- Article Title
- 米4月の求人件数の勘所と、労働市場回復の条件
米労働省の4月JOLTS調査によると、求人件数は約2年ぶりの高水準だった。特に「専門・事業所向けサービス」が大幅に増加した。一方、金融・保険や娯楽・宿泊、小売などでは減少し、求人件数の増加は特定セクターに偏っている。採用件数や離職率も低調で、米労働市場の活況度は低そうだ。ISM製造業景況指数は改善傾向だが、サービス業は伸び悩んでおり、今後の雇用回復の条件となりそうだ。
4月の米求人件数は761.8万件と市場予想を大幅に上回った
米労働省が6月2日に公表した雇用動態調査(JOLTS)によると、4月の求人件数は761.8万件と、2024年5月以来、約2年ぶりの高水準で、市場予想の686.6万件、前月の688.7万件を大幅に上回った(図表1参照)。
声明文に示されたセクター別の動向をみると、求人件数が大幅に増えたのは、コンサルタント、会計・法律、企業向けの警備などを幅広く含む「専門・事業所向けサービス」で171.5万件と、3月の104.7万件から66.8万件増だった。過去5年で他に例を見ない大幅な増加となった。一方で減少したのは「金融・保険」で、4月は30万件と、前月の43.5万件から13.5万件減少した。
4月の求人件数急増の背景に、セクターの偏りなどの問題もあるようだ
4月のJOLTSを受けた米国債市場の反応を見ると、求人件数の大幅な増加などを背景に、一時的に国債利回りは上昇したが、ごく短期間にとどまった。求人件数の増加だけでは米労働市場の安定を示唆するとしても、本格的な回復とは言い難いようだ。
最近の求人件数を水準で見ると、700万件前後で推移しており、安定さは見られる。一方で、4月の求人件数が今後の伸びを示唆しているかと言われれば確信が持てない。今回の増加が「専門・事業所向けサービス」など特定のセクターに偏っているからだ。その上、「専門・事業所向けサービス」の増加には違和感がある。別の統計である4月の米雇用統計における同セクターの就業者数の伸びが軟調であったのと整合的ではないからだ。
次に、景気サイクルを反映しやすい「娯楽・宿泊」や「小売」の求人件数を見ると、それぞれ前月から6.7万件減、4.3万件減と軟調だった。幅広いセクターで求人が増えたわけではないようだ。
もっとも、AIブームを背景にデータセンター建設の恩恵などを受けるとみられる「建設」セクターや、「製造業」は、求人数が前月から伸びた。また、人手に依存する職種であることから、米雇用統計で就業者数の伸びをけん引している「医療・福祉」セクターは4月の求人数も前月に比べ増加した。求人の伸びを下支えするセクターもあった。
筆者はJOLTSでは、求人件数以外に、米労働市場の活況度を示す指標にも注目している。4月のデータからすると、活況を取り戻してはいないようだ。例えば、自発的離職者の割合である離職率は、上昇すれば転職が多く、活況度の高さが示される。4月の結果は1.9%への低下だった。2020年以来の低水準近辺での推移が続いている。
採用件数とレイオフ件数も前月を下回った(図表2参照)。4月の採用件数は511.6万件と鈍化した。単月の数字で判断すべきではないが、幅広いセクターで採用の勢いが戻らない点は気がかりだ。レイオフ件数も4月は169.2万件と前月を下回った。レイオフは解雇なので、少ないほうが通常は「良い」。問題は採用とのバランスだ。不確実性を前に、採用にも解雇にも消極的というのであれば、「健全」とは言い難いだろう。
米労働市場の回復には不確実性の後退などが求められそうだ
米労働市場をより包括的に見るには、5日に発表される米雇用統計を確認する必要があるが、市場予想を見ると失業率は4.3%が見込まれるなど無難な数字が見込まれている。センチメント指標の一部には、米労働市場の回復の兆しもみられる。
企業の購買・調達担当責任者の景況感を示唆する米ISM製造業景況指数は5月が54.0と、景気拡大・縮小の境目となる50を上回った(図表3参照)。構成指数の製造業雇用指数は48.6と、50を下回るが、足元では改善傾向だ。トランプ関税への懸念が後退したことや、米国とイランの紛争は停戦交渉の先行きは不透明だが、3月のような激しい戦闘に戻る懸念は一旦後退した。一方で、物価値上がりを見込んで在庫を積み増す動きは特に製造業の押し上げ要因とみられる。さらに、米国は産油国でもあり、イランとの紛争は景気を必ずしも押し下げるばかりの要因ではないようだ。
イラン紛争はインフレ懸念やコスト上昇圧力など景気へのマイナス材料が多いが、製造業のセンチメントには抵抗力もみられる。
しかし非製造業(サービス業)には厳しい。4月分は53.6(5月分は3日に発表)と、2月の56.1から低下した。個人消費の伸び悩みが低下の背景とみている。イランとの紛争はガソリン価格の高騰などにより消費にマイナスの影響を与えたからだ。
米求人件数や米ISM製造業景況指数の雇用指数には底堅さが見られた。しかしサービス業の雇用指数は足元軟調に推移している(5月の数字は発表待ちだが)。米労働市場の本格的な回復には、後退したが依然残っている不確実性を解消することや、個人のセンチメント改善によるサービス業の回復が必要と思われる。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●投資信託は値動きのある有価証券等に投資するため、基準価額は変動します。外貨建資産の場合は為替変動リスクもあります。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性、特定の目的への適合性を保証するものではありません。記載内容は作成日現在のものであり、予告なく変更される場合があります。また、過去の実績は、将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
●投資信託は預金等ではないため、元本および利回りの保証はなく、預金保険機構または保険契約者保護機構の対象ではありません。また、登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料の内容は、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を目的としたものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。