Article Title
中国、4月の主要経済指標に見る今後の課題
梅澤 利文
2026/05/19

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国の4月の主要経済統計で、工業生産や小売売上高などが市場予想を下回った。輸出はEVや半導体などが好調で、特に新エネルギー車(NEV)の輸出が国内販売の減少を補ったが、価格上昇が数量の伸びを抑制するなど課題も見られた。小売売上高は自動車や宝飾品、家具などが不調。不動産市場の低迷や政策支援の縮小も影響している。今後は雇用対策など持続的な回復策が求められる。




Article Body Text

4月の中国主要経済指標は全般に市場予想を下回った

中国国家統計局が5月18日に発表した4月の主要経済統計で、工業生産は前年同月比4.1%増と、市場予想の6.0%増、3月の5.7%増を下回った(図表1参照)。好調な輸出を背景に電気自動車(EV)などの生産は増加したが、内需の回復が鈍いことが押し下げ要因となった。

内需を反映する小売売上高は4月が0.2%増と、市場予想の2.0%増、3月の1.7%増を下回った。

1-4月期の固定資産投資は(年初来)前年同期比で1.6%減と、市場予想、1-3月期(ともに1.7%増)を下回りマイナスに転じた。構成指数の1つである不動産投資は1-4月期が13.7%減と、前期の11.2%減からマイナス幅が拡大した。

4月の工業生産は市場予想を下回り、課題も浮き彫りとなった

4月半ばに発表された中国の1-3月期GDP(国内総生産)は前年同期比で5.0%増と堅調で、26年の中国経済は幸先良いスタートに見えた。しかし、4月の指標には中国経済の課題が示された。

工業生産の伸びは4月に鈍化したが、依然、中国経済の下支え要因だ。ただし今後の生産活動を占ううえで、価格の影響と、内需と外需のバランスが課題であると筆者は見ている。

まず、価格の影響から確認する。工業生産の下支えは主に輸出だ。4月の貿易統計で中国の輸出(ドル建)は前年同月比で14.1%増と好調だった。輸出を押し上げた品目としてEVや集積回路(IC、半導体)などが挙げられる。集積回路の輸出を数量ベースと金額ベースの伸びを昨年4月、26年3月、4月のについて示した(図表2参照)。

4月の集積回路の輸出の伸びは金額ベースで測定すると前年に比べ100%近い伸びとなった。昨年4月の伸びが約20%だったので、今年4月の輸出額は大幅に伸びた。

ただ、数量ベースの伸びに注目すると、26年4月はわずか3.7%にとどまった。25年4月は輸出金額、数量が同程度の伸びとなっているのとは対照的だ。旺盛なAI需要を背景に集積回路の価格が急上昇したことが背景と見られる。また、数量ベースの伸びで別に気になる点もある。26年3月と4月を比べると、4月が下回っていることだ。背景として価格上昇が数量(需要)を抑制した可能性がありそうだ。今後の需要動向には注意が必要だろう。

次に自動車を例に、内需と外需のバランスを確認する。中国の自動車販売を国内と輸出に分けると輸出は伸びを拡大させた一方で、国内販売は鈍化した。中国自動車工業協会の数字を確認すると、4月の販売台数は252.6万台と前年同月比で2.5%減だった。なお、4月の生産台数は257.5万台とほぼ同規模だった。

輸出台数は90.1万台と、前年同月比で74.4%と大幅に増加した。国内販売の落ち込みを輸出が相殺した。輸出の中身を見るとバッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)からなる新エネルギー車(NEV)が47.7%と半分近くを占めている。エネルギー価格上昇を受け、NEV需要が高まった可能性が考えられる。しかし、中国製自動車(NEV)の低価格が外需を引き寄せたと思われる。

中国は政策的な支援により、安価で品質の良いNEVを生産してきた。しかし急速にNEVをコモディティ化したため、低価格戦略から抜け出せずにいる。販売台数は伸びても販売金額が伸びていないことなどに、この問題の深刻さが示されている。

国内市場にも急成長の痕跡がみられる。4月の自動車販売に占めるNEVの割合は5割を超えた。中国当局が進めている新エネルギー車発展計画(2035年まで)によると、25年の目標は20%のシェアであり、これをはるかに上回るペースで推移している。中国当局は「内巻(過度な低価格競争)」への対策として投資抑制に迫られている。堅調な輸出は今後も生産活動を支えるだろうが、内需回復を伴わない限り、物足りなさが残りそうだ。

小売売上は政策の賞味期限切れや消費者マインド悪化を反映して軟調

小売売上高は4月に前年同月比0.2%増にとどまった。インフレ率が1%となっていることから、実質ベースでは消費はマイナス圏という印象だ。

小売売上高の内容を見ると、自動車は前年同月比で15.3%減と軟調だった。全額免除だった新エネ車の車両取得税が今年から免除額を半額にしたことなどが影響したようだ。

消費センチメント全般を反映する傾向がある外食を含む食料は、4月が前年同月比で2.2%増と前月の2.9%増から鈍化し、やや積極性に欠ける水準だ。一方、宝飾品は21.3%減と、3月の11.7%増からマイナスに転じた。変動が大きい品目であるため様子を見る必要はあるが、中東情勢など外部環境の不透明さが影響したかもしれない。

家具や建築資材は2桁のマイナスだった。不動産市場の低迷が背景とみられる。家電などは中国当局が実施してきた消費刺激策の効果が弱まったことが背景で、これらも今後の課題だろう。

中国の小売売上の低迷は、消費センチメントと連動する傾向がある不動産問題や政策支援の縮小が背景と思われる。ただし、消費を補助金で押し上げるような政策支援は需要の先食いに過ぎない。むしろ、持続的回復に重点を置いた政策として雇用のテコ入れ(若年層)が求められるだろう。4月の調査失業率は改善(低下)したが、消費回復と結びついていないようだ。雇用に対する中国当局の対応に筆者は注目している。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●投資信託は値動きのある有価証券等に投資するため、基準価額は変動します。外貨建資産の場合は為替変動リスクもあります。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性、特定の目的への適合性を保証するものではありません。記載内容は作成日現在のものであり、予告なく変更される場合があります。また、過去の実績は、将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
●投資信託は預金等ではないため、元本および利回りの保証はなく、預金保険機構または保険契約者保護機構の対象ではありません。また、登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料の内容は、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を目的としたものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


植田総裁の講演、利上げ示唆も円安抑制は不十分

米4月の求人件数の勘所と、労働市場回復の条件

ECB議事要旨:6月理事会のプレビューとして読む

米消費者信頼感指数から垣間見る米労働市場

インドネシア中銀の利上げでルピア安は止まるのか

4月のCPIは鈍化したが、利上げ路線を維持だろう