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新型コロナと不動産市況
市川 眞一
2021/06/15

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概要

新型コロナの感染第4波はピークアウトしつつあるようだ。新規感染者、PCR検査の陽性反応者が頭打ちとなり、入院療養者、重症者も減少しつつある。新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態、まん延防止措置が一定の効果を挙げたのだろう。また、菅義偉首相が最優先課題とするワクチン接種も進み始めた。ただし、米欧主要国と比べると依然として大きく遅れており、菅政権の行政能力が問われている。一方、東京都における人流は、Googleのデータを見る限り、2回目、3回目の緊急事態下とその間の期間における差が小さくなった。これは、感染者の減少と外食の抑制に強い関連があることを示唆している。また、新型コロナ禍の下、一部の企業がリモート化を進め、オフィスなど職場と働き方の見直しを一体的に行っていることが背景ではないか。つまり、新型コロナが収束しても、都心部のオフィス需要が短期間で戻る可能性は低いと考えられる。それは、オフィス街に隣接した商業地域にも影響を及ぼすだろう。東証不動産指数は、オフィス空室率との連動性が高い。インフレのリスクは高まっているが、不動産株への投資はそのヘッジにはならないのではないか。



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国内で新たに確認された新型コロナの新規感染者を7日移動平均で見ると、5月14日の6,434人が第4波のピークであり、足下は2千人程度まで減少してきた。また、PCR検査の陽性率も5月4日の9.0%から低下傾向にあり、現在は3%を切る水準となっている。関西以西を中心とした感染第4波は、6月に入り収束の方向へ向かっていると言って良いだろう。

 

新型コロナで最も懸念されるのは医療提供体制だ。感染第4波の場合、入院患者は5月15日の7万3,424人、重症者は5月25日の1,413人が直近のピークだった。沖縄県、福岡県、愛知県などで病床使用率は依然として高いものの、一時は厳しい状況に陥っていた大阪府、京都府などは落ち着きつつある。東京都を含め、緊急事態は6月20日に解除されるのではないか。

 

菅政権が最大の課題とする新型コロナのワクチン接種は、高齢者が対象となった5月中旬から加速している。医療従事者については、概ね2回目の接種が完了した模様だ。ただし、政府が目標とする7月中の高齢者向け接種の終了はかなりハードルが高いだろう。一般の接種が完了するのは、このまま順調に進んだ場合で2021年末頃となる見込みだ。

 

国内でのワクチン接種は加速しつつあるものの、政治的、経済的な問題は主要国に比べての遅れだ。米国、英国などでは2回目を終えた人の比率が40%を超えているのに対し、日本はまだ5%に満たない。このスピードの違いは、経済活動の勢いを通じて景気・株価に影響を与えている上、菅内閣の支持率が低下する大きな要因になっていると考えられる。

 

東証銀行株指数、不動産株指数は、新型コロナ禍の下、市場の急落局面、その後の戻り相場で何れもTOPIXをアンダーパフォームしている。銀行はイールドカーブのフラット化と借入ニーズの低下、不動産は新型コロナによる都心部での市況悪化が影響しているからだろう。両指数ともリバウンドはしたが、その持続力に対して市場の見方は分かれているのではないか。

 

東京都では緊急事態が3回発令された。注目されるのは、2回目、3回目の緊急事態下での職場、公共交通機関の人流が、1回目と2回目、2回目と3回目のインターバルと大きな差がないことだ。1回目の発令下でリモート化の仕事による適・不適、課題が明確になり、一部の企業において、オフィスの在り方と働き方の一体的な見直しが行われているからではないか。

 

リモート化やサテライトオフィスの活用により、東京都中心部のオフィス需要が低下、空室率が上昇傾向にある。コストの抑制、社員の効率向上の観点から、新型コロナが収束しても、以前と全く同じ状況には戻らないだろう。都心部のオフィス需要の回復には、賃料の大幅な値下がりが必要と考えられる。また、需要の底入れには相当程度の時間を要するのではないか。

 

東証不動産指数は、東京都心部のオフィス空室率に連動する傾向がある。不動産事業者にとり、都内中心部のオフィス需給は業績に与える影響が大きいからだろう。商業地の賑わいも、平日に関しては仕事からの流れが主流と考えられる。オフィス空室率の上昇がまだ続く場合、出遅れ感からの戻りが一巡した後、不動産株のアウトパフォームは難しいのではないか。

 

国内における新型コロナ感染第4波は収束傾向にある。東京都、大阪府などにおける緊急事態、まん延防止措置により、飲食業の営業が制限された効果だろう。一方、新型コロナ向けワクチン接種は軌道に乗りつつあるものの、菅首相の目標とする1日100万回には届いておらず、米欧主要国に対して引き続き大きく遅れをとっている。そうしたなか、東京都心部におけるオフィス空室率が上昇しているのは、一過性の要因以上に働き方を含めた企業の戦略による面が大きいのではないか。リベンジ消費が期待できる小売業・観光業と異なり、ポスト・コロナ期についても、不動産業の回復が遅れる可能性は否定できない。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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