ懸念を背景に国債利回りが上昇した。英国では政治不安も金利上昇の要因と見られる。労働党スターマー政権は支持率低迷や地方選での大敗を受け党首選挙の観測が強まっている。バーナム市長やストリーティング元保健相などが次期党首候補とされる。イングランド銀行は中東情勢や物価を注視しながら政策金利を据え置いているが、政治の影響にも注意は必要だろう。




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インフレ懸念などを背景に、世界的に国債市場で売り圧力が高まった

5月15日の市場では日米欧など主要な国で国債利回りが上昇した。米中首脳会談でイラン情勢の解決を示唆する目新しい内容が公表されなかったことは利回り上昇のきっかけに過ぎないだろう。根本的には中東情勢悪化にともなうインフレ懸念が根強い。これを受け、金融政策は世界中で引き締め方向な上、国によっては物価対策としての財政政策が金利を押し上げる構図となっている。

英国では政治不安も金利を押し上げる要因になっていると見られる。15日の欧州国債市場で英国10年国債利回りは、他の主な欧州国債を小幅ながら上回り、5.2%近くにまで上昇した(図表1参照)。

英国の地方選挙の結果を受け、財政規律を求めてきた政権には辞任圧力

世界的に国債市場が動揺する中、ここでは英国の政治不安に主な焦点を当てる。英国債市場といえば、22年9月の「トラス・ショック」が記憶に新しい。英国のトラス首相(当時)が打ち出した(財源の裏付けに乏しい)所得減税や法人減税を含んだミニ・バジェットの発表を受け、英国の通貨、債券、株式市場が混乱したのが「トラス・ショック」だ。もっとも、当時の英国債利回りが急上昇した背景には英国年金のポジションの問題もあったようだが、財政不安が金利上昇を引き起こす状況は「トラス・ショック」と表現されることもある。

英国の政治不安に警戒感が高まっている。与党・労働党のスターマー首相に対する退陣要求が高まる中、「党首チャレンジ(党首選挙、英国の場合、首相交代となる)」への観測がある。この背景を簡単に振り返る。

英労働党のスターマー政権は24年7月に発足した。当時の総選挙では6割超の議席を獲得し、保守党から14年ぶりに政権を奪還した。

しかし、スターマー政権は発足直後から予算案の遅れや不人気な財政縮小政策でつまずいた。最近では7ヵ月で解任されたマンデルソン元駐米大使の任命責任も問われ、与党・労働党内でスターマー首相に対する退陣要求が高まっている。

労働党の支持率が低迷する中、今月7日に実施された統一地方選で、労働党は歴史的な大敗を喫し、改選前に比べ6割程度議席を減らした。労働党(スターマー政権)に対する支持率の低さを素直に反映した選挙結果だった。

開票結果を受け、11日には閣僚補佐官が数名辞任した。14日にはストリーティング保健相(当時)も辞任した。同氏は地方選挙後も続投しているスターマー首相に対し党首選挙で挑むとの観測がある。党首選挙実施は労働党の下院議員(81名)による支持などの要件を満たせば可能だが今のところ見送られている。しかし、現地紙によると、ストリーティング氏は辞任表明の前日に首相官邸を訪れている。13日は英国議会開会式となる特別の日だ。このような日を選んだ点で、同氏が党首の座に挑む可能性はありそうだ。

労働党党首選挙の他の有力な候補がマンチェスターのバーナム市長で、14日には国政復帰をめざすと表明した。バーナム市長はマンチェスターに変革をもたらした実績などから全国的な知名度と人気もある。世論調査の中には、スターマー首相と戦った場合、バーナム市長が党首選挙で勝つとの予想もある。ただし、党首選挙に立候補できるのは下院議員だけだ。バーナム市長は下院議員ではない。それでも、バーナム市長が国政復帰を表明した背景として、マンチェスター近郊選出の同党下院議員がバーナム氏に議席を譲るとして議員辞職を表明したためと報道されている。

もっとも、補選となっても、バーナム氏がすんなり勝てるとは限らない。先の地方選挙で大勝した、右派ポピュリストである改革党(リフォームUK)を率いるファラージ氏はバーナム氏が国政に復帰することに対抗する構えだからだ。

市場の懸念は、仮にバーナム氏が党首選挙に勝利した場合、政策が左派寄りになる可能性が高いことだ。バーナム氏は過去に債券市場軽視とも受け取られる発言をするなど財政緩和を志向する可能性が高い。一方、別の候補であるストリーティング元保健相は政策的には中道に近く、財政を拡大させる懸念はバーナム氏の場合より低いと考えられるが、人気も低い。世論調査ではスターマー首相に対し苦戦が見込まれている。

スターマー政権発足当時から財政運営を担当してきたリーブス財務相は、財政規律を推し進めてきた(人気のある政策ではなかったが)。市場の視点からは、ある程度の安心感もあった。しかし、スターマー政権が揺らげば、リーブス財務相が残る可能性が低いことも懸念材料と見られそうだ。

労働党の党首選挙が本当に実施されるかは政治的判断で、現段階では憶測にすぎないうえ、党首選挙実施のハードルも低くはない。しかし、スターマー首相への辞任圧力も強さは、英国の政治不安、国債利回り上昇の1つの大きな要因だろう。

エネルギー価格と波及効果が主要な注目要因だが、政治にも注目したい

英イングランド銀行(BOE、中央銀行)は4月30日、市場予想通り、政策金利を3.75%で据え置くと公表した。据え置きは3会合連続で、インフレ圧力の高まりと景気のバランスを考慮したが、今後は利上げ時期を慎重に探る方針だ。投票は8対1で、反対票を投じたチーフエコノミストのピル委員は利上げを支持した。

英中銀は今回、金融政策レポートを発表した。その中で、中東情勢をめぐる不確実性が高いことから3つのシナリオ(A~C)を示した。シナリオAはエネルギー価格が現状で推移するも物価への2次的波及効果は考慮していない。シナリオBはエネルギー価格が同程度ながら2次的波及効果が発生するとし、シナリオCではエネルギー価格が大幅上昇し、その上で2次的波及効果の発生を想定している。おそらく英中銀はシナリオBに近いイメージで政策運営しているとみられるが、先月に作られたシナリオでもあり、政治要因はほぼ織り込まれていない。英中銀が明示的に政治をシナリオに反映させることはないとは思われるが、政策運営にあたり、政治動向にも注意を払う必要はありそうだ。

 


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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