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米国市場:成長株相場は終わったのか?
市川 眞一
2020/09/29

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概要

新型コロナ禍から米国株式市場が立ち直る相場を牽引したIT系中心の成長株が、足下、大きく揺れている。歴史的に見て高水準にあるバリュエーションを支えてきたのは、社会・経済の変化の担い手としての期待に加え、FRBによる金融政策、即ちゼロ金利と大量の流動性供給だろう。この2つに変化があったわけではない。変調を来した契機は、テクニカルな要因だったと言えそうだ。9月に入り、米欧の有力紙は、ソフトバンクグループ(SBG)が、8月中にアップル、アマゾン、アルファベット(グーグル)、テスラなどNASDAQ上場の有力IT企業株式に関し、コールオプション (CO)を大量に買ったと報じた。COの売り手(引き受けて)は、デルタヘッジのためこれらの株式を購入、8月における株価急騰の背景となったことが推測され、株価の割高感を指摘する声が強まったようだ。SBGのオプションに関連したポジションの整理が進んだと認識されるまで、当面、米国市場はNASDAQを中心に値動きの荒い展開となる可能性が強い。ただし、実質金利のマイナス下でマネーは行き場を失っており、環境関連などを含めた成長株投資への流れは続くのではないか。



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米国市場におけるIT系を中心とした成長株の今後を予想するには、まずアップル、アマゾン、アルファベット、テスラなど一部の銘柄が急騰した背景を考える必要があるだろう。その上で、環境に変化があったのか、近い将来に新たな変化が起こり得るのか、シナリオを検討しなければならない。また、成長株と言っても、IT系に集中した展開が続くのか、物色の対象が広がるのか、この点も次の局面への備えとして重要なのではないか。

 

 

NASDAQ総合指数をS&P500指数で割ったレシオは、9月2日に3.37倍に達した。これは、ITバブルのピークであった2000年3月3日の3.49倍に匹敵する水準だ。IT系有力企業のGAFAなどはNASDAQに上場しており、これらの株価の急騰が、より広範な銘柄を対象とするS&P500を大きくアウトパフォームして来たと言えるだろう。

 

 

新型コロナ禍により3月に急落した米国株式市場の戻り相場では、IT系企業が全体を力強く牽引した。その背景には、新型コロナ禍により社会・経済のデジタル化が加速するとの見方があったと考えられる。FRBがゼロ金利政策を採用、米国の実質金利がマイナスとなるなか、大量に供給されたマネーが成長株へ一極集中的に流入したのだろう。

 

 

新型コロナ禍による社会の変化については、東京都が発表している通勤・通学ラッシュ時間帯の都営地下鉄乗車率が象徴的だ。緊急事態宣言の解除で回復に転じたが、直近は平時に比べて7割に満たない。リモートの活用拡大を象徴する数字だが、これは東京だけの現象ではなく、米国を含む世界の大都市で大きな変化が起こっているのではないか。

 

 

FRBは、3月に入って量的緩和を強化、3ヶ月強の間にGDPの15%程度に相当する3兆ドルの資金供給を行った。また、3月15日の緊急FOMCにおいて、ゼロ金利政策を復活している。結果として、実質金利がマイナスとなるなか、米国金融市場に大量のマネーが供給され、その一部が成長株への投資に向かったと考えられよう。

 

 

銀行間の信用リスクを示すLIBOR-OISスプレッドは、足下、新型コロナ禍以前の水準へと低下した。米国では企業破綻が五月雨的に続いているものの、金融市場全般は落ち着きを取り戻したと言えよう。その背景には、大胆な金融緩和があると考えられる。FRBは、現状の政策を維持する方針を繰り返し示し、市場の安定持続に腐心してきた。

 

 

FRBのゼロ金利政策により、リスクフリーレートは名目でゼロ、実質金利はマイナスとなっている。その結果、株価のバリュエーションの許容範囲は大きく拡大、成長株への一極集中が起こり、NASDAQの予想PERはITバブル期以来の水準となっている。この高いバリュエーションの継続性の鍵は、長期金利の低位安定なのではないか。

 

 

アップル、アマゾンなど代表的なIT系企業の予想PERを昨年末と比較した場合、多くの銘柄でバリュエーションは大幅に切り上がった。社会・経済への変化を牽引することへの期待に加え、マイナスの実質金利によって、金融市場のリスク許容度が大きく拡大したことが背景ではないか。NASDAQのボラティリティは高まったが、現状、この2つの要素に変化は起こっていない。

 

 

9月4日、フィナンシャルタイムズ、ウォールストリートジャーナルなど米英の有力経済紙は、SBGが8月中に米国IT有力銘柄に関してCOのデビットスプレッドポジションを組んだことを報じた。SBGはこれらの銘柄の現物株式も保有している模様で、株価上昇に大きく賭けたスタンスを採ったと言えるだろう。

 

 

一般にCOの売り手(引き受けて)は、本源的資産の価格上昇期には現物を保有するなどしてデルタヘッジを行う。逆に価格下落期には、ヘッジのポジションを解消する可能性が強い。相対で行うオプション取引の場合、その秘匿性が破られると、本源的資産のバリュエーションの評価が厳しくなる上、そのポジションを逆手にとる動きが出ることが想定される。

 

 

テスラなど一部を除き、8月中に急騰した米国のIT関連企業の株価は調整局面となっている。SBGに関する一部の報道が正しいとすれば、COの売り手は、デルタヘッジの解消のため現物を売却しても不思議ではない。ヘッジポジションは大規模だったと想定され、現物の売り圧力も大きなものとなっている可能性がある。

 

 

IT関連株に牽引されNASDAQ総合指数が急騰したのは、新型コロナ禍により社会が変わるとの観測、そしてFRBによる大型の金融緩和によるだろう。この2つの背景が、崩れたわけではない。マイナスの実質金利下で大量に供給されたマネーは、テクニカルな要因が解消された場合、結局、成長株へ向かうのではないか。

 

 

米国の株式市場において成長株投資への流れが続く場合、IT関連への一極集中型から、物色対象が広がる可能性はある。そこで考えられるのは、地球温暖化関連ではないか。米国大統領選挙では、ジョー・バイデン候補が温暖化対策を中心政策の1つに据えた。背景には、米国で頻発する自然災害があるだろう。また、世界的に広がるESG投資が、この環境関連への投資をを加速させることも考えられるのではないか。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。


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