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米国のインフレリスクと原油価格
市川 眞一
2021/07/06

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概要

原油価格のじり高が続いている。背景は新型コロナ禍から世界経済が回復しつつあり、需要が増加していることだ。加えて、供給サイドを見ると、OPECプラスが平時に比べて減産を継続するなか、米国におけるシェールオイルの生産が伸びていないことも理由と考えられる。2010年以降、生産量を倍増して世界最大の産油国となった米国だが、ジョー・バイデン政権が地球温暖化抑止の姿勢を鮮明にしたことから、シェール事業者は新たな投資を躊躇っているのではないか。その結果、原油価格の上昇にも関わらず、稼働する石油リグの数は伸び悩みの状況となった。さらに、米国によるイランへの経済制裁が継続していることも需給逼迫要因だろう。バイデン大統領は、核開発問題に関してイランとの対話に前向きな姿勢を示していた。しかしながら、イランの大統領選挙で保守派のエブラヒム・ライシ師が勝利、少なくとも当面はイラン産原油が市場の需給を緩和することはなさそうだ。結果として原油価格は高止まりする可能性が強まっている。その場合、少なくとも2021年中に関して、エネルギーは米国の物価を押し上げる要因に他ならない。バイデン政権、FRBにとり、政策の難易度を上げる要因と言えよう。



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OPECによれば、新型コロナ禍に見舞われた2020年、世界の原油需要は日量947万bl、率にして9.5%減少した。原油の需要は世界景気に連動する傾向が強く、昨年の経済成長率が▲3.3%だったことが要因に他ならない。一方、2021年に関してIMFは世界経済の成長率を6.1%と予測、OPECは石油需要を前年比日量595万bl増の9,646万blと見込んでいる。

 

OPEC加盟13ヶ国とロシアなど非OPEC産油国9ヶ国で構成するOPECプラスは、昨年3月13日の緊急会合で世界需要の約1割に相当する日量970万blの減産を決めた。8月以降、段階的にその幅を縮小してきたが、依然として日量600万bl近い減産を継続している。需要が回復に向かうなか、OPECプラスの減産継続は石油価格上昇の一因と言えるだろう。

 

シェール革命下の米国では2010年頃から産油量が急速に増加、2020年2月には日量1,310万blに達して世界最大の産油国になった。その後は原油価格の急落を反映し、昨年後半に一時970万blまで落ち込んでいる。足下、原油価格がコロナ禍以前の水準を超えたにも関わらず、米国の産油量は日量1,100万bl前後のレベルで横ばいを続けてきた。

 

産油国を「米国」、「OPEC」、ロシアなど「プラス」、「その他」の4分類とした場合、過去10年間において生産量を大きく伸ばしたのは米国だけだ。新型コロナ禍前の2019年の世界の石油生産量は10年前と比べ日量649万bl増えたが、米国の産油量はそれを上回る688万bl増加した。米国のシェール革命が国際的な石油市場の構造を大きく変化させたことは間違いない。

 

米国で稼働している石油リグの数は、2019年末の677基から昨年8月第2週に172基まで減少した。その後、増加に転じたものの、今年6月第4週の時点で372基に留まる。価格上昇局面でもリグの稼働数が顕著に増えないのは、バイデン政権が注力する地球温暖化対策により、シェール事業者が新たな投資に消極的になっていることも一因だろう。

 

1979年のイスラム革命が第2次石油危機の引き金を引き、イランの産油量は1981年に日量126万blへ落ち込んだ。その後は徐々に回復、1990〜2018年は日量361万blだったが、トランプ米政権による制裁措置で2019、20年は再び大きく減少している。最高指導者アリー・ハメネイ師の右腕とされるライシ師の大統領就任で、当面、米国の制裁解除は難しいだろう。

 

イランはベネズエラ、サウジアラビアに続き世界で3番目に原油の確認可採埋蔵量が多い産油国である。しかし、豊かなアラブ系湾岸諸国に比べ人口が多い上、核開発などを巡り米欧と対立、経済状況は極めて厳しい。穏健派のハサン・ロウハニ大統領の下で米国との対話が暗礁に乗り上げ、保守強硬派と言われるライシ次期大統領の対米政策は不透明だ。

 

昨年7-9月、WTIの平均価格は40.76ドル、10-12月42.23ドル、今年1-3月でも57.59ドルだった。つまり、現在の水準で横ばいとしても、原油価格はしばらく米国の物価を押し上げる背景となろう。エネルギー価格は物価の決定的要因ではないものの、夏の需要期におけるガソリン価格上昇が消費者の不満につながり、政策の舵取りを難しくする可能性は否定できない。

 

新型コロナ禍から世界経済が回復期にあるなか、原油の価格がじり高歩調なのは、需要の増加に加え、供給面においてOPECプラスの減産が続き、米国の産油量が増加していないことが背景と言える。また、核開発協議の再開で米欧による制裁解除の一歩手前にあったイランは、新大統領選出により供給量が直ぐには増えない可能性が強まった。結果として原油価格は高止まりし、当面、米国の物価を押し上げる要因となろう。原油価格だけを理由として米国が激しいインフレに陥ることは考え難い。ただし、消費者が高いガソリン価格に不満を抱く可能性もあり、バイデン政権、FRBにとって原油は政策判断を難しくする要素になるのではないか。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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