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新型コロナに収束の兆し
市川 眞一
2021/07/27

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概要

新型コロナの感染者が日米欧主要国において拡大基調にある。感染力の強いデルタ株が世界的に広がっているからだろう。ただし、新型コロナは大きなトレンドとしては収束に向かいつつあるのではないか。新たな感染者数が急増している英国やフランスでも、重症化が抑制されていることで、死者数は今のところ大きくは増加していないからだ。背景には3つの理由が考えられる。第1には、医療現場において新型コロナの対症療法が進歩したことだ。第2には、新型コロナが変異する過程で、強い感染力を手に入れる一方、毒性が低下している可能性がある。そして第3は、ワクチン接種の拡大だろう。例えば、米国の場合、ワクチン接種の進んだ州ほど直近1ヶ月における人口当たりの感染者、死者が少ない傾向が統計的に示されている。特に重症化し易い高齢者へのワクチン接種が、効果を発揮しつつあるのではないか。これは、新型コロナが通常のインフルエンザに近付いている可能性を示唆しており、多少の揺り戻しはあっても主要国における経済正常化のプロセスはさらに進むものと考えられる。ワクチン接種で出遅れた日本の場合、本格的な経済活動の再開は早くて今冬になりそうだ。



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欧州主要国では新型コロナの新規感染者が新たな増加局面に入っている。最も顕著なのは英国であり、新たに確認された感染者の7日移動平均は5万人に迫った。しかしながら、ボリス・ジョンソン首相は経済活動再開の歩みを止めず、7月11日にロンドン郊外のウェンブリー・スタジアムで行われたサッカー欧州選手権決勝は6万人の観衆を受け入れている。

 

英国だけでなく多くの欧州主要国が経済正常化を進めているのは、新規感染者数の大幅な伸びにも関わらず、重症者・死者が抑制されているからだろう。むしろ、重症者が大きく増加していないからこそ、医療サービスの提供体制が保たれ、経済活動の再開が可能になったわけだ。その背景の1つは、医療現場における新型コロナ患者への治療技術の向上と考えられる。

 

米国でも新たな感染者は増加の兆しを見せ始めた。ただし、欧州同様、重症者・死者は今のところ低水準に保たれている。世界的に感染が急拡大しているデルタ株は、感染力が強くなった一方で、毒性が低下している可能性は否定できない。一般に鳥インフルエンザやエボラ出血熱など毒性の強い疫病は、致死率の高さにより局地的な感染に留まる傾向が指摘できる。

 

米欧において新型コロナの重症化・死者が抑制されている最大の理由は、ワクチン接種の進捗だろう。特に重症化し易い高齢者への接種拡大は、大きな効果を生みつつあるのではないか。新型コロナの毒性の低下とワクチン接種率の向上により、集団免疫が機能するとすれば、新型コロナ禍は通常の季節性インフルエンザ禍に近付いて行くと想定される。

 

新型コロナに対するワクチンの効果を如実に示しているのが、米国の50州にコロンビア特別区(ワシントンD.C.)を加えた51地区における成人のワクチン接種率と人口100万人当たりの新規感染者の状況だ。例えば、7月22日現在、過去1ヶ月の新規感染者数が最も少ないバーモント州は、ワクチン接種を完了した成人の比率が最も高い州である。

 

同じく全米50州+ワシントンD.C.において、65歳以上のワクチン接種完了率と人口100万人当たりの過去1ヶ月間の死者数を比較すると、やはり逆相関の関係が統計的に示されている。新型コロナで最も重症化の傾向が強いのは高齢者であり、それだけにワクチンの効果は高いようだ。これは、米国だけでなく、日本を含む世界に共通した傾向と言えるのではないか。

 

日本では7月23日に東京オリンピックが開幕するなか、その東京都を中心に感染第5波が訪れた。新型インフルエンザ特措法に基づく緊急事態はあまり機能していない模様であり、医療関係者の間では、当面、感染者は増加を続けるとの見方が多いようだ。これは、経済活動の正常化が進む米欧主要国との間で、日本の景気サイクルにずれを生じさせる要因だろう。

 

感染拡大が進む日本では、入院患者数も底入れの兆候を示している。もっとも、今のところ死者数が顕著に増加する状況ではない。医療従事者、高齢者に対するワクチン接種が進み、急激な重症化に陥りやすい病院や高齢者施設における感染が抑制されているからだろう。ただし、若年層へのワクチン接種には年内一杯を要する可能性があり、今夏は警戒感を怠れない。

 

米欧主要国で新型コロナの感染が拡大しつつあるが、1)医療現場の対応力向上、2)ウイルスの毒性が低下した可能性、3)ワクチン接種の拡大・・・3点により、経済活動正常化の動きは継続されている。この状況が続けば、新型コロナ禍は季節性インフルエンザ禍へ近付いてゆくのではないか。つまり、足下、新規感染者は増加しているものの、主要国においては、新型コロナ禍による経済的な影響は低下しつつある。投資方針を考えるに当たっては、最早、「コロナ後の世界」を念頭に入れるべきだろう。一方、ワクチン接種で出遅れた日本は、景気循環が米欧と比べ半年程度ずれているようだ。今、積極的に日本へ投資する理由を探すのは難しい。

 


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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