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ウォーシュ議長が7月FOMCで語ったこと
梅澤 利文
2026/07/30

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概要

7月FOMCではFF金利が3.50%-3.75%で据え置かれたが、地区連銀総裁3名が利上げを主張し反対票を投じた。会見でウォーシュ議長は物価目標2%を強調する一方で、フォワードガイダンス停止後の市場金利上昇を引き締め効果と評価し、ハト派的な側面も見せた。筆者は、市場動向に依存し過ぎればFRBがビハインド・ザ・カーブに陥り期待インフレが不安定化するリスクを懸念している。




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7月のFOMC、市場予想通りの据え置きながら、3名が反対票を投じた

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月28日-29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を3.50%-3.75%で据え置くことを決めた。

今回のFOMCは据え置きとなったが、前回(6月)の全会一致と異なり、3名が利上げを支持して反対票を投じたため、投票は賛成9対反対3となった。反対票を投じた前述の3名はクリーブランド連銀のハマック総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、ダラス連銀のローガン総裁で、いずれも地区連銀総裁だった(図表1参照)。

中東情勢の先行きが見通せない中、物価上昇圧力懸念が高まっている

筆者はウォーシュFRB議長の政策姿勢を消化できていない。ただし、これまでの発言等を振り返ると、「タカ派(金融引き締めを選好)を装ったハト派(金融緩和を選好)」(したがって中立)が、筆者の抱くイメージに近いかもしれない。

7月FOMCの声明文も、ウォーシュ議長が政策方針を示さない姿勢を反映して短い内容だった。景気認識は前回と変わらずだった。経済活動は堅調、生産性の伸びと設備投資は力強いとした。雇用は労働力に見合ったペースの伸びで、失業率は横ばいと指摘している。インフレについては、エネルギーを含む一部分野での供給ショックが価格上昇を引き起こしたが一部反映され、2%目標に対して高止まりしていると述べ、インフレを認識するも、広がりについて判断しかねている印象だ。

なお、バランスシート政策について、今回の声明文では「銀行システム内に十分な準備預金を維持する方針を『継続』している」(『』は筆者)と述べている。前回のFOMCでは継続の部分が確認となっていたことを踏まえると、短期的には現状を維持する意向なのかもしれない。

声明文では反対票を投じた先の3名の名前が明記されている。市場は連想が好きだ。ウォーシュ議長は政策方針を示さないのだから、反対者の名前も公表しないのではといった想像もあったようだが、全くの杞憂だった。ウォーシュ議長は過去のフォワードガイダンスに引きずられて、現在の判断を誤ることを懸念している。しかし、すべての情報開示に消極的というわけではないだろう。

先の3名のうち、クリーブランド連銀のハマック総裁とダラス連銀のローガン総裁は7月中頃の発言を踏まえれば、利上げ支持に驚きはない。ローガン総裁などは明確に利上げすべきと主張していたからだ。一方で、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は6月のFOMCでのドットチャートで年内1回の利上げを支持したことを公言している。その意味ではタカ派だが、1回と穏やかな利上げ見通しだったのでややタカ派とみていたが、意外にも反対票を投じる行動に出た。

他の9名は据え置きを支持したわけだが、インフレ懸念は共有している。例えば、クック理事は7月15日に、AI投資などが物価上昇圧力を押し上げている可能性を指摘したうえで、「インフレ鈍化の兆候が近く見られなければ、私は行動を起こす用意がある」と発言している。程度の差はあれ、据え置き支持といっても、物価上昇圧力への懸念は共有されている。原油価格上昇の長期化などを背景に「今行動すべき」と考えるのか、それとも、「一時的な上昇の可能性もありもう少し見極めたい」と考えるのか、判断の分かれるところだ。

ウォーシュ議長は据え置きの背景の1つに市場の引き締め度合を指摘した

ウォーシュ議長の会見は、据え置き、利上げの両サイドに配慮した格好だ。会見冒頭のコメントで、米国のインフレ率が2%を上回ることが常態化している点に触れ、物価目標は「ただ一つ、ソフト(柔軟)な目標はない、あくまで2%だ」と強調し、タカ派姿勢をのぞかせた。

しかし、質疑応答の中ではハト派色が浮き彫りとなった。冒頭のコメント通りなら、今回利上げを見送るのではなく行動を起こすべきだったかもしれない。しかし、ウォーシュ議長は名目・実質金利上昇が引き締め効果となっていることを指摘した。そのうえで、市場の反応はフォワードガイダンス縮小したことにより、市場から純粋な(中央銀行のフォワードガイダンスによらない)判断を引き出したと受け止められる発言などはハト派も聞こえた。

これには、疑問も残る。市場の反応を見続ける場合、FRBの判断が遅れ、ビハインド・ザ・カーブとなる懸念はないだろうか。今回、名目金利とともに実質金利も上昇したのは期待インフレ率が比較的安定していたことも背景であろう。仮にビハインド・ザ・カーブが常態化するようであれば、期待インフレ率が不安定となる恐れもある。FOMC後の米国債市場で、短期金利は据え置きで安定した動きだった一方で、長期金利が上昇したことは、期待インフレ率への見通しと関係している可能性もあろう。もっとも、ウォーシュ議長は必要な時は躊躇しないとも述べている。機動的な対応に期待したい。

なお、会見の中で「今は注意深く考える時期」として次の4つを挙げた。①5年を超えるインフレの影響、②AI投資などを含めた「ショック」の生産や雇用への影響、③②が物価に与える影響、④金利を金融政策の基本手段ながら、バランスシートから受ける緩和効果の程度を検討したようだ。

気になるのは④だ。検討された議論の詳細はわからないが、物価対策にバランスシート(縮小)政策など量的金融政策を活用する余地が検討された可能性がある。何らかの事情で政策金利を上げにくい中、物価を抑える必要もある場合の対策を用意しているのだろうか。筆者は量的金融緩和はともかくとして、量的金融引き締めには良い印象を持っていない。冒頭、声明文で準備預金に関する表現を継続としていたので、当面は心配していないが、今後の展開には注意したい。

市場は9月利上げをある程度織り込んでいる。幅広い物価上昇が今後確認され続けるなら、筆者も9月の利上げに異論はない。しかし、データ次第では据え置きの可能性も残すべきとみている。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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