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インドネシア中銀の利上げでルピア安は止まるのか
梅澤 利文
2026/05/25

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概要

インドネシア中央銀行は市場予想を上回る0.5%の利上げで、ルピア安やインフレ懸念への対応姿勢を示した。中東情勢悪化や米金利高が足元のルピア安の主な要因と見られる。一方、政府の政策や中銀の独立性への不安、財政悪化懸念もルピアに悪影響を与えている。格付け会社は同国政府の政策の不確実性を懸念し、最近の資源輸出業務の集約案にも否定的だ。市場の信頼回復が課題のようだ。




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インドネシア中銀、2年1ヵ月ぶりに、市場予想を上回り利上げを決定

インドネシア中央銀行は5月19-20日に開催した金融政策決定会合(以降、会合)で主要政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.5%引き上げ、5.25%にすることを決定した(図表1参照)。利上げは2024年4月以来、2年1ヵ月ぶりだ。市場予想でも0.25%の利上げが見込まれていたが、実際の利上げ幅はこれを上回りサプライズとなった。

予想を上回る金利の引き上げ幅を受け、20日の為替市場で通貨ルピアは1ドル=17600台まで、一時的に、ルピア高が進行する局面も見られた。しかし、週末の22日にルピアは、ほぼ利上げ発表前の水準に戻る展開となり、ルピア安圧力の根強さが示唆された。

インドネシアの4月のCPIは2.4%台だが、先行きには不確実性もありそうだ

通貨ルピアは2025年前半、トランプ関税で混乱した時期を除けば比較的落ち着いた動きが見られた。しかし、25年後半からルピア安傾向となり、26年春からは中東情勢悪化を受けルピア安が加速する展開となっている。

インドネシア中銀は声明文で利上げの理由を2点指摘した。中東情勢悪化に伴うルピア安抑制と、インフレ懸念に対する前倒し対策を挙げている。インドネシアの足元のインフレ率は2.4%台と低水準だ(図表2参照)。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.42%上昇と、インドネシア中銀の物価目標は2.5%(±1%)の範囲に収まっている。

もっとも、足元の総合CPIの鈍化は、昨年の上昇はエネルギー補助金縮小など政策対応の反動による面が大きい。また、CPIの構成項目を見ると、食品やエネルギー価格の影響を受けやすい輸送は足元落ち着いていることも、総合CPIが鈍化した背景とみられる。一方で、食品やエネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアCPIの伸びは2.4%程度で、懸念する水準ではないがじり高傾向だ。

そのため、原油価格の高止まりやルピア安が続くようであれば、総合CPIの鈍化は短期的である可能性があり、物価全般に波及する懸念もある。インドネシア中銀が前倒しという表現で利上げを決めたが、ルピアのこれまでの動きを見ると、むしろ後手に回った印象だ。

利上げのタイミングの遅れだけではない、ルピア安の別の要因

最近のルピア安進行の主要な背景は中東情勢悪化に伴うドル高、米金利高とみられる。しかし、インドネシア固有の要因にも注意が必要だ。

インドネシア中銀は今回の会合で大幅な利上げを決定したが、ワルジヨ総裁は会合後の記者会見で「銀行に貸出金利を引き上げないように指示した」と述べた。金融引き締めというには、一貫性のなさが気になる。インドネシア中銀は2022年に成立した改正中銀法により、政策目標として、それまでの物価と通貨ルピアの安定に加え、経済成長が加えられた。そのうえ、2026年1月にはインドネシア中銀の副総裁(ジュダ氏、当時)が任期を1年残し唐突に辞任した。後任にはプラボウォ大統領の親族(甥)であるトマス・ジワンドノ副財務相(当時)が就任した。中銀の独立性に疑問が残る人事であった。

このような懸念の背景として財政悪化懸念が挙げられる。インドネシアは原油の純輸入国(24年の輸入量は約1300万トン)である。ガソリン価格などは原油価格への感応度が高い中、インドネシア政府は補助金で価格上昇を抑制してきた。26年予算で約210兆ルピア(約1兆8800億円)の補助金を計上した。

もっとも、インドネシアのプラボウォ大統領は3月に国家財政法で定められた財政赤字対GDP(国内総生産)比率の上限3%を維持する方針を示唆した。その後、プルバヤ財務相は同比率を2.9%に抑えると述べている。しかし、中東情勢の悪化が長引く中、市場の懸念は根強い。

格付けにも不安の芽が見られる。ムーディーズ・レーティングスは2月に、フィッチ・レーティングスは3月に信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。両格付け会社はインドネシアの格付けを投資適格のBBB(ムーディーズはBaa2)を据え置いたが、将来的には格下げの可能性があることを示唆した。見通し引き下げの理由として、両格付け会社とも財政悪化懸念とともに、表現は異なるが、政策の不確実性もしくは予見可能性の低下を指摘した。

インドネシア政府が5月20日に突然発表した、パーム油や石炭などの資源輸出業務を国営企業に集約するとの政策案は、同国の政策の不確実性を物語る。発表によると、新制度は9月に移行(輸出業務の集約化)する計画だ。資源価格の国家統制を強め、外貨収入を増やす意図が込められている。プラボウォ大統領は、新制度により1500億ドルの国家収入増を見込んでいる。

同制度案に対する格付け会社の評価は辛口で、信用評価にマイナスと指摘している。S&Pグローバル・レーティングは(9月までの)3か月程度の準備期間の短さや、輸出に対する不透明感の高まりが投資の減少などを引き起こすなど懸念を表明している。同国の思惑通り外貨収入が増えるのか、不透明感も高そうだ。

インドネシア中銀や政府はルピア安対策として、ドル購入上限の引き下げなどの政策対応を行っている。ただし、対処療法の印象は否めない。今回の会合でインドネシア中銀は大幅利上げでルピア安抑制姿勢を強化したが、それだけでは不十分で、市場からの信頼回復が求められそうだ。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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