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韓国7月の不思議、株式市場下落とウォン高の背景
梅澤 利文
2026/08/19

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概要

7月、韓国株が下落した一方でウォンは上昇し、通常の「株安・通貨安」と異なる動きとなった。株価下落はAI投資の持続性への懸念に加え、国内ではレバレッジ型ETFの強制清算などが影響した。ウォン高は24時間取引開始、韓国企業のドルの国内還流、利上げなどが下支えとなったようだ。今後も韓国中銀は韓国経済の中身を見極めつつ、慎重ながら追加利上げ姿勢を維持すると筆者は見込んでいる。




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7月の韓国市場では、株価下落と通貨高が同じ時期に起きた

韓国銀行(中央銀行)は7月16日の金融通貨委員会(会合)で、市場予想通り、政策金利を0.25%引き上げ、年2.75%とすることを決めた。利上げの決定は全会一致だった。韓国中銀は8月4日に議事要旨を発表した。AI投資を受けた半導体需要が韓国経済を押し上げる一方で、中東情勢悪化によるエネルギー価格やウォン安を背景にインフレ懸念が高まっていること、家計の債務の増加などを利上げの背景と指摘している。

韓国では7月に通貨ウォンが上昇に転じた一方で、株価(韓国総合株価指数、KOSPI)は急落した(図表1参照)。韓国の国外投資家が韓国株を売れば、教科書的にはウォン安となることが想定される。その意味で、7月はやや異例の時期だった。

韓国株式市場は7月に下落したが、国内にも下落要因があったようだ

新興国では株安の原因が資本逃避であった場合、通貨安を伴うことが多い。韓国のような輸出国では通貨高が輸出を抑制し株価下落となる面はあるが、それだけではなさそうだ。別の背景に注目すると、株式市場の下落は、AI投資の持続性への懸念に加え、韓国国内の株式市場事情が挙げられる。通貨高は、ドル安要因を除けば、韓国当局のウォン安対策などが背景と見られる。

韓国株売却の資金流出を上回るウォン買いがあったとみられるが、7月の海外投資家による韓国株式の資金流出額の推定値はデータソースによりばらつきがある。韓国中銀は純流出207億ドルと発表した。ただソースにより違いもあり、ある程度、幅をもってみる必要はあるが、相当の額の資金流出が想定される。なお、7月よりも6月の方が海外投資家の売りは規模が大きかったようだ。

韓国株式が7月に下落した背景は、韓国中銀の議事要旨にも指摘があるが、AI投資の持続性への懸念とみられる。ただし、振れ幅を拡大した要因としてレバレッジ投資などの政策が挙げられる。

韓国株式市場では5月27日に個別銘柄を対象にしたレバレッジ型の上場投資信託(ETF)が初めて上場された。大手半導体企業の株価の動きを2倍にするよう設計されている(単一銘柄レバレッジETF)。韓国の現政権が株式市場活性化の目玉商品として導入した。当初、個人投資家(若年層)中心に人気を集めた。しかし、7月の株価下落を受け、レバレッジ型ETFの投資家の一部は強制清算(売却)に追い込まれ、下振れが拡大し、売りが売りを呼ぶ展開となった。韓国当局は7月16日には単一銘柄レバレッジ型ETFの新規上場を一時停止などの緊急措置、29日には追加措置として保有上限設定などの対策が取られた。

韓国中銀の議事要旨(7月16日会合分)には、家計の借入による株式投資などに対して懸念が示されていたが、懸念だけではなかったようだ。なお、レバレッジ型ETFは国内投資家が主体で、通貨安への直接的な影響はなかったとみられる。

ウォン安からウォン高に転じた背景には複数の要因が考えられる

次に、ウォン高要因を検討する。図表1にあるように足元のウォン高が始まる前、韓国ウォン安(対ドル)が進行していた。しかし韓国の貿易収支は半導体などの堅調な輸出を背景に、黒字(プラス)が続いている(図表2参照)。貿易統計からは、6月頃までのウォン安が不思議なぐらいだ。7月にウォン高に転じた要因を振り返りつつ、反対にこれまでのウォン安の背景も検討する。

7月の月初、ウォンの中期的、かつ間接的な下支え要因として、ウォン・ドルの24時間取引への移行が挙げられる。外国人投資家や韓国輸出企業の利便性向上が期待される。それまでウォンには取引空白時間があったため、海外の相場急変時において為替ヘッジが困難といった問題は、ウォンを敬遠する理由だったが解消に向かいそうだ。また、ウォンの取引時間の制約は、韓国株式が先進国株式へ組み入れられない理由の一つだっただけに、プラス材料となった可能性もある。

ウォン高の2番目の要因は韓国企業のドル資金が国内回帰したことだ。韓国大手半導体会社は10日に米ナスダック市場に米国預託証券(ADR)を上場したが、調達した265億ドルの一部を韓国での投資に活用するためウォンに変換したようだ。

この動きを受け、韓国政府は他の韓国輸出企業に対して、米国などで保有するドルを韓国国内へ(ウォンに替えて)還流させることを「指導」、または「要請」した。これがさらなるウォン高要因になったとみられる。

なお、韓国政府は資金を国内還流させた韓国企業に対し、期間限定で減税措置を施すなど、単に資金還流をお願いするだけでなく、自主的な資金還流を促す対応も導入されていた点は、ウォン高にプラス要因とみている。

最後に韓国中銀の利上げもウォン高要因の役割を演じた可能性がある。韓国の主要な貿易相手である中国景気が昨年は米中関係の悪化などで回復が鈍かった。加えて韓国のインフレ率は昨年までは安定していたことから、韓国中銀は基本的に据え置きも含め緩和姿勢だった。しかし、韓国は半導体輸出を成長のドライバーとし、26年4-6月期の成長率は前年同期比3.7%増(速報値)と、1年前の0.7%増から急回復した。インフレ率も物価目標を上回っており、利上げの環境が整った。

7月に見られた韓国株式の下落とウォン高は様々な要因が背景だった。今後の動向は各市場の要因に委ねられよう。一方、韓国中銀は追加利上げが基本路線と筆者は見ているが、半導体依存の韓国経済を慎重に見定める必要もありそうだ。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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