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- 植田総裁の講演、利上げ示唆も円安抑制は不十分
日銀の植田総裁は6月3日の講演で、6月の金融政策決定会合における利上げの可能性を示唆した。講演後、利上げ確率は上昇したが、為替市場では円安が続いている。総裁は、供給ショックによる物価上昇が基調的な物価上昇率に波及する場合の対応の必要性や、政策の遅れによるリスクも指摘するなど金融引き締め姿勢を示した。しかし、従来の引き締めペースを変えるところまで踏み込まなかった。
注目の講演で「利上げの是非を議論する必要がある」と利上げを示唆
日銀の植田総裁は6月3日に都内で開かれた「きさらぎ会」(共同通信社が1950年に設立した会員制講演会組織)で講演を行った(図表1参照)。6月15-16日の金融政策決定会合(以後、会合)を前に注目度の高いイベントであった。
植田総裁の講演後、翌日物金利スワップ(OIS)市場に織り込まれた利上げ確率は8割後半と、講演前(8割弱)から高まった。利上げを示唆したと思われる植田総裁の発言として、「仮に不透明な状況が続くとしても、先行き、経済の下振れリスクに比べて、物価の上振れリスクが高まると判断される場合に利上げの是非についてしっかりと議論する必要がある(一部省略)」が挙げられる。
植田総裁の金融政策に関する発言は利上げを支持するトーンだった
今回の植田総裁の講演での「利上げの是非について議論」発言などは、6月会合での利上げ示唆と見てよさそうだ。ただ、為替市場で円は1ドル=160円近辺での取引が続いている(図表2参照)。6月利上げは想定の範囲内で、円安圧力を変えるには不十分だったということだろう。この点を植田総裁の講演内容とともに振り返る。
まず、「利上げの是非について議論」発言だが、これと同様の発言は、前回利上げを決定した昨年12月の会合前などにあった。昨年12月に名古屋での講演では、「利上げの是非について適切に判断したいと考えている」と述べた。今回の発言はこの時の発言に比べ条件付けが多く、利上げを示唆するトーンはやや弱い。しかし現局面では中東情勢の展開は極めて不確実だ。そうした中、会合までの2週間弱は短いようでいて長い。あくまで不測の事態へ備えた表現と筆者は考えている。
次に注目したいのは、「供給ショック(原油価格上昇のこと:筆者加筆)により、経済の下振れリスクと物価の上振れリスクがともに高まった場合に、どちらを重視して金融政策を運営すべきか」について、物価上昇への懸念を(条件付きながら)重視する考えを示した。従来の中東情勢に対する様子見姿勢からは一歩踏み込んだ印象だ。
また、「必要な対応が遅れ、あとで却って大幅な利上げを余儀なくされるような状況になれば、景気のみならず、金融市場や金融システムに大きな負荷をかける恐れもある」との趣旨の発言もあった。政策が後手に回るビハインド・ザ・カーブは回避したい考えだ。これまで、植田総裁はビハインド・ザ・カーブに陥っていないと、現状の政策をの擁護に終始することが多かった。陥らないよう対応を進める姿勢が示唆されたとみている。
なお、「供給ショック」が生じた場合の金融政策のあり方について、先に指摘した「供給ショックによる経済の下振れと物価の上振れのどちらに対応すべきか」に加えて、供給ショックに基づく物価上昇についても言及があった。この点を振り返ろう。
特殊要因を除いたインフレ率はコアCPIの鈍化とは異なる様相
供給ショックによる物価上昇は、通常、一時的で基調的な物価上昇率に大きな影響を及ぼさないなら金融政策で対応しないのが基本と植田総裁は述べた。しかし現実には原油価格上昇の影響が広範囲に広がり、期待インフレ率を高め、基調的な物価上昇率の上振れにつながる「2次的波及効果」に懸念を示した。原油価格由来の物価上昇でも日銀が対応する必要性を示唆した。
なお、日本の物価について植田総裁が講演で明確に述べなかったが、日本のインフレ率は鈍化傾向だ。4月の(生鮮食品を除いた)コア消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.4%上昇だった(図表3参照)。コメ価格の動きに加え、ガソリン補助金や教育無償化策などの物価抑制政策の効果だ。日銀は、こうした特殊要因を除いたCPIも公表しているが、4月は2.8%上昇と違いが大きい。
植田総裁は物価の判断について基調的物価上昇率をベースとしていることや、補助金など政策対応による物価抑制は緊急対応が原則であることから、日銀の目線は基調的物価にあるのだろう。ただし、物価対策を繰り出している政治サイドが、全面的に利上げを受け入れているのだろうか。植田総裁の講演とほぼ同じころ、高市首相は「金融政策の具体的手法は日銀にゆだねられるべき」との内容を国会で発言した。利上げ容認とも受けとれるが、この点はもう少し確かめる必要があろう。
6月利上げの可能性を高めた植田総裁の講演ではあるが、為替は160円近辺のままだ。その背景としてある程度織り込まれていた6月利上げ以上の情報が不十分なことが挙げられる。植田総裁は利上げペースについて「これまでと同様、適切なペースで政策金利を引き上げ」と述べた。これまでの緩やかな利上げペース維持では物足りなさが残る。何かに配慮しているのだろうか。植田総裁の講演は6月利上げの確度を高めたが、それだけでは円安圧力の抑制には不十分だったようだ。
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