Article Title
フランスの国民議会選挙、争点はインフレ
梅澤 利文
2022/06/21

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

4月の大統領選挙で再選を果たしたフランスのマクロン大統領ですが、国民議会選挙ではマクロン大統領が率いる与党連合が異例の過半数割れとなりました。インフレ進行に対する政策運営に厳しい審判が下りました。もっとも、野党も極右と左派がそれぞれ票を伸ばすなど一枚岩ではないようですが、それでも、マクロン大統領には政策運営の見直しが求められそうです。



Article Body Text

フランス国民議会選挙:与党は過半数割れの大敗、左派と極右政党が躍進

 フランスでは、2022年6月19日にフランス国民議会(下院、577議席)の決選投票が投開票されました。マクロン大統領が率いる与党連合(アンサンブル)は議席を大きく減らし、過半数(289議席)を下回りました(図表1参照)。

仏内務省によると、与党連合の議席数は改選前の346議席から245議席に減った模様です。一方で、急進左派「不服従のフランス」のメランション党首が率いる中道左派・左派政党からなる左派連合は暫定議席が131議席と第2勢力となりました。マクロン大統領と4月に大統領選挙を争ったルペン党首率いる極右政党の国民連合(RN)は改選前の6から89まで大幅に議席数を積み上げました。

どこに注目すべきか:国民議会選挙、ハングパーラメント、インフレ

 今回のフランス国民議会選挙はマクロン大統領にとり大変厳しい結果です。フランス大統領として数十年ぶりに議会で絶対多数を確保できなかったという歴史的な大敗です。また、現職閣僚が3人落選し、内閣改造も必要になる見込みです。大統領府当局者は以前、落選した閣僚は辞職しなければならないと述べていましたが、19日にはドモンシャラン環境相が辞意を表明しています。

そもそもフランスでは、与党(大統領)が議会の過半数を確保しやすい仕組みといわれています。大統領の出身政党と議会の多数派政党が食い違う事態を出来る限り回避するための工夫が見られます。第1回投票と決選投票の2段階で構成することで、国民議会選挙は大統領の出身政党や支持会派に有利な中での選挙戦で過半数割れとなったことに、今回の選挙結果の深刻さが示されています。

もっとも、選挙後の市場の反応をみると、フランス株式市場の上昇が他の欧州株式市場に比べ鈍いことや、フランス国債利回りが対ドイツで上昇するなどの影響は見られましたが、比較的冷静です。マクロン苦戦は選挙前までにある程度織り込まれていたと見られます。

また、与党が策定する定年引き上げや年金改革などの政策を単独で推し進めるのは困難としても、政権運営のため共和党などの閣外協力等を模索すると見られます。なお現段階で共和党は協力関係に否定的ですが、選挙は終わったばかりで今後の展開が注目されます。

今回の選挙結果は何れの勢力も議会の過半数を確保できない(ハングパーラメント)状態でこれは市場予想通りです。最も懸念されるシナリオである、大統領の政党と議会の最大政党が異なる(コアビタシオン) 事態は回避された中、当面は新たな組閣と、閣外協力などを見守ることとなりそうです。

今回のフランス国民議会選挙で最大の争点はインフレと見られます。フランスのインフレ率は欧州連合(EU)基準の指数で5月が前年同月比5.8%となっています(図表2参照)。なお、フランスの賃金の伸びは1-3月期が前期比1.1%と足元上昇しています。ようやく賃金が上がり始めた段階で、生活は苦しいと思われます。今回議席を伸ばした左派連合のメランション党首は最低賃金の引き上げなどを訴えています。極右のルペン党首は生活必需品の付加価値税をゼロ%とすることを訴えています。仮にこれらの政策を選択すれば市場の洗礼が危惧され、実現性は乏しいと見られます。ただ、これだけの票を集めた意義は重く、従来以上に物価対策が求められそうです。加えて、マクロン大統領は政策ごとに各政党や勢力と協力関係を模索する政策運営が迫られています。これまで独善的と評されることが多いマクロン大統領ですが、早急に政策スタイルを見直すことが必要と思われます。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが