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高リスクの経済政策 バイデン大統領
市川 眞一
2021/03/09

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概要

米国景気が回復過程にあるなか、ジョー・バイデン大統領は1.9兆ドルの追加対策に拘る姿勢を見せている。通常、新任の大統領は最初の2年間に無理をせず、むしろ構造改革など痛みを伴う政策を行ってきた。中間選挙には勝てないが、任期後半の経済を加速させることが、大統領再選の鍵を握るからだろう。バイデン大統領が敢えて目先の景気を重視するのは、ドナルド・トランプ前大統領の存在が気になるからではないか。景況感の停滞や雇用改善の遅れは、有権者が同前大統領を改めて支持する要因になりかねない。バイデン大統領としては、就任早々から目に見える成果を積み上げることで、トランプ前大統領を「過去の人」にする必要があるのだろう。もっとも、過度の財政政策、金融政策は、将来のリスクを高めかねない。目先的にも長期金利に上昇圧力が続く場合、株価など資産価格が影響を受ける。また、財政赤字の急速な拡大は、出口戦略を困難にすると同時に、産業の新陳代謝を遅らせ、生産性の改善を阻害する要因だ。目先はFRBが市場金利の上昇を抑制し、市場の安定化を図るだろう。しかし、中期的に見れば、バイデン政権は通貨価値を大きく下落させるリスクを負っている。



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過去12人の戦後の米国大統領にとり、1期目の中間選挙はほぼ厳しい結果だった。全議席が改選となる連邦下院を見ると、議席を増やしたのは2002年11月のジョージ・ブッシュ大統領だけだ。絶大な人気を誇ったロナルド・レーガン大統領ですら、与党共和党は議席を少なからず減らしている。ビル・クリントン、バラク・オバマ両民主党大統領は歴史的な大敗を喫した。

 

レーガン、クリントン、オバマ3大統領が再選されたのは、大統領選挙前2年間の景気が良かったからだろう。つまり、就任当初に無理な経済対策をせず、中間選挙には負けたものの、任期後半、米国を好景気に導いたわけだ。一方、就任早々のバイデン大統領は、1.9兆ドルの追加対策に固執している。新型コロナ禍の下とは言え、1期目後半の息切れリスクは否定できない。

 

1993年1月に就任したクリントン大統領は、世界的なバブル崩壊後の「雇用なき回復」期において、医療保険制度改革を目指した他、財政の健全化に注力した。これらの政策は国民の支持を得ることができず、1994年11月の中間選挙で民主党は大敗している。しかしながら、この1期目前半の経済政策は、後半に景気が加速する素地を作ったと言えるのではないか。

 

クリントン大統領による財政再建策は、1期目後半に米国の市場金利を低下させる要因の1つになった。大統領選挙の年だった1996年、FRBは2月に25bpの利下げを実施、S&P500は年間で22.9%上昇するなど、クリントン政権にとって経済は明らかな追い風だったと言えよう。11月5日に行われた大統領選で、クリントン大統領は共和党のボブ・ドール候補に圧勝した。

 

足下、米国の市場金利は上昇している。新型コロナ禍から経済が立ち直りかけている上、バイデン政権が進める1.9兆ドルの追加対策により、景気が過熱する可能性を織り込みつつあるからだろう。目先はFRBが一段の金利上昇を牽制すると見られる。ただし、財政・金融政策の肥大化は、先行きにおいて出口戦略の難易度を高めることになるのではないか。

 

10年国債の利回りが1年ぶりに一時1.5%台に乗せた。2019年7月は2%台であり、株価などへの影響は小さいとの見方もあるようだ。しかしながら、当時の予想PERはS&P500が18倍、NASDAQ総合指数が24倍だった。足下、S&P500の予想PERは28倍、NASDAQ総合指数は33倍であり、株価のバリュエーションに与える金利変動のインパクトは大きく異なるだろう。

 

去る2月11日、連邦議会予算局(CBO)は今後10年間の財政見通しを改定した。昨年9月の予測と比べた場合、経済成長率が高まったことから、歳入は2021〜30年度まで軒並み上方修正されている。一方、歳出に関しては、2021会計年度に6,981億ドルの積み増しとなった。もっとも、この数字にはバイデン政権が成立を急ぐ1.9兆ドルの追加対策が反映されていない。

 

追加対策を含めれば、米国の財政赤字の対GDP比率は第2次大戦中に次ぐ歴史的高水準になろう。「財政の崖」の問題があり、近い将来の健全化は難しいと見られる。結局、通貨価値の下落が最も現実的な出口戦略である可能性は否定できない。また、財政のウェートが高まれば、経済合理性より社会性・政治性が重視され、米国の生産性が阻害されるのではないか。

 

就任早々のバイデン大統領にとり、2024年11月の再選戦略を考えれば、本来、経済対策を無理する時期ではない。しかし、景気回復が緩慢な場合、国民の期待は再びトランプ前大統領に集まるだろう。それは、バイデン大統領の政権運営を困難にしかねない。畢竟、バイデン政権は景気対策に注力せざるを得ないと見られる。もっとも、長期金利に上昇圧力が掛かれば、株価を含む資産価格に影響する。また、財政・金融双子の肥大化により、将来の出口戦略の難易度は上がるだろう。結局、通貨価値下落が現実的なソリューションなのではないか。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。


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