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日銀正副総裁所信聴取のポイント
梅澤 利文
2023/02/20

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概要

日銀の黒田総裁の後継候補である植田和男氏と、副総裁候補の内田真一日銀理事と氷見野良三前金融庁長官に対する所信聴取の日程が公表されました。所信聴取では、具体的な政策運営の内容に言及しない可能性はありますが、考え方である所信から、金融政策の方向性が浮き彫りとなる可能性もあり、今週の注目イベントであると見ています。




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日銀正副総裁の所信聴取、衆院議院運営委員会は24日開催予定

衆院議院運営委員会は2023年2月16日の理事会で、次期日銀総裁に植田和男氏を充てる国会同意人事案を巡り、総裁・副総裁候補の所信聴取を24日に実施することとしました。参院議運委は所信聴取の日程を引き続き協議しています。なお、副総裁候補の内田真一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官についても24日午後に所信聴取が行われる予定です。

所信聴取は本人の同意を得られれば(インターネットで)中継する段取りです。植田氏はマネー関連の指標とインフレ率について黒田総裁とは異なる見解をもっていると見られるだけに注目が集まりそうです(図表1参照)。

所信聴取は就任が想定される植田氏の考え方を確認する機会

所信聴取を字義通りに解釈するならば(経済や金融などについて)正しいと信じることを聞く機会、というイメージでしょう。そのため市場が知りたい金融緩和政策変更の時期など具体的な政策についての発言を控える可能性があります。

しかし、考え方の表明であっても、今後の政策を占ううえで重要なヒントが示される可能性もあります。そこで所信聴取でのポイント、もしくは明らかにしてほしい点などを以下に述べます。

まずはマネタリズムについてです。13年に日銀総裁に就任した黒田総裁はマネーの供給を増やせば長期的にインフレ率は上昇するマネタリズムの考えが強かったように思われます。実際、日本銀行券発行高と貨幣流通高に加えて日銀当座預金の合計となるマネタリーベースは黒田体制後に急増しています。しかし、図表1にあるように物価目標2%を安定的に超えたことはないと見られます。なお、1997年や2014年は消費税による押上げ効果がありましたが、これを調整したベースでみると、物価目標を下回り続けたことがうかがえます。

一方、植田氏の過去のコメントなどから、物価は需要と供給で決まるという考え方とみられ、マネタリズムには否定的と思われます。所信聴取では、この点が明らかになることを期待しています。

なお、物価が需要と供給で決まるとしても、現在のインフレは需要が弱い中で、エネルギーや食糧価格などの供給側の原因で物価が押し上げられていると考えるなら、黒田総裁と同じように結果として金融緩和姿勢を現段階では維持することを正当化することも考えられます。

次に、金融政策により近い内容として、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策、マイナス金利脱却についての考え方なども興味のある点です。最近の報道でもアンケートに参加した市場関係者全員が年内のYCC見直しを予想しています。ただし、見直しの内容はYCC撤廃から、変動幅の変更まで様々です。所信聴取では政策変更について具体的な説明はないかもしれませんが、ニュアンスは伝わるかもしれません。注目しているのはYCCの効果と副作用に対する植田氏の認識です。効果と副作用が分かれば、YCC政策の今後を占うヒントになることも期待されるからです。

そして効果と副作用の認識をマイナス金利政策についても知りたいところです。マイナス金利とYCCの副作用が同じ問題を抱えているならば、セットでの対応も考えられます。しかし、切り分けられるならば、別対応というシナリオが浮かび上がります。市場もメインシナリオは、まずYCCを見直し、マイナス金利脱却はその後と見込んでいるようです。両政策の効果と副作用に対する認識が明らかとなれば、今後のシナリオも描きやすくなると思われます。


世界経済、中でも米国経済の動向は金融政策運営を左右すると見られる

グローバル経済見通しについての考え方も今後の政策運営に影響すると見られます。所信聴取が予定されている24日には日本の全国消費者物価指数(CPI)が公表予定です。1月は前年同月比で4.3%が予想されています。物価は需要と供給で決まると考える植田氏が日本のインフレをどのように分析しているのか興味のあるところです。

グローバル経済、とりわけ米国の経済とインフレ見通しも重要です。例えば、YCCの見直しや出口戦略では円高や日本国債の利回り上昇を抑える配慮が求められます。望ましいのは米国のインフレが落ち着き、日米の金利差も安定もしくは縮小であれば比較的出口戦略に取り組みやすい市場環境と見られます。

反対に、米国のインフレ懸念が高まり、米国が引き締めを強め、結果としてその後米国の景気が悪化するようなシナリオでは、日本が引き締めに相当する出口戦略は口に出しにくいかもしれません。米国経済に対する見解も知りたいところです。

なお、政府と日銀の政策連携を示した共同声明の見直しは、仮に植田新総裁が誕生すれば可能性はあると思われますが、所信聴取の場では優等生発言にとどめると思われます。

植田新総裁が選出されるかはこれからの話ですが、就任前から黒田路線継続という冷めた意見もあるようです。市場に影響される金融政策ゆえ、結果として何も変わらないという可能性は否定はできません。しかし、植田氏は黒田総裁と考え方に違いもあるようです。植田氏以外の総裁候補の中には黒田路線を引き継ぐ可能性が高い方もいましたが、そのような人が選ばれなかったのは、少なくとも選択肢として、現在の日銀の金融政策を見直す必要性を残したものと考えます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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