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ECB9月の理事会で利上げだが、視線はその先
梅澤 利文
2026/09/11

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概要

ECBは9月9日-10日の理事会で中銀預金金利を引き上げた。決定は全会一致だった。経済見通しでは足元のGDPと来年以降のインフレ率を上方修正した。一方で中東情勢やウクライナ戦争に伴う原油・天然ガス価格の上昇などがインフレ懸念を強めている。足元の賃金上昇圧力は鈍化傾向だが、賃金トラッカーは来年の再加速を示唆するなど懸念もある。ECBは追加利上げの選択肢を維持するだろう。




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ECB、インフレ懸念を受け、市場予想通り政策金利を引き上げた

欧州中央銀行(ECB)は9月9日-10日に開催した政策理事会(会合)で、市場予想通り、中銀預金金利を0.25%幅で引き上げ、2.50%とすることを決定した(図表1参照)。ECBのラガルド総裁は記者会見で、今回の決定は「全会一致で、当然の判断」だったと説明した。

声明文では、「中東情勢の悪化がインフレ圧力を強めており、インフレ率は長期にわたり目標を大きく上回り続ける見込み」と述べている。

政策金利とあわせて公表された最新のECBの経済見通しでは、GDP(国内総生産)成長率、インフレ率(ユーロ圏消費者物価指数:HICP)ともに、概ね上方修正(一部据え置き)された。

景気は下振れ、インフレは上振れリスクだが、インフレ懸念が強そうだ

今回の会合に伴うECBの発表内容は、概ねタカ派(金融引き締めを選好)的であった。今後の金融政策の方針(フォワードガイダンス)は、「データ次第」、「各会合ごとに適切な金融政策を判断」、「あらかじめ特定の金利パスを約束しない」の常套句により、具体的な利上げペースや方向性は示されなかった。もっとも、ECBの物価認識などからは、今後のデータ次第では、追加利上げの必要性があると見た方がよさそうだ。

ECBスタッフの経済見通し(図表2参照)を参考に、利上げの背景を確認する。まず、GDP成長率見通しは2026年が0.8%から0.9%、2027年が1.2%から1.4%へと上方修正された。堅調な個人消費と財政支出拡大が主な押し上げ要因とみられる。一方で、先行きリスクは下振れ方向にあると見ている。背景は中東情勢などの地政学リスクによるサプライチェーンの混乱などが挙げられる。

次に、インフレ率はHICP、コアHICPともに2027年と2028年が上方修正された。前回のHICP見通しが3%とすでに高水準の2026年については、コアとともに前回から据え置かれた。最近の物価認識として、賃金の落ち着き、労働生産性の改善、長期期待インフレ率の安定、食品価格下落などを指摘している。エネルギー価格上昇等を受け、8月のHICPは前年同月比3.3%上昇と7月の2.9%上昇を上回ったことを指摘し、インフレへの警戒感は隠さないが、基調的インフレ率鈍化や物価抑制要因が物価見通し据え置きの背景と考えられる。

もっとも、今後のインフレリスクは、地政学リスク次第だが、上昇を懸念している。中東情勢やウクライナ戦争の長期化を受け、特に欧州の重要なエネルギー源である天然ガス価格が上昇傾向(図表3参照)なことをECBは警戒しているようだ。

欧州は天然ガスを冬場のヒーターの燃料に利用する。そして欧州では天然ガスの貯蔵率を冬場に向け高めるのが通常だが、今年は例年に比べ貯蔵ペースが遅れている。今後貯蔵率を回復させるとすれば、欧州は高値での天然ガス購入に追い込まれる可能性もあると筆者は懸念している。

別の懸念もある。欧州では発電に再生可能エネルギーが多く利用されているが、天然ガス発電シェアも比較的高い。欧州は今年、熱波に襲われ冷房使用が増加した。天候要因がエネルギー需要を高める可能性には今後も注意が必要だろう。

ユーロ圏の足元の景気の強さや基調的なインフレ動向などが、今回の利上げの背景と思われる。

インフレ懸念を示唆する要因が多く、追加利上げがこれからも選択肢だろう

市場の関心は、会合前から次の展開にあったとみられる。フォワードガイダンスは次の行動についてヒントを与えなかった。前のセクションで示した成長とインフレのリスク見通しを比べると、エネルギー価格動向次第だが、インフレへの警戒感が強いと筆者はみている。理由は次の通りだ。

貯蔵率上昇に向け天然ガス需要が根強いとみられるのはすでに指摘したとおりだ。加えて、これまでの利上げにも関わらず、銀行貸出(企業向け)が増加傾向にあることも気になる。遅効性のある指標であるため今後の動向を見守ることがまずは重要だが、注意は必要と思われる。

賃金動向も前のセクションで述べたとおり気になる。インフレ認識のところで指摘したように、足元ではユーロ圏の賃金上昇圧力は抑制されている。ユーロ圏の代表的な賃金指標である妥結賃金は4-6月期が前年同期比で約2.4%と、1年前の同時期の約4%増から鈍化している。ただ、賃金指標は遅行指標であり今後を見る必要がある。賃金の先行きを示す傾向があるユーロ圏賃金トラッカーは来年小幅上昇を示唆している。単なる短期的上振れの可能性も十分にあるが、仮にエネルギー価格上昇の埋め合わせの賃金上昇圧力が強まれば物価には厄介な問題だ。一応、今後を見守りたい。

あくまでデータ次第だが、ECBは追加利上げの選択肢を維持する必要性が高いと筆者はみている。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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