Article Title
波乱の相場の乗り切り方
市川 眞一
2020/03/17

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

新型コロナウイルスの感染が米欧に広がるなか、リスクオフの動きが世界に広がっている。米国経済のファンダメンタルズを見ると、景気の堅調さを示す指標は少なくない。しかし、新型コロナウイルスによる影響が予測不能な上、米国大統領選挙、サウジアラビアの増産による原油価格の低下も市場の不透明感を一段と濃くする要因だ。また、米国において確認された感染者の数が大幅に増加しているにも関わらず、トランプ政権が、新型コロナウイルスに対して有効な感染拡大抑止策を打ち出せていないことも、国際金融市場の不安心理を増幅しているのではないか。トランプ大統領は、3月13日、国家非常事態を宣言、ようやく新型コロナウイルス問題へ本格的に取り込む姿勢を見せた。また、FRBはゼロ金利政策を採用し、量的緩和を強化している。もっとも、長期金利は既にゼロ金利政策を織り込むレベルで、金融政策は市場の後追いの感が強い。現下の不確定リスクの折り重なるマーケットにおいて、下値を正確に予測することは不可能だ。こうした局面においては、時間分散の効果に着目すべきではないか。



Article Body Text

市場が波乱の時こそ、まず経済のファンダメンタルズを再確認する必要がある。その上で、リスク要因を分析することが肝要だ。現時点での最大のリスクは新型コロナウイルスだが、それ以外にも米国大統領選挙、原油価格が挙げられよう。株価の急落は、不安心理が増幅するなかで、高いバリュエーションを金利で支えられない状態に陥ったことが要因と考えられる。

3月6日に発表された2月の米国雇用統計では、非農業雇用者数が市場予想の前月比17万5千人増を大きく上回る27万3千人増だった。6ヶ月移動平均も23万1千人に達し、景気の好不調の節目とされる20万人を大きく超えている。少なくとも2月の時点では、米国の雇用市場は底堅かったと言えるのではないか。

米国供給管理者協会(ISM)が5日に発表した非製造業景況感指数は、前月に比べ1.8ポイント上昇の57.3だった。これは、2018年11月以来の高水準である。米中通商戦争により、米国経済では産業部門の減速が懸念されてきた。しかしながら、今回のISMレポートは、製造業、非製造業共に回復基調にあったことを示唆している。

現下のマーケットにおける最大のリスク要因は、米国内での新型コロナウイルス感染者拡大だろう。トランプ政権は、経済対策には積極的だが、肝心の感染拡大抑止に関して有効な手を打てていない。トランプ大統領の就任以来、最初の大きな危機とも言える新型ウイルス問題は、同大統領の危機管理能力にも疑問の影を投げ掛けているのではないか。

市場にとっては、サウジアラビアによる原油の増産も不意打ちだった。その背景にあるのが、米国のシェール石油の存在だろう。サウジなど主要産油国が減産を続けているなか、着実に生産量の伸ばし、シェアを奪ってきた。サウジは、増産で低価格下の持久戦により、シェール石油を淘汰する意向と見られる。当面、エネルギーは世界のデフレ圧力となりそうだ。

米国の10年国債利回りは一時0.5%台まで低下した。これは、景気後退を見込んだ水準と言えるだろう。FRBは3月15日に実質ゼロ金利政策を採用したが、これはタイミングのサプライズはあったものの、市場においては既に規定路線だったと言えるだろう。金融政策だけで市場にポジティブに受け止められることはなさそうだ。

金融市場におけるリスクへの感応度を見る上で、翌日物金利と3ヶ月、6ヶ月などターム物金利との比較は有効だろう。足下、スプレッドは急拡大しており、市場のリスク選好度が落ちていることが明確に示されている。新型コロナウイルスの感染抑止なくして、米国の金融市場が正常化するのは難しい状況となった。

正直なところ、新型コロナウイルス問題が収束する時期は読めない。また、サウジアラビアが持久戦により米国のシェール石油を淘汰したいのであれば、原油価格は低位安定の状況が続く可能性が強い。それは、デフレ圧力であるだけでなく、オイルマネーの減少も意味するのではないか。こうした局面において、株価の下値を予測することは難しいだろう。

市場の不透明感が強い時こそ、投資の原点に回帰すべきと考える。資産別の分散投資が難しい場合、時間分散が有効なのではないか。一例だが、日経平均の最高値である1989年12月末から毎月末に1万円を投資して日経平均を購入してきたと仮定すると、平均購入単価は1万4千円台となる。厳しい相場環境でなお益が出るのは、時間分散効果と言えるだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京はアジアの金融ハブになれるか?

新たな中東情勢下での原油価格の行方

少子化対策が資産運用を迫る理由

マイナス金利解除と円安

『トランプ政権』のリスク