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自民党総裁選と総選挙
市川 眞一
2021/09/07

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概要

菅義偉首相は、9月29日に行われる自民党総裁選へ立候補しないと明言した。結果として既に立候補を表明している岸田文雄前自民党政調会長、河野太郎内閣府特命担当相、高市早苗前総務相の他、石破茂元自民党政調会長も出馬を検討する模様だ。候補者が増えれば投票が分散化されて決選投票となる可能性が強まり、1人に1票が与えられる国会議員が鍵を握るだろう。最大派閥の細田派を実質的に率いる安倍晋三前首相は高市氏を支援する意向だが、決選投票に際しての判断が注目される。同前首相が石破氏、河野氏を支持することは考え難く、高市氏、岸田氏のいずれかが決選投票に進んだ場合、その候補を後押しするのではないか。自民党総裁選の後、10月4日頃に臨時国会が召集され、首班指名選挙となるだろう。それから新首相による所信表明演説、新内閣と与野党の論戦などを経て、10月中旬に衆議院が解散される見込みだ。従って、総選挙は10月21日の衆議院の任期満了後となるのは確実で、11月14日を軸に検討されそうだ。自民党への風当たりは強いものの、野党が支持を集めているわけではなく、この総選挙での政権交代は確率が低いと考えられる。



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9月3日、菅首相は即席の会見で自民党総裁選への不出馬を発表した。新型コロナ禍へ対応力を欠き、内閣支持率が低迷するなか、人事、衆議院解散による局面転換を図ったが、自民党内の抵抗に遭って頓挫、その時点で再選戦略は実質的に潰えたのだろう。政権発足直後からの内閣支持率急低下は、過去の短命政権と同様の経過をたどったと言えそうだ。

 

9月29日の自民党総裁選は、既に立候補を表明した岸田氏、河野氏、高市氏の他、世論調査で人気のある石破氏も出馬を検討している模様だ。このうち、岸田氏は自ら率いる岸田派のみで推薦人の国会議員20人を確保できる。また、安倍前首相が支援の意向を示した高市氏も推薦人集めはクリアした。一方、石破氏は自派では必要な推薦人に足らず、二階派、無派閥からの支援が立候補への鍵になる。また、河野大臣の場合も、所属する麻生派から支持を得るは難しく、無派閥の他、菅首相、二階俊博幹事長へ協力を要請するのではないか。いずれにせよ、各有力候補者は今週前半にも立候補へ向けた最終的な詰めを行うだろう。

 

報道各社の世論調査では、「次の自民党総裁(首相)にふさわしい人」との設問に対し、従来、河野大臣、石破元幹事長、小泉環境相を挙げる回答者が多かった。しかし、日本経済新聞社が8月27~29日に行った調査では、岸田氏が13%を得て16%の石破氏、河野氏に肉薄している。菅首相へ対決姿勢を示したことが、今のところ奏功したと言えるのではないか。

 

自民党総裁選は、同党所属議員に1人に1票、党員に国会議員と同数の票が与えられる。現在、同党所属の国会議員は385人だが、選管委員長・副委員長は投票しないため、投票総数国会議員、党員合計で766票に他ならない。1回目の投票で過半数を得る候補がいない場合、1、2位による決選投票が行われる。この時も国会議員は1人に1票だが、党員投票はなく、47都道府県の自民党県連が各1票を投じる仕組みだ。つまり430票を争うことになる。

 

3人以上の有力候補が立つ場合、票が分散化され決選投票になるだろう。その場合、党員投票は行われないため、国会議員の動向を左右する派閥の影響力が強まる。最大派閥を実質的に率いる安倍前首相が河野大臣、石破氏を支持することは考え難い。高市氏が決選投票に進めず、岸田氏が勝ち残れば、同前首相は岸田氏を推す意向なのではないか。

 

衆議院の任期満了は10月21日だ。しかし、自民党総裁選後に首班指名のための臨時国会が開かれ、新首相の所信表明演説、新内閣に対する与野党の質疑が行われる見込みで、公職選挙法の規定により任期中の総選挙は実質的に不可能になった。最大で11月28日までの先送りが可能ではあるが、総選挙の投票日は11月14日を軸に検討されるだろう。

 

首相交代でも自民党は総選挙により議席を減らす可能性が強い。ただし、報道各社の世論調査を見る限り、野党への国民の期待が高まっているわけではないようだ。2009年8月の総選挙で政権交代した際には、同年春には旧民主党の支持率が自民党を上回っていた。足下、立憲民主党の支持率はNHKの調査で6.4%、30%台を維持する自民党との差は依然大きい。

 

2017年10月の総選挙結果を基にシミュレーションすると、立憲民主党、共産党など野党4党が小選挙区で選挙協力した場合、自民党の獲得議席は220台となる可能性がある。ただし、公明党が20~30議席を確保すると見られ、連立与党では衆議院の過半数(233議席)を確保するのではないか。つまり、今回の総選挙による政権交代の確率は高くないだろう。

 

自民党総裁選挙は、岸田氏、河野氏、高市氏に加え、石破氏が立候補する可能性がある。ただし、菅首相、二階幹事長の仲介による河野氏と石破氏の連携が浮上するかもしれない。一方、岸田氏は、決選投票へ勝ち残り、その段階において安倍前首相、麻生副総理からの支持獲得を目指す戦略だろう。まだ不透明な要素もあるが、今週後半には立候補者が確定する見込みだ。その後の総選挙は11月中旬がメドになる。自民党の議席が減るとの見方が多いなかで、どの程度の歩留まりになるかは新内閣の安定度に大きく影響するだろう。ただし、野党への有権者の期待は高まっておらず、この選挙で政権交代が実現する可能性は低い。


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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