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ECB議事要旨:6月理事会のプレビューとして読む
梅澤 利文
2026/06/01

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概要

欧州中央銀行(ECB)は4月会合で政策金利を据え置いたが、エネルギー価格の上昇によるインフレと景気悪化の懸念が議論の中心となった。ユーロ圏のインフレ率はエネルギー主導で上昇傾向だが、物価の二次的波及効果は現時点で限定的だ。今後は経済指標を精査しつつ、物価上振れリスクへの対応として利上げのタイミングを慎重に判断する方針だ。6月会合での利上げの可能性は高いようだ。




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ECBの4月会合の議事要旨、据え置きが決定されたが、利上げも視野に

欧州中央銀行(ECB)は5月28日、4月28-29日に開催した理事会(会合)の議事要旨を公開した。4月会合では政策金利が全会一致で据え置きとなった。しかし、据え置き判断は接戦で、複数の(A number of members)参加者は、利上げ提案があれば反対しなかったと記されている。

議論の焦点は中東情勢に伴うインフレ上昇と景気悪化への懸念のバランスなどにあった。注目されたユーロ圏の物価指標の現状を確認しよう。欧州連合(EU)統計局が5月20日に発表したユーロ圏の4月の消費者物価指数(確報値)は前年同月比で3.0%上昇した。内訳は、エネルギー価格が10.8%上昇し全体を押し上げた一方、財やサービスは落ち着いている状況だ(図表1参照)。

インフレ懸念は利上げを迫るが、利上げを見送る要因も散見された

ECBは6月10-11日に次回会合の開催を予定している。原油価格の上昇などを受け、年内の利上げ回数(1回を0.25%と換算)を市場が3回とみていた時期もあったが、4月会合後は年内2回が優勢となりつつある。4月の議事要旨や最近の経済指標を基に、ECBの今後の政策を見通す。

ユーロ圏のインフレ率は4月が前年同月比3.0%上昇と、前月の2.6%上昇、1月の1.7%上昇を上回っている。6月2日発表予定の5月分の市場予想は3.2%上昇でじり高が見込まれている。

ただし、構成指数(図表1)を見ると、大幅に伸びているのはエネルギーだけだ。衣服などのモノの価格である財は0.8%と低水準だ。サービスは3.0%上昇と、前月の3.3%上昇を下回り鈍化傾向だ。議事要旨でも、エネルギー価格主導の物価上昇であるとの認識が示されている。なお、エネルギー価格上昇の背景である中東情勢については不確実性が高いことから、3月時点より供給制約への懸念が強まっているとの指摘もあった。

一方で、注目すべき指摘としは、物価の二次的な波及効果はほぼ確認できないと述べている点だ。エネルギー価格上昇が輸送費などを上昇させ、ゆくゆくは賃金を押し上げるなど、物価全般の上昇をECBは認識していない。二次的波及効果を確認するには時間が必要だ。6月会合までに発表されるデータを精査することで、4月会合は利上げを見送った様子が議事要旨に示されている。

利上げを見送ることが出来た背景として、2022年との違いも挙げられる。ロシアがウクライナに22年2月に軍事侵攻したことで、当時ユーロ圏の主力エネルギーであった天然ガス価格は急騰した(図表2参照)。ECBは軍事侵攻があった当時、マイナス金利であったうえ、利上げを開始したのは同年7月だった。対応が遅れたことなどから、ユーロ圏のインフレ率は2桁にまで上昇した。しかし、中東情勢悪化による今回の局面では天然ガス価格にウクライナ侵攻のような動きは今のところ見られない。このことが当面様子見の理由でもあるようだ。

金融政策の判断には難しい局面だが、6月会合で利上げの公算が高そうだ

なお、ECBは2022年とは反対に、利上げ対応が早すぎたケースもあった。2011年4月と7月の利上げがそれで、前倒し対応が裏目となった。物価への対応は遅すぎても、早すぎてもダメで、金融政策運営は本当に難しい。

2つの教訓を基に、ECBは最適な利上げタイミングを決めるため、経済データを精査し、次回会合まで、二次的波及効果の確認作業が見込まれる。ただ、経済指標の中には賃金のように物価に遅れる(ラグ)傾向のデータもある。ユーロ圏の代表的な賃金指標は妥結賃金だが、1-3月期が最新のデータだ。賃金は景気などに遅行する傾向がある上、データの公表も遅いことから、これを待ち続ければ判断が遅れる。ECBは大手人材会社の賃金データを活用して速報性を高めた指標を開発したが、その賃金データで見ても足元の賃金の伸びは概ね横ばいで、明確な上昇は確認されない。

一方で、賃金の先行きを示唆する可能性があるサーベイベースの期待インフレや企業の販売価格予想などに物価押し上げ圧力の兆しがあると議事要旨で指摘している。また、ECBが集計する期待インフレの指標で、インフレ期待1年物は3月が4.0%と、市場予想の2.8%を大幅に上回った。やはり、物価の上振れリスクに注意すべきであろう。

米国とイスラエルがイランに軍事行動を開始して3ヵ月が経過した。紛争は停戦に向かっているように見受けられるものの、原油価格が落ち着くには時間もかかりそうだ。紛争は長期化すればするほど、物価への二次的波及が押し上げられる懸念も高まる。4月の会合ではギリギリの判断で据え置きを決定したが、ある程度経済指標の精査が進んだと思われる現段階で、シュナーベル理事など複数のECB参加者が6月利上げを支持している。筆者も6月会合での利上げは可能性が高いと見ており、年内あと1回で合計2回の利上げを見込んでいる。ただし、利上げ回数は中東情勢次第だろう。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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