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2022年 リスク要因としての中国
市川 眞一
2021/12/21

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概要

2022年は中国が国際社会・市場のリスク要因となる可能性に注意が必要だ。秋には5年に1度の共産党大会が開かれる。中華人民共和国憲法により、共産党には国務院(政府)を指導する立場が与えられた。党大会では幹部である約200名の中央委員会委員が選出され、そのなかから最高幹部の中央政治局常務委員が選ばれる。第20回となるこの大会の最大の焦点は、習近平中央委員会総書記(国家主席)の3選だ。江沢民、胡錦涛両総書記は1期5年、2期で第一線から退いたが、今年に開催された共産党中央委員会第19期第6回全体会合(6中全会)において3度目となる『歴史決議』を採択、同総書記は着々と3期目への布石を打ってきたと言われている。もっとも、経済面で見る限り、習近平総書記が目覚ましい成果を挙げたとは言えない。一方、腐敗撲滅運動の一環として、多くの共産党幹部を粛清してきた。その不満が党内に鬱積していると見られるが故に、むしろ権力の座に止まらざるを得ないとの観測もあるようだ。習近平総書記は、北京冬季五輪閉会後、党内基盤強化のため対外強硬姿勢を強める可能性がある。さらに、次の5年間では台湾の統一を目指すのではないか。



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5年に1度の党大会では、共産党員9,515万人のなから約200人の中央委員会委員を選出する。また、党大会期間中に開催される中央委員会第1回全体会合(1中全会)で、同党の最高幹部である中央政治局委員、中央政治局常務委員、さらには両組織の事務局となる中央書記処、人民解放軍への指導を行う中央軍事委員会などの人事が決まるのが通例だ。

 

1期5年間の主な政治イベントでは、党大会翌年の春に開催される2中全会で国務院の人事が決まる。また、その翌年春の3中全会では、経済政策運営の基本方針を決定するのが通例だ。その後、4中全会から6中全会では年ごとの施政方針や直面する課題について議論され、党大会直前に開かれる7中全会で過去5年間の総括、そして党大会の準備が行われる。

 

中国共産党は、毛沢東時代の1945年、鄧小平時代の1981年、過去2回、歴史決議を行った。習近平総書記の下、11月の6中全会で採択された新たな歴史決議は、過去9年間における現体制の実績への自画自賛が主な目的だったと言えるだろう。それは、来秋に開催される次の党大会において、習近平総書記が3期目への続投を図る環境整備と見られる。

 

習近平総書記の場合、良し悪しは別にして建国の父である毛沢東、中興の祖である鄧小平の2氏に比肩しうるような成果を具体的に思い起こすのは容易ではない。例えば、中国経済は1980年代以降の改革・開放路線が奏功し、名目GDPで日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位になった。そもそも、それは2010年のことであり、胡錦涛前総書記時代のことだ。

 

改革・開放路線を推進して失脚した胡耀邦、趙紫陽両総書記の8年間、中国の実質経済成長率は平均9.9%だった。その後、13年5ヶ月に亘った江沢民時代は9.7%、次の胡錦涛政権は同10.5%と2桁を維持している。一方、習近平書記の場合、2期10年間(2021、22年はIMFの推計値)の成長率は平均6.5%に止まり、規模の拡大に伴って成長は明らかに鈍化した。

 

習近平時代を特徴付けているのは「腐敗撲滅」だろう。共産党最高幹部である中央政治局常務委員だった周永康氏を含め、多くの有力政治家が粛清されてきた。結果として、習近平総書記に対する同党内の不満も燻っているのではないか。だからこそ、2期10年では辞めることができず、個人崇拝に近い形で権力を集中し、3期目を目指しているようにも見える。

 

習近平総書記にとり、名実ともに毛沢東、鄧小平2氏に並ぶためには、次の5年間において歴史的な成果が必要だろう。それが中華人民共和国建国以来の悲願である台湾の統一である可能性は否定できない。2027年には人民解放軍が創設100周年を迎えることもあり、2022~27年、台湾を中心とする東アジア情勢は非常に緊迫したものとなることが想定される。

 

経済政策としては、「共同富裕」のスローガンの下、個人消費の拡大を重視することが予想される。「世界の工場」として、固定資本投資主導での成長は限界が近付いたからだ。また、消費拡大は国民の共産党独裁に対する批判を緩和するだけでなく、世界中から財貨・サービスを購入することにより、国際社会での中国の外交的プレゼンス拡大に寄与する可能性が強い。

 

日本国内では、習近平総書記の権力基盤が強固であるとの報道が目立つ。しかしながら、中国共産党の歴史では内部対立を繰り返しており、それは同総書記も例外ではない可能性がある。3期目を目指す習近平総書記は、来年2月の北京冬季五輪終了後、秋の党大会へ向け党内を引き締め、対外的にはより強硬姿勢を鮮明にするのではないか。また、3期目を正当化する上で、台湾の統一を目指すことが予想される。経済面では、個人消費の拡大策により、景気を下支え、国民の不満緩和を目指すと共に、国際社会での発言力強化を図るだろう。日中関係は緊張度を増す可能性があり、それが経済交流に及ぼす影響には要注意だ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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