世界の富裕層に支持されてきた
「目利き力」とは?
世界の富裕層に支持されてきた
「目利き力」とは?
世界の富裕層に支持されてきた
「目利き力」とは?
第1回
マルチ・アセット(スイス)運用チーム・ヘッド
エリック・ロセ
歴史や文化は、「目利き力」の源泉
ー200年を超えて語り継がれてきたピクテの思想とは、どのようなものだと思いますか?
1805年にピクテが創業されてから、起業家精神は常に重視されてきました。そして、それは今も成長し続けています。
私たちの仕事は、顧客の資産を守ることで、それに尽きるといっても過言ではありません。
そのために、用心深くあることも非常に重視されてきました。ピクテは、常に用心深くあり続けることで、実際に顧客の資産を守ってきたのです。
私はこの起業家精神や、顧客の資産を守るための用心深さが、200年を超える長い歴史の中で脈々と引き継がれてきたピクテのDNAであると考えています。
ーエリック自身も、先輩の運用者や経営者から実際に何かを語り継がれましたか?
他の運用者たちも、ピクテの精神に共感し、それを守ろうとしています。
私たちは、他者を尊敬すること、プロフェッショナルであること、顧客の利益を守ることに全力を注ぐことを特に重視しています。
私自身、このような考え方を他の運用者から語り継がれました。1805年の創業以来、世代を超えて語り継がれてきた普遍的なピクテの遺伝子です。
今でも、このような文化を次世代へ引き継ぐことは強く意識しています。
ーピクテは、少数のパートナーが出資をして共同で経営を行うパートナー制が特徴ですが、これによりどのような企業文化が醸成されていると思いますか?
ピクテの社員は一人一人がアイデンティティを持ち、ピクテの成功に貢献したいという強い思いがあります。
これは、起業家精神にも通じるものがあります。私は、パートナー制による経営形態は、起業家精神の文化を形成していると思っています。
私はパートナーではありませんし、そうでない人がほとんどですが、社員はピクテへの帰属意識を持ち、ただの一社員ではなく、ピクテのために何か出来る事がある、という自覚を持って働いているのです。
このことは、ピクテの離職率の低さにも関係していると思います。
パートナー制が醸成するこのような文化により、社員は会社に愛着を感じ、それが良い仕事につながっているのだと思います。
(上段左から)フランソワ・ピクテ、レイモンド・サガヤン (当局承認待ち)、マーク・ピクテ、セバスチャン・エサンジェ、エリフ・アクトゥグ、スヴェン・ホルステンソン、(下段左から)ロゴン・ラムゼイ、ルノー・ドゥ・プランタ(シニア・パートナー)
©Guillaume Megevand for the Pictet Group
「目利き力」の本質に迫る
ー数ある資産を目利きするプロとして求められる能力は何だと思いますか?
まず何よりも、資産運用に精通し、結果を出すことが重要です。
そのためには、投資のプロセスを熟知する必要があります。ここの理解が十分でないのに、目利きのプロを名乗ることはできません。
目利きのプロは、マーケットや経済指標、投資のプロセス、流動性などの重要な要素に常に集中し、よく理解することが求められます。
重要なことは、自分の専門分野において、誰にも負けない専門家であろうと努力するべきです。
例えば私の場合は、アセットアロケーションについては良く理解していますが、スイス株式については専門家ではありません。それでいいのです。
自分の専門分野にしっかり集中し、誰にも負けない専門家になること。この「集中力」が、目利きをするプロに求められることだと思います。
ーエリックの目利き力は、ピクテに入社してからどのように進化していますか?それは、他社では得られなかったと思いますか?
私の目利き力は、ピクテに入社してから大きく進化していると思います。
ピクテは、「適材適所」を重視してチームを構成します。様々な専門分野を持つプロフェッショナルを、それぞれ適切なチームへ配置するのです。
それから、各人が持つ専門知識を共有し、チームで結果を出すために協力します。もしチームに必要な知識を持つプロがいなければ、会社中から探してきます。このように専門知識を共有することで、様々な知見を得ています。
また、私たちは毎日、「より良い結果を出すために今日は何ができるのか」と自問自答します。時には、チームのメンバーにも質問します。このような、冒頭で述べた起業家精神にも通じるピクテの文化は、私たちの目利き力を日々進化させています。
このような背景があるピクテの目利き力は、他社で獲得することは非常に困難であると言えるでしょう。
如何にお客様の資産を守るか
ー危機的状況下で、目利きのプロとしてお客様の資産保全に貢献した具体的な経験を教えてください。
記憶に新しいところでは、2020年は市場が非常に大きく動いた1年となりました。
原因は、もちろん新型コロナウイルスです。まず最初に中国で感染が広がり、それから世界へと拡大していきました。
マーケットが不安定になるなか、株式の保有比率を引き下げ、損失を最小化するように努めました。私はチームのヘッドとして、とにかく早く行動することを優先しました。
同僚からは、「もう少し様子を見てみては?」という意見もありましたが、私はすぐに行動に移しました。過去の経験から、このような難しい局面では早く行動することが重要であることを知っていたからです。
ピクテには、45年の運用経験があるベテランの運用者もいます。彼と話すことで、危機的な局面を乗り越えてきた知恵や経験を知ることができます。彼のような人材は、会社にとって非常に大きな資産となります。
このように知恵や経験を皆で共有し、継承するピクテの文化は、昨年の危機局面でも、お客様の資産保全に貢献することが出来た大きな要因の1つであると思います。
ーお客様の資産を守るために、今の市場環境で敬遠している資産はありますか?
私たちは、合理的な値動きをする資産を保有します。非合理的で理解できない資産は、保有しません。
例えばビットコインは非合理的な資産の一例であると考えています。ビットコインの価格は、株式や債券の値動きとどのように関係しているのか、特定の市場局面で、どんな値動きをするのかが見えないからです。
私たちは、全ての投資対象資産について、これらのことをよく理解しています。私たちのポートフォリオに、ドラマチックな展開は必要ありません。
ですが、今後理解が進むと認識が変わる可能性はあります。例えば10年前は中国の株式は保有していませんでしたが、今では流動性や市場へのアクセスの観点でも改善が見られ、理解が深まったので保有しています。
このように、私たちが完全に理解していると確信を持てない資産には投資をしません。
根底にある「サステナビリティ」
ー資産を目利きする際は、ESGの観点を考慮していますか?
まず、ピクテには「サステナビリティ」という考え方が根付いています。
これは、現在もピクテが本社を構えるジュネーブの歴史に深く由来する考え方なのですが、2世紀を超えた今も尚、ピクテの経営や運用の哲学に深く刻まれ受け継がれています。ジュネーブ育ちの私も、このような思想や文化の継承は感じています。
ですので、お客さまに対してはもちろん、地球環境や社会に対するサステナブル(持続可能)な投資は、大原則として行われてきました。
ですから、ESG投資についても、ポートフォリオ構築において大きな役割を担っています。
一例として、環境をテーマに投資する株式ファンドも保有しています。
気候変動などの環境に関する課題がどのように影響を与えるかという観点や、各国や地域の環境に対する取り組みについても注目しています。
例えば、中国は排出ガスや気候変動などによる影響が大きい国の1つであり、中国政府は、電気自動車を普及させる政策を打ち出すなど、積極的に環境問題に対して取り組む姿勢を見せています。
投資という観点で、これらがどのような結果をもたらすかについて注目し、ポートフォリオに反映させています。
余談ですが、ジュネーブに住む人々は環境への意識が比較的高いと思います。我が家も、地熱発電の仕組みを導入したり、屋根にソーラーパネルを置くなど、ささやかですが地球環境を意識した住まいです。
エリック・ロセ
マルチ・アセット(スイス)運用チーム・ヘッド
ジュネーブ大学で経済、ファイナンスを学んだ後、スイス銀行コーポレーションでプライベートバンク部門のファンド・マネジャーを6年間勤める。1995年ピクテ入社。スイスの資産を中心としたファンドをはじめとするマルチ・アセット・ファンドの運用に従事。全世界で投資信託の分析・情報提供を手がけるリッパー社より、運用するスイス・マルチ・アセット・ファンドが2014年を含め過去数回、ベスト・ファンド賞を受賞。
運用経験年数 34年