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2022年 中間選挙と米国経済
市川 眞一
2022/01/11

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概要

韓国大統領選挙(3月)、フランス大統領選挙(4月)、日本の参議院選挙(7月)など、2022年は世界的に選挙の年である。特に注目度が高いのは、11月8日に行われる米国の中間選挙だろう。ジョー・バイデン大統領の支持率が低迷していることから、民主党の苦戦を予想する声が多いようだ。もっとも、戦後における大統領1期目の中間選挙で、与党が勝利したケースはほとんどない。ビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領は歴史的大敗を喫したが、2年後の大統領選挙は圧勝した。再選の鍵を握るのは、中間選挙の結果ではなく、大統領選挙の前年及び当年の景気動向だ。1期目の大統領が最初の中間選挙で勝てないのは、就任当初の2年間、経済政策で敢えて無理をしないからだろう。中間選挙の敗北は覚悟の上で、再選を勝ち取るため任期後半の景気拡大に賭けるわけだ。経験豊富な政治家であるバイデン大統領は、今年の景気浮揚に拘泥せず、中間選挙の敗北に耐えて2023、24年の経済加速に賭けるのではないか。この見方が正しいとすれば、2022年、バイデン政権は景気対策に関して無理をしないと考えられる。むしろ、当面はインフレ圧力の緩和に重心を置くだろう。



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アフガニスタンからの米軍完全撤退時に混乱が生じたことで、昨秋以降、各種世論調査におけるバイデン大統領の支持率は急低下した。さらに、社会保障の強化と地球温暖化対策を盛り込んだ看板政策の「より良い再建法案」が民主党のジョー・マンチン上院議員の反対により暗礁に乗り上げ、同大統領は政権への求心力を回復する当面の契機を失った状態だ。

 

バイデン大統領の就任から1年が経とうとしている。通常、この時点で次の大統領選挙に向け現職に対する有力な挑戦者が見えているケースは少ない。しかし、足下、ドナルド・トランプ前大統領は強力な対立候補として米国の有権者に認識されている模様だ。昨年12月に行われた各種の世論調査において、現段階での投票先は現職と前職が拮抗した状態にある。

 

バイデン大統領の支持率が低迷していることから、11月の中間選挙に関して民主党の苦戦を予想する声が多い。もっとも、戦後の歴史を振り返ると、1期目の大統領の中間選挙の場合、与党が勝ったケースはむしろ稀だった。例外は2002年のジョージ・W・ブッシュ大統領のケースだが、この時は前年に同時多発テロ(9.11)があり、大統領への求心力が強かったと言える。

 

オバマ大統領の1期目であった2010年11月2日の中間選挙において、民主党は上院で6議席、下院では63議席を失う歴史的な大敗を喫した。その結果、上院は辛うじて過半数を維持したものの、下院は過半数を失うねじれ状態に陥ったのである。オバマ政権の政策は停滞を余儀なくされたが、2年後の大統領選挙において、オバマ大統領は危なげなく再選された。

 

戦後、再選を目指して立候補した現職大統領は11人だ。オバマ大統領を含め成功した7人は、再選を賭けた大統領選挙の前年及び当年、米国経済がプラス成長だった。一方、失敗した4人の場合、当該の2年間のいずれかにおいてマイナス成長を記録している。つまり、中間選挙の結果如何に関わらず、大統領選挙直前の景気が再選を大きく左右したと言えるだろう。

 

直近5代の大統領の1期目4年間の実質経済成長率を見ると、ブッシュ大統領(子)が特徴的で、尻上がりに成長率が高まり、2期を全うした。また、クリントン大統領は4年を通じて景気は好調に推移している。一方、オバマ、トランプ両大統領は大きなマイナス成長を経験したが、オバマ大統領は1年目、トランプ大統領は4年目だったことが明暗を分けたと言えるだろう。

 

新型コロナ禍の第1波により、2020年4‐6月期の米国経済は歴史的なマイナス成長になった。もっとも、ロックダウン状態は続いたが、その後、景気は回復基調を維持、2001年以降の巡航速度である年率1.9%の成長ペースに回帰している。オミクロン型の感染は急拡大しているものの、2022年はニューノーマルへ向けた経済・社会の正常化が進むのではないか。

 

2024年に再選を目指すバイデン大統領にとり、2022年の景気は必ずしも重要ではない。むしろ、2023、24年のリスクを低下させる上で、インフレ圧力の緩和が重要な政策課題と言えそうだ。従って、無理矢理に景気を牽引するのではなく、FRBの出口戦略を見守るだろう。また、国内の物価上昇を抑える上で、為替に関して「強いドル」を是認する可能性が強い。

 

過去の例から見る限り、1期目の大統領にとって重要なのは、中間選挙の勝利ではなく、任期後半2年間の景気動向だ。中間選挙に与党が負けることは再選のハンディキャプにはならないのである。バイデン政権は、2023、24年の米国景気を尻上がりにするよう、今後の経済政策を運営するのではないか。最大のリスク要因はインフレだろう。資源価格の高騰やサプライチェーンの寸断、労働コストの高まりなどから物価上昇は避けられないとしても、その圧力を緩和するため、FRBの出口戦略を支持する可能性が強い。また、ドル高を容認し、輸入物価の抑制を図ることが予想される。円・ドルでは、意外な水準の円安が起こり得るかもしれない。

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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