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日本株のリベンジはあるか?
市川 眞一
2021/07/13

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概要

東京都に4回目の新型インフルエンザ特措法による緊急事態が宣言された。東京五輪の開幕を2週間後に控えるなか、小売、飲食、観光業などへの新たな打撃は避けられそうにない。米欧主要国が経済活動再開に進むなか、日本の景気は停滞感が強まっている。人口対比で見た場合、日本の新型コロナの感染者、死者は相対的に少ない。もっとも、それは中国、韓国、オーストラリアなどにも共通しており、アジア・大洋州地域の特徴と言える。一方、日本の新型コロナ向けワクチンの接種は、菅義偉首相が目標として掲げた1日100万回のペースを確保しつつあるものの、米欧主要国に比べて出遅れ感は拭えない。モデルナ製ワクチンの輸入数量が予定に達せず、職域接種の申請が一時中止に追い込まれた上、ファイザー製ワクチンは自治体の在庫に偏りが生じている模様だ。国民のフラストレーションが溜まったことで、7月4日に行われた東京都議会議員選挙では、自民党が予想外の苦戦を強いられた。ワクチン接種に象徴される菅政権の行政力の弱さは、政治的不透明感の背景になりつつあると同時に、東京市場の停滞の理由とも考えられる。当面、日本株の本格的なリベンジは難しいのではないか。



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菅政権は、7月11日を期限として東京都に発令されていたまん延防止措置を緊急事態宣言に切り替えた。新たな感染者が増加傾向にあるなか、東京都の要請などを踏まえた措置だ。これで東京都の緊急事態は4回目であり、7月23日開幕の東京五輪は1都3県の会場で無観客が決まった。小売、飲食、観光業などへの打撃は避けられず、景気への影響が懸念される。

 

7月7日現在、人口100万人当たりの日本の新型コロナ感染者は累計で6,421人であり、米国の10万2,025人、ドイツの4万4,645人を大きく下回る。もっとも、これは中国や韓国、豪州も同様であり、アジア・大洋州地域の特徴と言えよう。日本政府による政策効果ではなく、地理的要因、遺伝的要因、風土、社会慣行など、疫学上の背景が存在すると考えられる。

 

ワクチン接種に関し菅首相は1日100万回を目標に掲げた。6月中旬以降、このペースは概ね守られている。もっとも、順調に進んでも、集団免疫水準へ達するのは早くて年末だろう。むしろ、足下、モデルナ製ワクチンの輸入量不足、ファイザー製ワクチンの在庫偏在により、職域接種は開始早々に申請受付中止に追い込まれ、一部の自治体はワクチン不足に陥っている。

 

日本のワクチン接種はようやく軌道に乗りつつあるが、日本を除くG7各国は既に1回以上の接種を受けた国民が50%を超えた。日本の出遅れ感は否めず、その結果として経済活動の再開が進む米欧主要国に対し、日本では東京都が4回目の緊急事態宣言となった。これは、政府の行政力の問題が大きく、菅政権に対する国民の不満が高まりつつあると言えるだろう。

 

歴代内閣の発足からの支持率を追うと、長期政権となった小泉純一郎、2回目の安倍晋三両首相の場合、発足後1年間に亘り支持率は大きく低下しなかった。一方、短命に終わった他の内閣は、発足後間もなく支持率が急落している。菅内閣の支持率は急低下しており、年内に行われる総選挙へ向けて、態勢の立て直しには何らかのテコ入れ策が必要だろう。

 

7月4日行われた都議選では、前回は都民ファーストの会と連携した公明党が国政に準じて選挙協力したにも関わらず、自民党の議席は伸び悩んだ。職域接種の申請受付が中止されるなど、ワクチンを巡る混乱が一因と考えられる。政権の態勢立て直しの鍵を握るのはワクチン接種の行方と見られ、菅首相はそれを通じて行政力を国民に示す必要がありそうだ。

 

日経平均のイールドスプレッドを見ると、米国市場と異なり割高感はない。しかしながら、日本経済は新型コロナ禍からの立ち直りが遅れ、景気の停滞感が拭えない状態にある。一方、米国は新型コロナ禍で一時は厳しい社会状況に陥ったものの、そこからの復元力が極めて強い。結局、株価は足下のバリュエーションよりも、危機への対応力を評価しているのだろう。

 

主要市場の世界指数に対する年初来相対騰落率を見ると、米国とユーロ圏がアウトパフォームする一方、日本株は大幅なアンダーパフォームだ。投資家が変化に乏しい日本ではなく、危機対応力を再確認させた米欧市場に魅力を感じているからだろう。ワクチン接種の遅れに象徴される菅政権の行政力の弱さは、日本株のパフォーマンスに大きく影響している模様だ。

 

新型コロナ禍そのものに関して、他のアジア・大洋州に位置する国・地域同様、日本は米欧に比べ相対的に感染を抑制してきた。ただし、それは疫学上の何かが背景と見られ、必ずしも日本政府の行政力によるものではなさそうだ。むしろ、ワクチン接種の遅れにより、経済活動再開のペースは米欧主要国の後塵を拝しており、結果として内外の投資家は日本株への興味を失いつつあるのではないか。年内に予定される総選挙へ向け、菅政権は態勢の立て直しを迫られている。特にワクチン接種の加速は喫緊の課題と言え、その成否は総選挙の結果を大きく左右するだけでなく、景気のモメンタムを通じて株価にも影響を及ぼすだろう。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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