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新型コロナの現状と経済活動
市川 眞一
2021/05/18

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概要

新型コロナの感染拡大が続き、菅義偉政権は新型新インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態、まん延防止措置の延長・適用地域の拡大を余儀なくされた。変異種の拡散で重症者数が過去最多になり、一部地域では医療現場が深刻な状況に陥っている模様だ。ちなみに、対人口に対する比率で見ると、感染者、死者ともに米欧主要国に比べて日本国内における新型コロナの感染は抑制されてきた。ただし、それは政策の効果ではなく、アジア・大洋州地域における共通の特徴と言え、日本の特殊要因としては文化や生活様式に根差したものなのではないか。むしろ、政策面では、人口に対する急性期病床数は主要先進国で最も多いにも関わらず、新型コロナ向け病床の確保が不十分で、結果的に関西圏で病床逼迫が深刻な状況になった。さらに、行政情報のデジタル化の遅れや国と地方の連携の弱さにより、主要国のなかでワクチン接種の進捗状況が最も遅れている。従って、経済活動の本格的な再開が見通せず、世界の投資家が日本を見る目は厳しさを増したようだ。新型コロナ禍により日本の政治・行政システムは弱点を露呈、危機下における国際分散投資の重要性が改めて確認された。



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新型コロナ感染第4波の勢いに歯止めが掛かっていない。首都圏が主な震源地だった第3波と異なり、この第4波は関西圏、そして地方の中核都市において感染が広がっている。また、米国やドイツ、フランスなど欧州主要国で新たに確認される感染者が減少基調に転じたなか、日本では対照的に感染が広がりつつあることも特徴と言えるだろう。

 

これまで、新型コロナによる重症者は今年1月26日の1,046人が最多だった。足下の重症者数は1,200人を超え、日々記録を更新しつつある。また、入院治療を要する患者数も、1月18日の7万1,129人とほぼ同水準になった。その結果、医療供給体制に綻びが生じ、関西などでは入院待ちの感染者が在宅での療養を余儀なくされ、様態が急変するケースもあるようだ。

 

新型コロナ感染第4波が猛威を振るっているが、5月12日現在、人口100万人当たりの日本の感染者累計数は5,225人に留まり、米国の9万9,138人、ドイツの4万2,544人と比べ大幅に少ない。これは、政策的な成果ではなく、アジア・大洋州地域の多くの国における共通の特徴であると同時に、日本人の生活様式や文化に根差したものと考えられる。

 

日本の場合、対人口比での感染者は欧米主要国に比べ少ない。一方、急性期病床数は人口1,000人当たり7.8床で、米国の2.9床、英国の2.5床を大きく上回っている。それにも関わらず、例えば大阪府では新型コロナ専用病床の使用率が80%を超えた。行政と医療機関の調整が進まず、専用病床の確保が遅れていることが背景と言えるだろう。

 

日本はワクチン開発で出遅れた上、ワクチン接種も進んでいない。3,600万人の高齢者への接種を7月末までに完了するため、菅首相は1日100万回の接種を公約した。もっとも、河野太郎担当大臣は実務部隊である厚生労働省の官僚を掌握できておらず、国と地方自治体の連携も上手く行っていない模様だ。ワクチン接種はさらに大きく遅れる可能性があるだろう。

 

オックスフォード大学が運営する”Our World in Data”によれば、5月12日現在、1回目のワクチン接種を終えた人の比率は米国46.0%、英国52.6%、韓国は7.2%だが、日本は3.0%だ。ワクチン接種の遅れは経済活動再開に影響するため、日本経済の相対的なモメンタムの弱さを想定させる。外国人投資家が日本株を売り越している要因の1つと言えるのではないか。

 

新型コロナの感染抑止には人流の抑制が前提となる。足下の日本では、新型インフルエンザ等特措法に基づくまん延防止措置、緊急事態が発出されており、人の移動が低調になるのはやむを得ないだろう。ただし、ワクチン接種の進んだ米欧主要国において経済活動再開が加速するなか、行政システムの対応力不足により、日本の出遅れ感が強まっている。

 

今年に入って日経平均は一時3万円台を回復、マーケットには楽観的な見方が広がった。しかしながら、東京市場の年初来の動きを他の主要市場と比べた場合、日本株はアンダーパフォームしている。ワクチン接種のスピードに象徴されるように、経済活動の本格的な再開が遅れることへの懸念が、世界の投資家に日本株への投資を躊躇わせているのではないか。

 

日本の新型コロナ感染第4波の特徴は、1)米欧主要国が感染縮小期にあること、2)感染者数が相対的に多いわけではないが、医療供給が逼迫していること、3)主要先進国に比べてワクチン接種が大きく遅れていること・・・の3点だ。これは、新型コロナ禍が日本の行政システムの危機対応力の弱さを諮らずも浮き彫りにしたと言えるだろう。特にワクチン接種の遅れは経済活動の再開の遅れを意味する。日本より厳しい状況に陥った米欧の主要国だが、ワクチンの普及により回復のモメンタムが強い。その差が、世界の投資家が日本を敬遠する背景ではないか。日本国内の投資家は、国際的な分散投資を積極的に進めることが肝要だろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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