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ECB、7月に利上げ開始した場合のシナリオ
梅澤 利文
2022/06/27

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概要

ユーロ圏も7月からインフレへの対応として利上げを開始し、9月には利上げペースを引き上げることが想定されます。ただ、ユーロ圏の景況感の回復に黄色信号も見られます。景況感悪化の背景の中にはインフレによるコスト高も含まれ、インフレ対応への姿勢は維持されるとしても、9月より後の理事会における利上げペースは柔軟に想定する必要がありそうです。



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ユーロ圏景況感指数:センチメント悪化を受け、6月の景況感指数は市場予想を下回る

 ドイツ(独)のIfo経済研究所が2022年6月24日に発表した6月の独Ifo企業景況感期待指数は85.8と、市場予想の87.4、前月の86.9を下回りました(図表1参照)。ロシアからのエネルギー供給に対する懸念が強まり、ドイツ経済のリセッション(景気後退)入りの可能性が懸念されています。

S&Pグローバルが6月23日に発表したユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)速報値によれば、6月の総合PMIは51.9と、市場予想の54.0、前月54.8を下回りました。指数の内訳を見ると、ユーロ圏の製造業、サービス業PMI共に市場予想を下回りました。

どこに注目すべきか:ECB、利上げ、断片化、インフレ、景況感

 欧州中央銀行(ECB)の6月政策理事会に向け、ユーロ圏国債市場ではECBの利上げを織り込み徐々に国債利回りが上昇傾向でした(図表2参照)。政策金利の動向を反映しやすい償還までの期間が2年の国債利回りは、ユーロ圏はマイナス金利から脱却することを示唆しています。

6月の政策理事会の後、ユーロ圏の2年国債利回りの変動が高まっているように見受けられます。この変動の背景はECBの金融政策を巡る思惑が考えられます。議論を整理し、今後の見通しを述べます。

6月のECB政策理事会で、7月の0.25%の利上げと、インフレに低下が見られない場合、大幅な利上げとの表現で引き上げ幅を0.5%とすることを示唆しました。9月の大幅利上げの可能性を受け、ユーロ圏の国債利回りは上昇しましたが、上昇に拍車をかけたのがイタリアやギリシャ(周縁国)など財政基盤の弱い国の国債利回りの急上昇(断片化)でした。6月の理事会では断片化に対し具体的な対策を言及しなかったことが周縁国国債の利回り上昇の背景と見られます。ECBが15日に緊急会合を開催し、断片化対策の導入に言及したことで市場は断片化への懸念を和らげました。

別の利回り上昇要因は、ユーロ圏のインフレ懸念を受け、7月の利上げ幅として0.5%を市場の一部が織り込んだことです。7月月初公表予定のユーロ圏の6月のインフレ率は5月を上回ることが見込まれるなど、ユーロ圏のインフレ悪化が懸念されます。ただ、ECBのデギンドス副総裁は0.25%の利上げを支持し、市場の一部にある0.5%の利上げは明確に否定しています。市場でも0.5%の織り込みを見直す動きが見られ、7月は0.25%の利上げとなる可能性が高そうです。

一方、9月の利上げについて市場では0.5%を見込んでいます。ユーロ圏のインフレ率は7-9月期に向け上昇が予想されていることもあり、ECBは金融引き締め姿勢を維持すると見られます。9月についてはインフレ率の動向次第ながら、0.5%の利上げがメインシナリオと見られそうです。

ただ、ユーロ圏の景況感が悪化していることは気がかりです。これまで、ユーロ圏はこの夏は経済活動の再開期待から、旅行などサービス消費への回復期待が高まっていましたが、6月のユーロ圏のサービス業PMIは52.8と期待倒れの数字でした。また、ロシアの軍事侵攻は長期化しており、コスト高などを背景にビジネスセンチメントに悪化が見られます。

市場では10月の会合でも一部はインフレ懸念などを背景に0.5%の利上げを見込む動きが見られます。しかしながら、ユーロ圏の景況感にはこの先注意も必要であることからECBは10月以降の理事会では、利上げペースを0.25%もしくはペースダウンする方向に転じる可能性も考えられそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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