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中間選挙よりインフレ抑制
市川 眞一
2022/05/24

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概要

ロシアによるウクライナ侵略を受け、西側諸国の結束を固めることに成功したジョー・バイデン大統領だが、世論調査を見る限り、国内での支持は低迷している。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領以降の直近5代の大統領と比べた場合、発足16ヶ月目の支持率は最も低い。11月8日には中間選挙が予定されているが、与党民主党は苦戦を強いられ、上下両院において過半数を失う可能性もある。もっとも、戦後、再選を目指した11人の大統領の場合、中間選挙での敗北はかならずしも2年後の大統領選挙に影響を及ぼさなかった。好例は民主党のビル・クリントン、バラク・オバマ両大統領であり、中間選挙で大敗したにも関わらず、自らは圧勝して再選された。大統領再選の鍵を握るのは、中間選挙後の米国景気に他ならない。その時期に経済成長が加速していれば、現職優位の展開となる。バイデン政権としては、中間選挙での敗北は織り込み済みではないか。現在、米国経済は完全雇用状態にあり、人手不足は簡単に解消されそうにはない。そこで、バイデン政権としては、当面はインフレの抑制に注力し、2023年後半からの景気加速を演出するシナリオと想定される。



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最新の世論調査の集計によれば、バイデン大統領の支持率は40%台前半を推移している。一方、不支持率は50%を超えており、その差は10ポイント以上に拡大した。ロシア軍によるウクライナ侵攻後、バイデン政権は西側諸国の結束を固め、ウクライナへの軍事支援で間接的にロシアへ大きな打撃を与えてきた。しかし、米国の国民はそれを評価してはいないようだ。

 

ブッシュ(父)大統領以降の5代の大統領に関し、就任から16ヶ月目の支持率を見ると、ブッシュ(子)大統領が70%を超えて最も高い。これは、米国同時多発テロにより、大統領が国民の求心力を集めていたからだろう。一方、最も低いのはドナルド・トランプ大統領の42%だが、足下、バイデン大統領はその水準も下回っている。中間選挙に赤信号が点灯したと言えよう。

 

ドワイト・アイゼンハワー大統領以降、戦後、12人の米国大統領の最初の中間選挙に関し、全議席が改選となる連邦下院における与党の結果を見ると、議席を増やしたのはブッシュ(子)大統領のみだ。しかし、再選を目指した11人のうち、7人は2年後の選挙で勝利した。つまり、中間選挙の結果は、かならずしも現職大統領の再選には影響を及ぼしていない。

 

戦後、現職米国大統領1期目の中間選挙で最も厳しい敗北を喫したのはオバマ大統領だ。2010年11月2日、民主党は下院において63議席を失い、少数与党に転落した。2008年秋のリーマンショックの影響が残っており、オバマ政権の最初の2年間、米国経済の足取りが重かったことが要因だろう。しかし、2012年11月6日、オバマ大統領は圧勝して再選された。

 

戦後、再選を目指した11人の大統領のうち、再選に成功したのは7人、失敗は4人だ。成功した7人の場合、中間選挙後の米国経済はプラス成長が続いていた。一方、失敗した4人の場合、当該2年間のいずれかの年でマイナス成長を記録していた。つまり、現職大統領が再選される条件は、大統領選挙前2年間の米国経済を明確な拡大期にすることである。

 

直近5代の大統領の1期目4年間の実質経済成長率を追うと、クリントン大統領の場合、4年間を通じて好景気を謳歌、ブッシュ大統領(子)の場合は尻上がりに景気が良くなった。一方、オバマ大統領は、リーマンショックの影響を受け最初の年はマイナス成長だが、その後の建て直しに成功している。経済環境が現職大統領の追い風となり、この3人は再選されたのだろう。

 

足下の米国経済は、新型コロナ禍による落ち込みから急回復、2001年以降の巡航速度による成長軌道へ回帰した。ただし、米国を中心に世界経済が急加速したことに加え、ロシアによるウクライナ侵攻で資源価格が高騰した。その結果、米国ではインフレ圧力が強まり、消費者物価上昇率は賃上げ率を超えている。これが、政権に対する国民の不満の主な背景だろう。

 

3月の産業別求人数は過去最多の1,155万人だった。求職者数を500万人以上上回っており、米国の労働市場は極めて逼迫している。結果としての賃金上昇は、構造的なインフレ要因に他ならない。再選へ向け2023、24年の景気を重視するバイデン大統領としては、引き締めを早期に終えるためにも、足下は物価が政策上の最大の優先課題と言えそうだ。

 

11月の中間選挙はバイデン大統領にとって厳しいものとなり、民主党が上下院で過半数を失う可能性は否定できない。ただし、過去の例から見る限り、1期目の大統領にとって、中間選挙の結果と自らの再選に関連があるわけではなさそうだ。むしろ重要なのは任期後半の景気動向である。バイデン政権は、先行きの景気失速を回避するため、中間選挙の敗北を覚悟して足下のインフレ対策に注力するだろう。つまり、2022年に関しては、米国経済、株式市場共に重苦しい状況を続けるものと見られる。ただし、米国のインフレ圧力は強く、その抑制には相当の根気と時間が必要ではないか。今のところ、バイデン再選へのシナリオは見えていない。

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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