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EV普及の真の課題は何か?
市川 眞一
2021/01/13

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概要

ジョー・バイデン次期米国大統領が2050年までのゼロ・エミッション化を公約、日本の菅政権も同様の目標を掲げ、2030年代半ばまでに国内で販売される自動車を全て電動化する方向となった。この「電動車」にはハイブリッド(HV)、プラグイン・ハイブリッド(PHV)を含むが、自動車部門の温室効果ガスを劇的に減らすには、ゼロ・エミッションの電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の普及が鍵を握るだろう。FCVには水素の調達や供給網の整備などより高いハードがあり、現段階での本命はEVにならざるを得ないのではないか。もっとも、2020年1~11月期、EVの販売台数は四輪車全体の0.3%に留まった。価格や航続距離の面で、HV、軽自動車を含むガソリン車の優位性を崩せていないことが要因だろう。今後、政府が環境規制を強化することで台数が伸びれば、そうした点は段階的に解消されて行くと見られる。より大きな課題は、安定したゼロ・エミッションの電力供給に他ならない。特に、EVが普及した場合、充電が集中する夜間のベースロード供給が極めて重要だ。再エネ、燃料電池、そして原子力の活用が必要になる。電力供給に関するインフラ整備は、世界的に成長産業となるだろう。



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2019年度、日本国内におけるエネルギー起源の温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算で1,029Mtだった。このうち、20.1%を自動車を中心とした運輸部門が占める。2050年までに日本が実質ゼロ・エミッション化を実現するには、この分野の排出削減は極めて重要だ。菅政権は、2030年代半ばまでに国内で販売する自動車を全て電動車にする方向だが、ゼロ・エミッション化を前提とする限り、HV、PHVではなく、EV、FCVの急拡大が必要と考えられる。

 

2020年1~11月の日本国内の自動車販売を見ると、全385万台のうち、ガソリン車が32.9%、ディーゼル車が3.4%、ガソリン車である軽自動車が41.1%を占めた。一方、電動車は合計で86万7千台、全体の22.5%に留まり、そのうちの84万2千台はHVである。ゼロ・エミッションのEVは1万3千台、FCVは483台に過ぎない。政府目標はかなりハードルが高いと言えよう。

 

過去5年間で見ても、電動車の販売台数は伸びていない。EVの普及が進まない理由は、ガソリン車に対する価格の割高感に比して、航続距離など性能が十分とは言えないからだろう。また、家庭も含めた充電設備の未整備もボトルネックと言える。もっとも、これらの問題は、規制強化によりEVの販売台数が増加すれば、それに伴い大きく緩和されることが期待できるだろう。

 

日本政府は、EVの電費について1kWh当たり6kmとの数字を使っている。一方、Electric Vehicle Databaseのデータにより、世界の主力EVに関し実際の航続距離の推計とバッテリー容量との関係から統計的に算出すると、平均の電費は5.07kmになった。EV普及に向けた電力インフラの整備には、この現実的な数字をベースとする必要があるだろう。

 

国交省の統計で示された2019年度における自動車の走行距離、燃費を使い、EV化が100%実現した場合の必要電力量を推定すると1,434億kWhだ。これは、総発電量の14.0%に相当する。ただ、火力発電ではEV化でも温室効果ガスの排出削減効果は大きくない。75.7%に達する火力発電の比率を劇的に低下させるには、電力政策の抜本改革が必要だ。

 

1日の電力使用量には季節、時間帯により大きな変化がある。電力の供給体制は、この日負荷変動を前提に整備されてきた。EVは夜間充電が中心となることが想定され、ゼロ・エミッション電源によるベースロードの確保が大きな課題と言えよう。太陽光は昼間に使い切るため、日本の場合、陸上・洋上風力、水素、原子力の活用が現実的と考えられる。

 

発電における化石燃料への依存は、日本だけの問題ではない。再エネ先進国と言われるドイツでも、火力比率は47.3%に達している。米国や中国なども無排出電源の拡充は喫緊の課題だろう。畢竟、世界的に電源改革の進む可能性が強まった。2050年まで30年を切るなかで、ゼロ・エミッションの電源インフラ関連は長期的な成長産業になるのではないか。

 

EVの普及に向けて、電源の充実は極めて重要だが、急速充電設備の設置も課題と言えるだろう。EVの場合、事業所や家庭での夜間充電が主流としても、遠出などの際の充電ステーションの存在はセーフティ・ネットになるからだ。日本の主力産業である自動車業界、さらには全国に約3万ヶ所あるガソリンスタンドの今後のシナリオも含め、政策的な対応が求められる。

 

2050年までに実質ゼロ・エミッションを達成するためには、自動車のEV化は避けられないだろう。その場合、最大のボトルネックとなり得るのは電源の問題だ。発電時に温室効果ガスを排出すれば、EV化の効果が大きく殺がれるからである。これは、日本だけに固有の問題ではなく、米国、中国、そして欧州も抱える課題だ。従って、各国は電源インフラのゼロ・エミッション化を進めざるを得ないと考えられる。再エネだけでなく、燃料電池(水素)、そして原子力の活用が現実的な解ではないか。関連産業へのニーズは急速に拡大する可能性がある。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。


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