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バイデン政権の財政策はインフレ的
市川 眞一
2021/06/08

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概要

ジョー・バイデン米大統領が発表した予算教書は、「大きな政府」による所得再分配に傾斜した内容と言える。この予算教書は、予算決定権を有する議会の判断を拘束するものではない。ただし、議会が2022年度予算を編成する上での叩き台になる上、バイデン大統領の経済政策を知る上で重要な意味を持つ。予算教書で示された2022~31年度までの財政の方向は、新型コロナ禍を乗り切って後も、バイデン政権が大規模な歳出を継続する方針を示唆していた。また、歳入については、法人税、高額所得者への増税などにより、税収が大きく増加する計画となっている。バイデン大統領が所得再分配を重視するのは、先進国に広がる格差拡大への批判に対応したものだろう。また、政治的に見た場合、ドナルド・トランプ前大統領の存在が大きいのではないか。直近の世論調査では、同前大統領は共和党支持層に引き続き強い影響力を持つことが示されていた。バイデン大統領は、2024年の大統領選挙において再選を果たす上で、トランプ前大統領を「過去の人」にするため、中低所得者に配慮した政策に拘らざるを得ないのだろう。ただし、それはインフレを加速させるリスクを内包したものだ。



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予算教書によれば、2022年度の歳出は6兆111億ドルだ。2021年度の歳出見込みが過去最大の7兆2,495億ドルなので、1兆2,384億ドルを削減する計画となった。それでも、今年度は新型コロナの下で1兆9,800億ドルの追加経済対策が含まれており、引き続き超大型の予算案と言える。社会保障、公的医療費に加え、国防費が2021年度よりも増額された。

 

今回の予算教書では、2022〜31年度の10年間、歳入は年6.4%の伸びが見込まれた。これは、中立の機関である議会予算局(CBO)の見通しを大きく上回るベースだ。予算教書が増税を織り込んでいることが理由に他ならない。例えば2020年度に2,118億ドルだった法人税の場合、CBOが2031年度に3,930億ドルを見込むのに対し、予算教書では6.930億ドルとされた。

 

予算教書が歳入、歳出とも大幅な増加の方向を示しているのは、バイデン政権の「大きな政府」政策を象徴しているだろう。名目GDPに対する財政赤字は2021年度に第2次大戦期以来の16.7%に達し、その後も恒常的に高水準となる見込みだ。これは、金利上昇期に米国政府による資金調達のコストを重くし、意図せざる国債の価格下落をもたらす可能性がある。

 

新型コロナ禍による景気失速・信用不安の下、米国政府が歴史的な経済対策を実施するなか、FRBも急速な金融緩和を行った。それは、直接・間接的に財政ファイナンスの効果があり、市場金利の安定に寄与したと言える。ただし、景気拡大期に政府が歳出を拡大する場合、FRBがそれを支えることは難しい。畢竟、米国国債が売り込まれるリスクが高まるのではないか。

 

バイデン政権が発足した1月以降、大統領の仕事ぶりに対する世論調査の推移を見ると、平均53.8%で安定している。これは、同時期の歴代大統領に比べて高い水準ではないが、政権移行時の混乱を振り返れば、バイデン大統領にとり悪い数字ではないだろう。新型コロナ向けワクチン接種の加速、追加経済対策について、米国の有権者は今のところ好感している模様だ。

 

You Govが5月下旬に行った世論調査では、昨年の大統領選挙に関して「バイデン大統領は正当に勝利したか?」との設問に対し、29%の回答者が「不正操作がありトランプ前大統領の勝利が盗まれた」と答えた。共和党支持者では64%に達する。民主主義の根幹は公正な選挙であり、少なくない有権者が大統領選の正当性に疑問を持っている現状は特筆されよう。

 

You Govの調査では、2024年の大統領選挙にトランプ前大統領が立候補した場合、共和党支持者の80%が投票すると回答した。1月6日の連邦議会乱入事件以降、共和党議員にはトランプ離れも見られたが、有権者の反応を受け、むしろ最近は前大統領へのローヤリティが高まっているようだ。バイデン大統領は、トランプ大統領の存在を意識せざるを得ないだろう。

 

米国の消費者物価上昇率は、エネルギーや商品市況の値上がりに牽引され、上昇基調を強めてきた。一方、サービス部門の価格は安定している。ただし、労働市場がタイト化しており、賃上げが進むようであれば、サービス関連も値上がりする可能性は否定できない。バイデン政権の財政策は景気過熱をもたらすものと見られ、インフレを加速させるのではないか。

 

1期目の米国大統領は、通常、就任最初の2年間を使い、構造改革や財政再建に取り組む。その上で任期後半2年間の経済が好調なら、再選される可能性が強いからだ。しかし、バイデン大統領の場合、トランプ前大統領の存在感が依然として大きいことから、好景気の維持、中低所得者への所得再分配の強化を同時並行で進める必要があるのだろう。従って、物価上昇の副作用を伴っても「大きな政府」的政策を継続すると見られる。ただし、労働力の不足から賃上げが加速する場合、安定しているサービス部門の物価も上昇に転じる可能性は否定できない。ポストコロナの米国経済がインフレ期となるシナリオには蓋然性があるのではないか。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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