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新型コロナ危機の不可逆性
市川 眞一
2022/04/12

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概要

新型コロナは感染第6波が収束に向かったものの、足下はリバウンドの兆候を示している。ワクチンと軽症者向け治療薬が社会・経済正常化への両輪と言えるものの、現段階で処方されている経口治療薬、「ラゲブリオ」(メルク)、「パキロビッドパック」(ファイザー)は汎用性が高いとは言えないようだ。岸田政権にとって、新型コロナを季節性インフルエンザと同等に扱う条件はまだ整っておらず、当面は第3回目のワクチン接種拡大に注力することになろう。重症化率が高まっていないことから、医療供給体制は概ね円滑に機能していると考えられる。一方、都営地下鉄の乗車率やGoogleのデータが示しているのは、都心部において人の往来が完全には回復していないことだ。これは、ニューヨークなど海外の主要都市でも見られる傾向であり、経済活動が新型コロナ以前の水準を上回るか並ぶレベルに戻っても、都心部における人の移動は低水準の状態が続いている。リモートワークや宅配の活用がニューノーマルになったことを示しているだろう。ウクライナ危機によるインフレ圧力の高まりも含めて、新型コロナ禍以前と現在では明らかに社会や経済システム、成長のプロセスが変化したと言えるのではないか。



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3月22日より18都道府県に発令されていた蔓延防止等重点措置が解除され、全国的に新型コロナの新規感染者が漸増しつつある。新規感染者数は内閣支持率に影響する傾向があり、7月の参議院選挙を控えて岸田政権は新型コロナの状況に神経質になっているようだ。ただし、新たな措置は考えておらず、3回目のワクチン接種を粛々と進めるスタンスを採っている。

 

軽症者向け経口治療薬としてメルクの「ラゲブリオ」、ファイザーの「パキロビッドパック」が特例承認を受け、日本国内でも処方されている。もちろん、それは大きな進歩だが、今のところ医療現場において広く活用されているわけではないようだ。どちらにも一長一短があり、岸田文雄首相の指摘する「汎用性の高い経口治療薬」とはかならずしも言えないからだろう。

 

パキロビッドパックは、承認時に併用禁止の薬品が37種類指定された。その結果、高血圧や心臓疾患、痛風など高齢者の典型的な慢性病への主な治療薬を服用している場合、パキロビッドパックを処方することはできない。一方、ラブゲリオに重い副作用は確認されていないが、フランス政府が発注を中止したように、有効性に疑問を呈する医療関係者は少なくないようだ。

 

岸田政権の新型コロナ対策は、結局、ワクチンのブースターショットに頼らざるを得ない。1回目、2回目の接種と同様、3回目も米欧主要国に2ヶ月ほど立ち上がりが出遅れたが、急速にキャッチアップしつつある。インフルエンザにおけるタミフルのような治療薬が存在しない以上、当面は3回目のワクチンで発症・重症化を抑制することが政策上の重点課題と言えよう。

 

新型コロナの新規感染者はリバウンドの兆候を見せているが、入院療養を要する感染者及び重症者の率は低水準で安定している。これは、ワクチン接種が進んだことに加え、足下の感染が重症化し難い10代、20代を中心に広がっているからだろう。もっとも、若年層への3回目のワクチン接種は遅れており、水際対策など規制緩和を進める上での政策的課題と言える。

 

重症化率が高まっていないことから、各都道府県における新型コロナの専用病床に関する使用率は概ね漸減傾向で、医療供給体制は維持されているようだ。ただし、感染者の絶対数は依然として大きく、重症化率が低くても、感染が拡大すれば医療現場への負荷が一気に高まる可能性は否定できない。汎用性の高い治療薬の開発がないと解消されない問題だ。

 

東京都が公表している通勤・通学ラッシュ時間帯の都営地下鉄乗車率は、新型コロナ禍以前を100%とした場合、現在は65〜70%程度での推移となっている。蔓延防止等重点措置が解除されて以降も大きく上昇する気配はない。これは、新型コロナ禍以前と現在では、都市部における生活様式や仕事の仕方が大きく変化したことを示しているのではないか。

 

人的往来が戻っていないのは、東京のみならずニューヨークなど世界の主要都市も同様だ。一方、先進国のGDPは既に新型コロナ禍前の水準に近付くか、追い越している。つまり、オフィスへ出勤し、繁華街へ買い物に行かなくても、リモートや宅配サービスの活用を通じて経済規模を維持できているわけだ。この変化は新型コロナが収束しても不可逆的ではないか。

 

日本は新型コロナの新規感染に極めて敏感であり、水際対策や生活に関する規制で米欧主要国ほど正常化が進んでいない。その結果、経済活動の回復は明らかに遅れている。ただし、その米欧主要国でも”before Corona”と”post Corona”は同じ社会ではないようだ。さらに、ウクライナ危機が重なったことにより、世界が大きく変わる可能性は否定できない。最もインパクトのある変化としては、”before Corona”はグローバリゼーション下での物価安定の時代、”post Corona”は国際社会の分断によるインフレ(=通貨価値下落)の時代であることではないか。この変化をどう乗り切るか、資産運用のパフォーマンスを大きく分けることになりそうだ。

 


市川 眞一
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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