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国内の新型コロナに見えた変化
市川 眞一
2021/08/03

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概要

東京五輪が開幕し、連日、熱戦が伝えられる一方で、首都圏を中心とした国内における新型コロナの感染はデルタ型の威力により急速に広がっている。東京都などに発出された新型インフルエンザ特措法に基づく緊急事態は、現時点では十分な効果を発揮していない。むしろ、給付金支給の遅れもあり飲食店などへの営業自粛要請が機能せず、現行制度の限界が露呈した。ただし、データを精査すると、国内の新型コロナ禍にも変化の兆しが見えつつある。具体的には重症化率の低下だ。東京都では高齢者の感染が減少しており、医療機関、高齢者施設などリスクの高い場所でのクラスター発生も抑制されている。これは、ワクチン接種が進み始めた効果と言えるだろう。65歳以上の高齢者に関しては、7月30日現在、2回目の接種を終えた人が71.4%に達した。現在の新規感染は、相対的に重症化の確率が低い20~30代が中心だ。ワクチン接種は米欧主要国に比べて引き続き遅れており、今夏に関しては医療現場への負荷は避けられず、IMFは2021年における日本の成長率見通しを切り下げた。もっとも、2022年の日本経済は正常化へ向かうシナリオが見えて来たと言えるのではないか。



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国内で新たに確認された新型コロナの感染者は、7月31日、12,327人に達して1日の過去最多となった。特にこの第5波は東京都を中心とした首都圏で猛威を振るっている。感染力の強いとされるデルタ型の影響が大きいだろう。東京都では7月12日より4回目の緊急事態が宣言され、エリアを拡大して延長が決まったものの、今のところ十分な成果は挙がっていない。

 

感染第5波は、PCR検査を受けた人の陽性率が第4波までと比べて高いことが特徴だ。これは、濃厚接触者などへの感染率が高まっていることを示しており、現在の新型コロナウイルスは、これまでよりも感染力を強めた可能性が否定できない。外出や飲食に関する自粛の働き掛けが若年層を中心に機能しないなかで、今夏、新型コロナの感染はさらに広がるのではないか。

 

感染拡大に伴い入院療養者も増加傾向だ。これは、医療提供体制の逼迫を意味しており、当面、厳重な警戒を要することに疑問の余地はない。もっとも、感染第4波までは、入院者の増加ペースと重症者の推移は概ね連動していた。一方、第5波に関しては、入院者の急増に比べれば、今のところ重症者は増えていない。つまり、重症化が防がれている可能性がある。

 

PCR検査の陽性者に対する入院療養者の比率は7月30日現在8.3%であり、直近のピークであった6月13日の16.8%を大きく下回っている。また、入院療養者のうち重症者の占める比率も1.1%で、6月21日の3.7%から低下した。重症化は医療現場への負荷が大きくなるため最も警戒が必要だが、感染者の急増にも関わらず、今のところこれらの数字は落ち着いた状態だ。

 

東京都における新規感染者の世代別内訳を見ると、今年2月は60歳以上の比率が29.3%に達しており、昨年の16.8%を上回っていた。しかし、4月以降、高齢者の比率は急低下、7月は5.9%に留まる。一方、2月に19.0%だった20代は33.5%へ大きくウェートを上げ、30代も3月の15.4%から21.0%になった。第5波の感染は20~30代が中心と言えるだろう。

 

4月12日から65歳以上を対象にワクチン接種が開始され、7月30日時点で少なくとも1回目の接種を終えた人は83.7%、2回目を完了した人も71.4%に達した。この接種率の上昇と反比例するかたちで、高齢者の新規感染が急速に減少している。高齢者への接種拡大は、重症化し易い層の感染を抑制することにより、新型コロナのリスク逓減に大きく貢献しているようだ。

 

新型コロナ禍は日本の行政に関するデジタル化の遅れを浮き彫りにしたが、ワクチン接種に関しても日々の情報の集約は遅れている。もっとも、菅義偉首相が公約した1日100万回を超える接種が行われている模様だ。このペースが続けば、多少の混乱はあっても、2021年末には国民全体へのワクチン接種にメドが立ち、集団免疫の獲得が可能になるのではないか。

 

新型コロナ感染第5波は重症化が抑制されていると言っても、感染者数は急増しており、大都市を中心に新型コロナ向け病床の使用率は再び上昇傾向にある。現時点ではまだ余力があるものの、ワクチン接種が不十分な今夏に関しては、感染拡大による経済への影響を懸念せざるを得ない。日本経済が正常化へ近付くのは、2022年に入ってからではないか。

 

首都圏、関西圏を中心に新型コロナの感染が急拡大している。この第5波が第4波までと大きく異なるのは、デルタ型により感染力が強まっている一方で、医療関係者、高齢者へのワクチン接種が機能しつつあることだ。つまり、ワクチン接種がさらに進めば、新型コロナ禍は収束に向かう可能性の強いことが確認された。政府の行政力は脆弱であり、ワクチン接種が十分に進むにはまだ数ヶ月を要するだろう。従って、今夏に関して警戒感を緩めることはできず、景気への影響も懸念される。もっとも、ワクチン接種と治療薬の開発が進むことにより、2022年の日本経済は正常化へ向かうのではないか。それを見越して投資方針を決めるべきだろう。

 

 


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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