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成長シナリオとしての「環境関連」
市川 眞一
2020/12/08

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概要

地球温暖化対策について、国際社会はコストから成長の源泉に発想を転換しつつある。米国のジョー・バイデン次期大統領が、大物政治家であるジョン・ケリー元国務長官を担当特使としたのは、国際ルールの設定に深く関与する意向ではないか。背景には、自然災害の頻発があるだろう。また、先進国では、排出量原単位ベースでの温室効果ガス削減が既にかなり進んでいる。2050年のゼロエミッション達成には技術革新が不可欠だ。それは、テクノロジーにおいて競争力を高めることが、経済成長の源泉になり得ることを意味する。バイデン米次期大統領の成長戦略は、温暖化抑止へ向けた国際ルールと技術両面での米国のプレゼンス向上を目指すものと言えるだろう。英国、ドイツなど欧州も同様の戦略と見られ、テクノロジーの面では、大容量・大規模バッテリー、燃料電池(水素)、SMR(小型モジュール原子炉)、送電ロスの低減などが注目される。世界の株式市場では、中央銀行の金融緩和を背景に成長株投資の流れが続きそうだ。もっとも、その主役については、社会のリモート化を背景としたIT関連一辺倒から、環境関連も含めた「ダブル・キャスト」になるのではないか。



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バイデン次期大統領は、選挙の公約として地球温暖化抑止を掲げ、現職のドナルド・トランプ大統領との違いを鮮明にした。従来、米国の政治家は産業界に影響の大きなゼロ・エミッションやEV普及に慎重な姿勢を示してきたが、バイデン氏はそれらの分野に大きく踏み込んだと言えそうだ。ポイントは、環境対策をコストではなく成長戦略と捉えることだろう。この点は、ボリス・ジョンソン英国首相、アンゲラ・メルケル独首相なども同様の考えを示している。

 

バイデン次期大統領は新政権の外交・安全保障、経済チームの主要メンバーを発表した。特に注目されるのは、ケリー元国務長官の気候変動担当特使だ。国際社会で名の通った大物政治家の起用は、今後の温暖化対策のルール設定について、米国が主導権を取る意図があるだろう。これは、トランプ大統領が背を向けた米国の伝統的外交姿勢に他ならない。

 

米国では、伝統的に温暖化への関心は高くないと言われてきた。バイデン氏が敢えてこの問題に踏み込んだのは、天災の頻発が背景と言えよう。また、米国では、1981~96年に生まれた「ミレニアル世代」が最大の人口構成となった。この世代はリベラル色が強く環境問題に敏感と言われ、地球温暖化を正面から取り上げる政治的条件が整ったことも背景と言えそうだ。

 

2007年、アルバート・ゴア米前副大統領と共にノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、第5次報告書において、温室効果ガスが地球温暖化の要因である確率を95%とした。産業革命後の推移を見ると、地球温暖化の抑止には、確かに二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出削減に取り組む必要があると考えるのが自然だろう。

 

GDP1単位を生み出す毎に排出される温室効果ガスの量、即ち排出量原単位を見ると、主要先進国は趨勢的な削減を続けてきた。2050年のゼロ・エミッションを達成するには、技術革新が必要だ。特に注目されるのは、大容量・大規模バッテリー、燃料電池(水素)、SMR(小型モジュール原子炉)、ロスの少ない送電網などではないか。

 

地球温暖化抑止の実現には、先進国のゼロ・エミッションだけでは心許ない。インド、ロシア、中国を代表とする新興国・途上国の排出量削減が重要な課題だ。これらの国・地域に対しては、主要先進国からの技術移転が欠かせないだろう。温室効果ガス抑止の先進的なテクノロジーには世界的にニーズがあり、それだけビジネスチャンスが大きいとも言える。

 

NASDAQ/S&P500倍率は、今春以降の流れが続き、高止まりしている。それは、成長株へ投資資金が集まっていることを意味するだろう。新型コロナ禍を受け、これまでは社会のリモート化に貢献する銘柄が物色されてきたが、買い疲れも見られる。今後は、気候変動関連が成長セクターと認識され、IT関連との間で「ダブル・キャスト」になるのではないか。

 

IT関連主導の相場は、社会の変化に加え、中央銀行による潤沢なマネーの供給が背景と言える。ゼロ金利が続くなか、リスク許容度が高まり、その一部が成長株へ向かったのではないか。新型コロナの収束へワクチンの接種が開始される見込みとなったが、景気回復には時間を要するだろう。金融緩和の継続により、成長株投資が続く可能性は高いと考えられる。

 

米国がバイデン次期大統領の下で本格的に温暖化対策に乗り出せば、関連するテクノロジーの開発競争に拍車が掛かるだろう。また、日米欧の中央銀行による金融緩和は続く見込みで、株式市場では成長株投資の流れが続くものと見られる。これまで、社会のリモート化を背景にIT関連が主役のマーケットだったが、今後は温暖化関連との「ダブル・キャスト」になる可能性が強い。技術革新においては、大容量・大規模バッテリー、燃料電池、SMR(小型モジュール原子炉)、ロスの少ない送電網などが注目されそうだ。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。


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