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メキシコ中銀、据え置きの裏にある複数の検討課題
梅澤 利文
2026/09/29

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概要

メキシコ中銀は9月会合で政策金利を据え置いた。FRBの動きに機械的に追随しないと強調した。インフレは目標レンジ内だがリスクは上振れ方向で、コアCPI高止まりや通商・地政学リスク、ペソ安などを警戒している。一方、4-6月期のGDP成長率は加速した。AI需要を背景としたサーバー輸出増加により貿易収支は改善傾向にある。しかしUSMCA見直し交渉を前に対米貿易黒字拡大が懸案となりそうだ。




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メキシコ中銀の9月会合は、全会一致で、市場予想通りに据え置き

メキシコ銀行(中央銀行)は9月24日に開催した金融政策決定会合(会合)で、市場予想通り、政策金利6.50%に据え置くことを決定した(図表1参照)。政策金利の据え置きは3会合連続となる。メキシコ中銀は声明文で、今回の決定は5人の理事の全会一致の決定と述べている。

メキシコ中銀は2024年3月の会合で政策金利を11.25%から11.00%へ引き下げた。2回目の利下げは同年8月と間隔はあいたが、その後は今年5月まで概ね利下げを続けてきたが、足元では据え置きとしている。次の一手は利下げ再開なのか、それとも利上げに転じるのか。インフレ動向などメキシコを取り巻く環境はその判断を難しくしている。

メキシコ中銀は物価リスクを両サイド見ているが、やや上振れリスクを懸念

9月のメキシコ中銀の声明文で筆者の目に付いたのは「メキシコのマクロ経済環境は米国とは異なるため、金融政策は米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利の変更予測に対して、機械的に追随する必要はない」の箇所だ。当然ながら、前回会合(8月)の声明文にはみられない文言だ。

メキシコ中銀の「追随する必要はない」という指摘はもっともだが、地理的にも経済的にも近い米国の9月の利上げを全く意識しないこともないだろう。

メキシコの経済環境を見るとややインフレ上振れリスクが、下振れリスクを上回ることが懸念されている。ただし、メキシコは米国との間に通商問題など不透明要因があり景気への配慮も必要だ。金融政策には選択肢を残したい面もあるようだ。

メキシコの物価状況を確認する。8月のメキシコの消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.26%上昇し、変動の品目を除いたコアCPIが3.88%上昇した。ともに物価目標(3%±1%)の中心値を上回っているが、範囲に収まっている(図表2参照)。物価見通しでは、2027年10-12月期に物価目標の中心値に向け鈍化するというシナリオは変わらない。ただし、総合CPIは2026年7-9月期を3.5%から3.3%へ下方修正した一方で、コアCPIは2026年7-9月期と10-12月期を0.1%幅で上方修正した。メキシコ中銀はインフレリスクについて上振れ要因として、コアCPIの高止まり、貿易政策に起因する混乱(後述)や地政学リスクによるインフレ圧力、気候要因、コストプッシュ圧力、ペソ安などを挙げた。一方、下振れ要因として、経済活動の減速、控えめな価格転嫁、ペソ高を挙げている。そのうえで、メキシコ中銀は物価のリスクバランスは上振れ方向と明確に指摘している。なお、ペソは両サイドのリスクがあるが、図表1にあるように、足元の大幅なペソ安に注意が必要だろう。

次に、メキシコ経済の注目点を確認する。メキシコのGDP(国内総生産)成長率は4-6月期が2.1%増と、前期の0.2%増を大幅に上回った。農業などの第1次産業からサービス業などの第3次産業まで幅広く改善が見られた。ただし、4-6月期の伸びはメキシコの長期的な平均成長率に比べ高いわけではないうえ、今回の成長率の改善の一部には6月に開幕したサッカーのワールドカップの特需も含まれ、解釈に注意が必要だ。また、声明文が指摘するように7-9月期の景気は鈍化傾向だ。

一方で、メキシコ経済を潜在的に押し上げる可能性がある要因もある。AI需要による輸出拡大だ(図表3参照)。メキシコの貿易収支は7月こそ8.5億ドル程度の赤字だったが、傾向としては改善傾向だ。12か月移動平均は昨年から概ね上向きとなっているが、その背景としてAI需要を受けたサーバー輸出などの急拡大が挙げられる。

メキシコの輸出は自動車産業が主軸であったが、自動車輸出が関税の影響などで伸び悩む一方、AI関連輸出が急拡大している。AI関連輸出額は自動車・同部品の輸出額(26年上半期で748億ドル)を上回ったとの報道もある。AI需要はメキシコ経済を下支えする可能性も考えられる。

メキシコ、対米輸出拡大もあり、通商交渉の先行きは不透明

ただ、AI需要に伴うメキシコの輸出拡大には懸念もある。まず、貿易構造として海外から部品を輸入して組み立てて再輸出という保税加工であることだ。従来の輸出構造と変化はない。問題はメキシコ国内への付加価値が安定的に拡大するのか不透明なことだ。7月の貿易収支の赤字は(輸出に必要な)中間財の輸入拡大が背景とみられる。

次に、より懸念されるのが対米貿易黒字の拡大だ。メキシコのAI貿易(輸出)が拡大したのは、米国に地理的に近い生産拠点(ニアショアリング)が原動力とみられる。結果として、対米貿易黒字は拡大傾向で、7月は約263億ドルと、前年比で60.7%増加した。メキシコは米国とUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の「見直し」交渉の渦中にある。米国は二国間協議を柱に交渉を進める意向だが、9月交渉の日程が10月に延期されるなど不透明感が強いままだ。通商交渉のメキシコ経済に与える影響は大きいだけに、メキシコ中銀も政策の自由度を保ちたい局面と思われる。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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