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日の丸半導体は復活するか?
市川 眞一
2021/06/29

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概要

4月16日の日米共同声明、6月13日のG7首脳宣言において、半導体に関する技術協力、サプライチェーンの強化が謳われた。この国際的な流れを受け、6月18日に閣議決定された『骨太の方針』では、半導体は戦略的な課題として取り上げられている。足下の世界的な半導体の不足は、IoTへの構造的潮流に加え、新型コロナの下で社会のリモート化が急加速したこと、そして米中対立により中国企業が在庫の積み増しに動いたことが背景だろう。もっとも、米国が半導体に関して強める懸念は、ファウンドリとして世界最先端の半導体製造の中軸を担っている台湾に対し、中国が政治的な統合への意欲を強めていることが要因と考えられる。半導体の研究開発・設備投資は巨額であり、これを米国企業だけで担うのは荷が重い。そこで、新たなサプライチェーンを構築する上でのパートナーとして、日本に白羽の矢を立てたのではないか。これは、日本の関連企業にとって大きなチャンスと言える。最先端こそ米国企業が手掛ける一方、それに続く先端半導体を復活の起点に出来得るからだ。もっとも、政府の財政・公的資金による支援はむしろ逆効果であり、民間の事業環境を整えることが重要だろう。



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バイデン政権は、半導体の国際的なサプライチェーンに大きな懸念を持っている模様だ。その結果、4月16日の日米首脳会談、6月11~13日のG7首脳会議において、半導体は主要議題の1つになった。さらに、菅義偉内閣が6月18日に閣議決定した『経済・財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)』にも、半導体製造基盤の強化が最重要課題として明記されている。

 

マーケットが注目しているのは、足下の半導体不足だろう。その影響は、世界の自動車、家電、通信機器など多くの産業に及んでいる。需給逼迫の要因は、IoT化の下で構造的に需要が伸びるなか、新型コロナ禍による社会・経済のリモート化が重なったことだ。また、米中の対立が先鋭化、先端半導体の調達を懸念する中国企業が在庫を積み増したことも大きい。

 

世界の半導体業界では、インテルのシェアが16%に達するなど、米国勢が総売上高の50%以上を占めている。もっとも、多くの米国系企業はファブレスであり、設計とマーケッティングに特化してきた。特に回線幅10ナノメーター以下の最先端品については、製造を専業とするファンドリが多くを供給している。その規模は全半導体売上高の20%程度に達する模様だ。

 

半導体のファウンドリは、TSMCのシェアが50%を超えるなど台湾企業の独壇場だ。そこで米国が懸念しているのは中国の戦略だろう。香港に続き台湾の政治をコントロールする場合、半導体の微細加工に関する最先端技術を中国が手に入れることになりかねない。そこで、米国は民主主義国家群による半導体の新たなサプライチェーン構築を目指しているのではないか。

 

米国主導のサプライチェーンでは、最先端の半導体をインテルなど米国企業が担うことになろう。もっとも、半導体は研究開発・設備投資に巨額の費用が必要であり、米国企業だけでは荷が重い。そこで、かつては半導体市場の40%以上を握り、現在も部材や製造装置で強い競争力を維持する日本について、米国は供給網構築のパートナーと考えている模様だ。

 

1988年、日本企業の半導体売上高のシェアは50.3%に達しており、世界トップ10の6社を占めていた。この状況は、米国の強い反発を招いて外交問題化した結果、1986年に日米半導体協定が締結され、1991年に改訂されたのである。総合電機メーカーである日本の半導体企業は、米国との摩擦による多様な製品群への報復を恐れ、事業の拡大を躊躇った。これが、日本の半導体が地盤沈下する要因の1つと言えるだろう。ちなみに、2020年、日本企業で売上高トップ10に入ったのは、NAND型フラッシュメモリを製造するキオクシアだけである。

 

日本の半導体が低迷した理由は、米国からの外圧に加え、日本企業による戦略の失敗が大きい。特に、大型コンピューターからPC、携帯電話、スマートフォンへの流れにおいて、メモリ中心からロジックICへの移行が遅れた。さらに、総合電機メーカーの1部門であるため、市況悪化時において、研究開発や設備投資に大胆な資金投入ができなかったことも要因だろう。

 

日米連携において、菅政権は半導体産業へのテコ入れを検討している模様だ。ただし、財政・公的資金の投入は、むしろ産業競争力を弱体化させかねない。政府の政策としては、外交努力により日米連携を維持することに加え、雇用制度の抜本的見直しなど側面支援が重要だろう。加えて大学など研究機関の基礎技術に対する支援が有効なのではないか。

 

米中対立の下、米国は半導体のサプライチェーン再編成を目指している模様だ。最先端半導体を米国企業が手掛け、それに次ぐ先端半導体に関して日本企業に分担を期待しているのではないか。この国際情勢の変化は、日本の関連企業にとって半導体事業を立て直す上での大きなチャンスと言えそうだ。菅政権は、半導体を地球温暖化対策と並ぶ成長戦略の核と位置付け、財政・公的資金の活用を含む支援策を検討しているだろう。もっとも、半導体産業の復活は優れて民間企業の力に依存しており、政府の役割はあくまで環境整備に他ならない。時代遅れの産業政策が、むしろ日本企業の競争力を弱めるリスクに注意が必要だ。

 

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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