個人金融資産運用への提案 | ピクテ投信投資顧問株式会社

個人金融資産運用への提案 市川眞一 グローバル 日本

今週のサマリー

1961年、日興証券(当時)の静岡支店長が「銀行よさようなら、証券よこんにちは」とのキャッチコピーを考案してから、「貯蓄から投資へ」の必要性が繰り返されて来た。しかし、個人金融資産の構成は現預金中心から大きくは変化していない。米国や欧州と比較しても、日本の家計のポートフォリオは低リスク・低リターンが際立っている。それは、1990年代以降、デフレ状態が続くなかで、資産価値を維持し、購買力を高める上では正しい選択だった。しかし、日本経済は2つの点で大きな転換期を迎えているのではないか。その1つは、これまでも指摘されてきた人口減少と高齢化、長寿化、そして生産性の持続的低下だ。もう1つは、将来におけるインフレのリスクである。アベノミクスの下、日本では日銀が「量的・質的緩和」を続けており、大量のマネタリーベースが供給されてきた。新型コロナウイルス禍で、米欧も極めて大胆な量的緩和を実施している。これは、足下の信用不安回避に大きく貢献する一方で、将来における通貨下落、即ちインフレの温床なのではないか。日本の個人金融資産のポートフォリオは、デフレ対応型からインフレ対策型へ転換する必要があるだろう。

資産のポートフォリオ構築に当たっては、現状の分析と将来の見通しに基づき、何を目指すのか目的を明確にする必要がある。「貯蓄から投資へ」と言われて久しいが、一般の市民に響かなかったのは、デフレ下でその必要がなく、証券会社の営業トークにしか聞こえなかったからだろう。問題は、将来を考えた時、現状のままで良いのか、変えるべきなのかである。

2019年末、個人の金融資産は1,903兆円、住宅ローンなど金融負債は312兆円、純資産は1,591兆円だった。資産のうち、52.9%を現金・預金が占めている。この負債が少なく現預金が多いポートフォリオは、デフレ期には明らかに正しい選択だった。リスク性資産の価格上昇が鈍く、物価下落によってキャッシュの購買力が大きく向上したからだ。

米国の場合、個人金融資産のポートフォリオは、現預金のウェートが12.9%に過ぎない一方、株式等が34.3%、投資信託が12.0%に達している。米国ほどではないが、ユーロ圏も株式等の比率は日本の倍近く、その一方で現預金比率は34.0%に留まった。米欧に比べ、日本の家計のポートフォリオは低リスク・低リターンの構成と言えるだろう。

一般に負債が少なく、手元流動性が厚いバランスシートは、不測の事態下での耐久力が強く、且つデフレに対応したポートフォリオである。しかし、当然ながらインフレ期において購買力が急速に低下しかねない。つまり、日本で「貯蓄から投資へ」が求められるか否かは、将来におけるインフレの発生確率に大きく依存するだろう。

家計の金融資産・負債を年齢構成で見ると、40代までは純負債の状況だ。これは、住宅ローンが主な理由だろう。一方、個人金融資産総額のうち、60%程度を50歳以上の中高齢者が保有している。60代、70代で金融資産が増加するのは、退職金を受け取ったことが要因と考えられるが、デフレ期にはその購買力拡大が個人消費を下支えた。

世代別の金融資産のポートフォリオを見ると、どの年齢層も現預金比率は50〜60%程度となっている。一方、株式等については、年代が上がるとウェートも増加しているものの、顕著な差とまでは言えない。つまり、日本の金融資産は世代を問わずデフレ対応型のポートフォリオとなっており、資産運用に消極的な国民一般の姿勢を示している。

リーマンショック後、FRBはQE1〜3を通じて大量の流動性を市場に供給した。新型コロナウイルス禍では、より大胆な量的緩和を実行、市場や社会の不安抑制に大きく寄与している。ただし、経済が正常化する過程において、激しいインフレを起こさないためには、適宜、マネタリーベースを回収しなければならないだろう。それは極めて難しいオペレーションだ。

FRBのみならず、新型コロナウイルス禍への対応で主要中央銀行はマネタリーベースの供給を強化した。このスムースな回収が非常に難しいことは想像に難くない。バランスが崩れれば、金利の急騰や通貨の大きな変動、株価の下落を通じて、経済を失速させかねないからだ。結局、往々にして引き締めは遅れ、インフレを招くことになる。

日本の家計が持つ金融資産の構成は、デフレに対応するには優れたポートフォリオだ。しかし、強度のインフレには極めて脆弱な構造で、短期間に購買力の急低下を招くだろう。新型コロナウイルス禍を通じ、主要中央銀行が大量にマネーを供給、経済が正常化してもそのスムースな回収は難しいと見られる。そうした長期的なインフレのリスクを意識すれば、日本の家計の金融資産ポートフォリオは、インフレ対応型へ大胆な見直しが必要なのではないか。

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