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緊張感高まる台湾海峡と日本
市川 眞一
2021/04/27

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概要

4月16日に行われた菅義偉首相とジョー・バイデン大統領による初の日米首脳会談は、東アジアにおける中国の行動を強く牽制する結果だった。特に台湾情勢を巡る米国の危機感が明確になったと言えよう。中国人民解放軍が2027年に建軍100周年を迎えることから、米国は中国が今後6年間に台湾へ直接介入する可能性を懸念している模様だ。その場合、台湾が中国の基地化することで安全保障上のバランスが大きく変化する上、IT技術の開発において中国の競争力が飛躍的に高まると想定されるからだろう。南沙諸島の人工島建設、香港への直接介入を止められなかった米国は、台湾の実質的な独立維持に強く関与する意向と見られる。菅政権としては、「自由で開かれたインド太平洋構想」の下、価値観の共有と安全保障上の協力で米国と同盟関係の強化を目指す見込みだ。もっとも、経済的な関係の深まる中国との距離感は不透明で、中国は日本への経済的締め付けを強化する可能性があるだろう。一方、産業面では、台湾一極集中へのリスク回避のため、日本が半導体製造拠点として見直されるのではないか。また、再エネ、原子力など自前のエネルギー強化も重要課題と言える。



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日米首脳会談における共同声明には、中国を明記した上で、具体的地名として東シナ海、南シナ海、台湾海峡、香港、新疆ウイグル自治区が書き込まれた。これは、外交的に見れば非常に重い両国の意思表示と言えるだろう。中国の立場から見た場合、最もセンシティブな問題を指摘されたわけだ。日米両国に対し激しい苛立ちを募らせているのではないか。

 

米国が特に懸念しているのは、台湾情勢だろう。その理由として3点が考えられる。第1には安全保障上の観点だ。中国が開発中のSLBM「JL-3」は射程が1万2千kmと想定される。つまり、台湾海域周辺から米国全土、欧州全域への攻撃が可能だ。台湾が中国により軍事拠点化された場合、潜水艦の追尾が難しくなるため、米国にとっては大きな脅威となり得る。

 

第2の懸念はテクノロジーだ。半導体の微細化技術に関して、中国最大のファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、台湾積体電路製造(TSMC)に2世代遅れていると言われている。中国が台湾企業の持つ半導体製造技術を手に入れた場合、それは中国のデジタルIT技術が世界最先端になることを意味し、米国の技術的覇権が失われかねない。

 

第3はタイミングだ。2024年5月、独立志向の強い蔡英文台湾総統が任期満了になる。一方、2027年は中国人民解放軍の建軍100周年で、何等かの歴史的成果を模索する可能性は否定できない。南沙諸島での人工島建設、香港への直接介入を止められなかった米国としては、2024~27年に中国が台湾に関して行動を起こす可能性を懸念しているのではないか。

 

台湾を巡り米中対立が激化するなか、日本は3つの課題に直面するだろう。それは、1)経済を中心とした中国との距離感、2)台湾有事の際の日本の対応(存立危機事態として集団的自衛権を発動するか)、3)南シナ海、東シナ海におけるシーレーンの確保だ。日米首脳会談を終えた菅首相だが、米中両国間における日本のバランスの採り方は未だ示していない。

 

日米首脳会談において、菅首相がバイデン大統領と中国を強く牽制する姿勢を示したことに対し、中国は強く反発している。ただ、本格的な日本への対策は2022年早々の北京冬季五輪後ではないか。2020年における日本の国別輸出において、中国は米国を抜き最大の相手国となった。半導体関連や自動車関連、素材など、日中関係悪化の影響は小さくないだろう。

 

1982年、中国共産党軍事委員会主席であった鄧小平氏は、人民解放軍の劉華清海軍司令官に命じ、軍近代化計画を策定させた。そこで示されたのが第1列島線、第2列島線の概念だ。過去40年間、中国はこの計画に沿って海空軍力を整備してきたと言える。この海域は日本の領土・領海を広く含む上、エネルギーなど資源輸入における重要なシーレーンだ。

 

台湾を巡り米中間の緊張感が高まる場合、日本の経済・産業にも大きな影響が生じると想定される。日本にとっての追い風は、半導体製造に関して台湾一極集中への懸念が強まり、日本が中級クラスの製造拠点として再評価される可能性のあることだ。また、シーレーンの不透明感を考えれば、日本政府は再エネ、原子力などエネルギーの自給力を強化するだろう。

 

バイデン政権になり米国が台湾情勢への関心を急速に高めているのは、1)安全保障上の懸念、2)技術的覇権の維持、3)タイミングの3要因によるだろう。2024~27年へ向け米中両国の緊張感がさらに高まるシナリオは否定できない。一方、今のところ菅政権が米中両国間で日本の採るべきバランスをどのように考えているのかは不透明だ。ただし、中国は経済を中心に日本への締め付けを強化するのではないか。緊迫した東アジア情勢の下、日本にとっての追い風は、半導体製造拠点として再評価される可能性のあることだ。また、地球温暖化対策と合わせ、温室効果ガスを排出せず、自給できる再エネ、原子力の活用が重要課題となろう。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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