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インドネシア中銀、問題山積みの中、据え置き選択
梅澤 利文
2026/07/23

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概要

インドネシア中銀は7月会合で市場予想に反し政策金利を5.75%に据え置いた。5月以降の利上げや為替介入などを背景にルピアは足元落ち着いており、据え置きの余地が生まれた。物価は目標レンジ内ながらエルニーニョによる食品価格上昇リスクなど懸念もあり、中銀には柔軟な対応が求められる。ただ、プラボウォ政権の成長志向に伴う財政政策、中銀の独立性低下懸念はルピアの不安要因と見られる。




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インドネシア中銀、政策金利を据え置き、市場予想は利上げが優勢だった

インドネシア中央銀行は7月21-22日に開催した金融政策決定会合(以降、会合)で主要政策金利(7日物リバースレポ金利)を、市場予想の利上げに反し、5.75%で据え置くことを決定した。

インドネシア中銀は通貨ルピア安が進行する中、今年5月に0.5%、6月9日、18日に各々0.25%引き上げを決定し通貨防衛に動いた(図表1参照)。足元、ルピアは落ち着いた動きとなっていることなどは据え置きの1つの背景だろう。市場予想も利上げ支持が55%、据え置き45%程度と拮抗していた。そのため、市場予想に反した決定ながら、ルピアは会合後も落ち着いている。しかし、インドネシアの政策に対する不信感は根強いと思われる。

過去の利上げの背景となったルピア安は、一応足元では落ち着いている

インドネシア中銀の7月会合の政策に対し市場の見方が分かれた。ルピアの落ち着きなどに目を向ければ据え置き判断にある程度説得力がある。一方で、インドネシアが直面する諸問題に目を向ければルピアの足元の安定は一時的で、利上げは必要という判断に傾くとみられる。筆者は、利上げの必要性が残ると見ている。

まず、足元のルピアの落ち着きの背景を整理すると、その一つとしてインドネシア当局による為替市場対策が挙げられる。対策のリストはインドネシア中銀の声明にも列挙されている。具体的には、オンショア、オフショア市場での為替介入、海外からの証券投資を拡大させるためのスワップ取引への便益の拡充などが挙げられる。また、6月には、為替市場での投機取引排除に向け、海外を含めた大手金融機関の為替取引について監視を強化したことも含められる。これらの対策の持続性に疑問は残るが、5月からの利上げ開始と相まってルピア安抑制に一定の効果はあった可能性がある。

格付け会社の評価がルピア安抑制に一定のサポート要因となった可能性がある。S&Pグローバル・レーティング(S&P)は7月にインドネシアの格付けを投資適格となる「BBB」、また信用格付け見通しも「安定的」に据え置くことを発表した。インドネシアの信用評価について、別の格付け会社であるムーディーズ・レーティングスとフィッチ・レーティングスは2月と3月にそれぞれ、信用格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げた。これにより将来的に格下げの懸念があることが示唆された。

一方、S&Pは据え置きの背景として、インドネシアの底堅い経済成長見通し、政府の財政規律(財政赤字対GDP(国内総生産)上限3%)へのコミットメントに加え、インドネシア中銀によるルピア安への対応を挙げた。なお、ムーディーズとフィッチの評価は利上げ前であった点に注意が必要だ。

ただし、インドネシアの株式市場に目を向けると厳しさが浮かび上がる。大手株価指数会社はインドネシアの情報開示が不十分なことなどを理由に、新興国からフロンティア市場へと分類を引き下げる可能性を警告している。同国に対して厳しい視線が注がれているわけだ。筆者は、S&Pによる格付け見通しの据え置きには意外感が残っている。

インドネシアにはルピア安要因が根強く残り、利上げへの備えも必要だろう

ルピアを押し下げる要因は数多いが、まずはインドネシアの経済状況を確認する。

インドネシアのGDP成長率は1-3月期が前年同期比で5.6%増と「堅調」だった。また、先行きの見通しも安定している。S&Pはインドネシアの26年~29年の成長率を4.9%と見込んでいるからだ。これは長期平均に並ぶ水準だ。

インフレ率は物価目標(2.5%±1%)の範囲に収まっている。6月の消費者物価指数(CPI)は総合が前年同月比で3.34%上昇、変動要因を除いたコアCPIは2.76%上昇だった(図表2参照)。

ただし、総合CPIは物価目標の上限に近づいている。また、コアCPIの水準は低いが上昇傾向で注意が必要だ。インドネシアのインフレ率はルピア安の影響を受けやすいだけに、インドネシア中銀は利上げの選択肢をしっかり残し、柔軟に対応することが求められよう。なお、日本の気象庁が7月10日に発表したエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値からの差は1.9℃で、エルニーニョ現象が続いており、一段上のスーパーエルニーニョ(2.0℃が目途)発生も有力視されている。インドネシア中銀もエルニーニョ現象による食品価格上昇に懸念を示しており、金融政策の柔軟性が必要だ。

しかし、インドネシア政府の政策は成長重視に偏っている中、中央銀行の独立性に懸念が残る構図となっており、これがルピアの不安要因だ。

インドネシアのプラボウォ政権の「長期的な」成長目標は8%(当初は6%、数年先に8%)と、段階的ながら高成長を掲げている。そのため財政政策も拡大しやすい。財政赤字対GDP比率は財政規律の基準に一応収まっているに過ぎない。そのうえ、歳入に対する利払い費が高水準で、財政状況は不健全だ。さらに、利払い抑制に低金利が望ましいという姿勢から、インドネシア中銀の独立性が脅かされている。2月にはインドネシア中銀の副総裁にプラボウォ大統領の親族が就任した。6月にはインドネシア中銀のマンデートに「経済成長」や「雇用創出」を加える法案が可決した。ルピア不安のリストはまだ続くが、きりがないのでここで止める。

為替介入など小手先の対応に加え、過去の利上げなどルピア安抑制には、しっかりした対応も見られた。半面、高水準な成長目標とのすれ違いがある限り、ルピアへの潜在的な不安は残りそうだ。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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