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「バイデン大統領」のシュミレーション
市川 眞一
2020/10/13

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概要

米国の大統領選挙投票日まで3週間となった。9月29日の第1回候補者討論会後、トランプ大統領が新型コロナに感染したことも重なり、激戦州ではジョー・バイデン前副大統領が優位に立ちつつある模様だ。この2人の政策の最大の違いは、市場を活用した経済の活性化を重視してきたトランプ大統領に対し、バイデン氏は所得の再分配による格差の是正に重きを置いている点だ。また、トランプ大統領はシェール開発の促進によるエネルギー輸出を重視したが、バイデン氏は地球温暖化抑止への投資を経済活性化の柱とする政策を示している。バイデン氏が勝利した場合、米国はパリ協定に復帰、環境問題は市場でも大きなテーマになるのではないか。一方、どちらが勝ってもいずれ対応を迫られるのは、財政・金融に関する「双子の肥満」の処理だろう。過去の例から見れば、米国はドル安によって物価上昇率を引き上げ、「減量」を図る可能性が強い。また、バイデン氏の増税案は、キャピタルゲイン、企業、高額所得者が対象とされており、株式市場にとってはマイナス要因と言える。



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今回の大統領選挙は、最終盤に入ってバイデン氏が優勢に戦いを進めている模様だ。もっとも、相手がトランプ大統領だけに最後まで読み難い。心の準備には、世論調査に加え、ブックメーカーのオッズなども参考になるだろう。いずれにしても、重要なのは主な政策の相違点に他ならない。トランプ大統領が再選されるなら大きな変化はないが、バイデン氏が勝った場合のシナリオを頭に入れておく必要がある。

 

 

英国のブックメーカーの賭けのオッズをリアルクリアポリティクスが集計したところ、10月9日現在、勝利の確率はトランプ大統領が35.0%、バイデン氏が64.5%だった。9月29日の第1回候補者討論の後、バイデン氏のリードが大きく広がっている。討論会での態度、そして新型コロナの感染が、トランプ大統領の勢いを大きく削いだと言えよう。

 

 

大統領選挙の帰趨を決める「スウィング・ステート」6州の世論調査では、バイデン氏がリードを確保している。なかでも、選挙人の割当が多いフロリダ、ペンシルバニア、オハイオ、ミシガンの4州は極めて重要だ。前回の選挙で全て勝利したトランプ大統領だが、今のところ軒並み劣勢に立っており、起死回生の何かがなければ苦しいだろう

 

 

全米の選挙人538人のうち、民主党が強いカリフォルニアの55人、共和党の地盤であるテキサスの38人に次ぐのが、29人のニューヨークとフロリダだ。ニューヨークは歴史的に民主党への支持が強固だが、フロリダはスウィング・ステートである。その最重要州において接戦が展開されていたが、第1回候補者討論以降、バイデン氏のリードが広がった。

 

 

トランプ大統領の失敗は、9月29日の討論会において、バイデン氏の発言中に73回も言葉を挟んだことだろう。現職の大統領は、泰然自若とした振る舞いを求められる。モデレーターのクリス・ウォレス氏から、再三に渡って注意を受け、イメージが悪化したようだ。自らの新型コロナ感染で2回目は中止が決まり、トランプ大統領にとり逆転のチャンスは狭まっている。

 

 

投票日を1ヶ月後に控えた10月2日、トランプ大統領は自ら新型コロナに感染したとツイートで発表した。その後、多くのホワイトハウス関係者の感染が明らかになり、トランプ政権の危機管理能力が問われる事態となっている。また、トランプ大統領が指名したエイミー・バレット氏の連邦最高裁判事への承認に注力する上院共和党は、追加景気対策の早期合意に消極的だ。

 

 

トランプ大統領の経済政策は、減税を中心に市場機能の活性化により景気拡大を図るものだ。一方、バイデン氏は、社会の分断の要因を所得格差の拡大であるとして、再分配政策の強化を訴えている。その財源は、高額所得者、企業などへの増税だ。また、シェール開発を重視するトランプ大統領に対し、バイデン氏は地球温暖化抑止を主要政策の1つとした。

 

 

所得格差是正を重視するバイデン氏は、財源として大幅な増税案を主張してきた。対象は、キャピタルゲイン、企業、そして高額所得者・富裕層だ。タックス・ポリシー・センターの試算によれば、バイデン氏の政策が実現する場合、高額所得者の可処分所得は大幅な減少が予想される。これは、当面の株式市場にとってはネガティヴなニュースと言えるだろう。

 

 

第1回候補者討論会が行われた9月29日の後、米国の10年国債利回りは上昇した。債券市場は、バイデン氏の経済政策が実行された場合、財政赤字が急増して国債の需給バランスが崩れることへの不安があるようだ。もっとも、FRBはゼロ金利政策を継続する見込みで、長短金利差に着目した国債への投資により、早晩、金利上昇には歯止めが掛かるだろう。

 

 

連邦議会予算局(CBO)の推計によれば、2020会計年度の財政赤字は3兆3,105億ドルに達し、対名目GDP比率で16.0%といずれも過去最大を更新する見込みだ。大統領選挙の結果に関わらず、選挙後には追加対策が決まると見られ、2021年度以降も巨額の赤字となるだろう。米国経済は、いずれ財政・金融の「双子の肥満」の処理を迫られるのではないか。

 

 

米国大統領選挙は、終盤になってバイデン氏がリードを広げている模様だ。仮にバイデン氏が勝利した場合、市場は、高水準の財政支出、企業・高額所得者層に対する増税を織り込むことになるだろう。この見通しは、株式市場にとっても、債券市場にとっても、当初は重石となる可能性が強い。一方、バイデン氏は地球温暖化抑止を経済政策の柱としており、この関連が株式市場の成長セクターの軸になる可能性がある。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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