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実現した Brexitの考え方
市川 眞一
2020/02/07

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概要

1月31日、英国は正式にEUから離脱した。ここまでのボリス・ジョンソン首相の手腕はお見事と言う他ない。ただし、英国にとって本当の正念場はこれからだ。まずは年内にEUとの間で新たな通商協定を結ばなければならない。ジョンソン首相は楽観的な見方を示しているが、英国にとって有利な協定は、EU域内の極右やポピュリストなど反EU勢力を勢い付かせることになる。従って、EUの交渉姿勢は厳しいものになる可能性が強い。また、2018年、英国は米国に対して458億ポンド(6兆5千億円)の貿易黒字を計上した。これまでは、加盟28ヶ国を代表してEUが米国との通商協議を行ってきたが、これからは米英2国間協議となる。トランプ政権は、英国に貿易不均衡是正へ強い圧力を掛けるだろう。1993年のマーストリヒト条約発効以降、英国への移民流入は大幅に増えた。これが、英国国民がBrexitを選択した大きな理由だが、英国の失業率の低さから見れば、移民が仕事を奪ったとの証拠は少ない。英国、そして英国国民にとっては、これから本当にBrexitの判断が正しかったのか、自らに問う局面になりそうだ。



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2019年7月、ジョンソン首相が就任して以降、議会の閉鎖など強硬策を交えながら、EUと離脱案で合意、12月の総選挙では与党が圧勝した。幸運にも恵まれたが、その手腕は賞賛すべきだろう。ただし、英国が本当にEUから離脱する具体的な内容を詰めるのはこれからだ。EUとの通商交渉に加え、米国や日本とも2国間協議の矢面に立たなければならない

2018年、英国のEU加盟国に対する貿易収支は640億ポンド(9兆1千億円)の赤字だった。うち3分の1は対独である。一方、非EU国には331億ポンド(4兆7千億円)の黒字だ。この数字を見ると、EU離脱は賢明に見えるかもしれない。しかし、対米黒字が458億ポンド(6兆5千億円)に達するなか、英国はEUに頼ることなく、自らトランプ政権と通商協議をする必要がある。

マーストリヒト条約(EU統合条約)発効前、英国への移民は年間13万5千人程度だった。2017年までの10年間は、年平均45万5千人だ。この大量の移民は、英国の生産力を押し上げ、消費に貢献したと考えられる。ユーロ危機以降、英国経済が相対的に安定していたのは、自国通貨を維持していたことに加え、移民の貢献も大きかっただろう。

2016年6月のBrexitを問う国民投票で、英国国民はEUからの離脱を選択した。「移民に仕事を奪われた」と感じる国民が多かったことも理由だ。もっとも、足下における英国の失業率は3.9%であり、EU平均の6.3%を大幅に下回る水準にある。移民が英国国民の仕事を奪ったとの証拠は乏しく、むしろ英国経済の活性化に貢献してきたと言えるのではないか。

米国景気、特に産業部門の減速下にも関わらず、日米株式市場が上昇した背景は、中央銀行による金融緩和だろう。昨年、FRBが再び緩和基調へ姿勢を転換できたのは、期待インフレ率がFRBの目標とする2%に届いていないからだ。つまり、期待インフレ率が上がり、長期金利が上昇すれば、この金融相場は終わると考えられる。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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