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台湾問題 半導体の動向と対中投資
市川 眞一
2023/02/07

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概要

米軍航空機動司令部(AMC)のマイク・ミニハン司令官が、「2025年に中国と戦うことになる」可能性を指摘したメモを部下に送っていたことが報じられた。これは、米軍最高幹部が、台湾情勢を巡り緊張感を高めていることを示すだろう。2024年5月には、台湾の蔡英文総統が交代する。そこから習近平中国共産党中央委員会総書記が3期目の任期を終える2027年秋まで、中国が台湾統一へ向けて何らかの行動を起こすとの見方は少なくないようだ。また、米国の有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国人民解放軍が台湾に侵攻したとの想定で、図上演習を行った報告書を公表した。結論として、中国による台湾の掌握は失敗するものの、米国や日本が被る損失も小さくないと指摘がされている。台湾は地政学的に西側諸国の安全保障にとり極めて重要な上、最先端半導体の製造能力により経済安全保障上も要衝になった。この地域を巡る緊張感の高まりは、半導体ビジネスなどへの影響も含め、世界経済にとって大きな不透明要因と言えるだろう。



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■ 2001年以降中国の国防費は年率12.8%の伸び

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、中国の国防費は1990年代後半から経済成長に伴って大きく増加、2021年まで20年間の伸び率は年平均12.8%に達した。絶対額では米国の3分の1強に止まっているとは言え、近年における軍事的存在感の高まりは明らかだ。特に空母の配備など海洋進出へ向けた土台作りを急いでいる模様で、将来の台湾統一を視野に入れているのではないか。

 

■ 軍事侵攻による台湾統一の試みはリスクが大きい

CSISは、中国による台湾武力侵攻を想定、24回の図上演習を実施した。結論は、「中国の侵攻は短期間に行き詰まる」である。ただし、日米両国にとっても、米軍及び自衛隊が多くの戦力を失うとの厳しい結果だった。中国は台湾への武力侵攻ではなく、内政問題として治安維持のため警察部隊の投入を検討するのではないか。この戦略は、次期台湾総統が中国に近い人物だった場合に可能性が高まるだろう。

 

■ JL-3が実戦配備なら米国全土、欧州全域が射程圏内

米欧が台湾問題を強く懸念しているのは、中国海軍が開発中の潜水艦発射大陸間弾道弾(SLBM)、「JL-3」が要因の1つだろう。射程距離が1万2千km程度と言われ、中国近海に配備された場合、米国全土、欧州全域が射程範囲となるからだ。SLBMは発射の兆候が把握し難いだけに、東シナ海、フィリピン海、南シナ海に囲まれた台湾は、中国軍の潜水艦への対潜哨戒を行う上で極めて重要だ。


 

■ 韓国、米国企業が上位を独占

台湾の重要性が高いもう1つの理由は半導体だ。ガートナーグループの推計によれば、2022年、世界の半導体市場は6,146億ドルだった。企業別では、サムスンが2年連続の首位をキープ、以下インテル、SKハイニクス、クアルコムと続く。トップ10のうち米国が7社、韓国2社、台湾が1社だ。もっとも、米国を中心に多くの企業は設計が中心であり、先端半導体の製造をファウンドリに委託している。

 

■ ファウンドリは台湾勢の独壇場

半導体売上高の17.0%に相当する1,024億ドルはファウンドリが製造しており、この業界におけるTSMCのシェアは50%を超える。さらにUMCなどを加えると、台湾企業のシェアは市場規模の約3分の2だ。日米両国はTSMCの工場を誘致、有事に際してのサプライチェーン維持に注力してきた。しかしながら、中国が台湾を掌握すれば、技術面での力関係の変化を含め、様々な分野に影響が避けられないだろう。


 

■ 最先端半導体の露光装置はEUVが独占

最先端半導体に関して、米国のジョー・バイデン政権は、人工知能(AI)、スーパーコンピューターなど一部の例外を除き、中国への輸出を制限する意図はないようだ。ただし、製造装置の輸出を管理することで、中国が最先端半導体の製造能力を持つことを阻止しようとしている。そのためには、日米両国のみならず、微細加工に欠かせないEUV露光装置を独占的に供給するASLMを取り込む必要があろう。

 

■ 過去5年間、EUVの売上高は年率45.4%のペースで成長

ASLMのEUV露光装置の売上高は、2022年までの5年間、年率45.4%のペースで急成長した。米国は輸出管理制度により米国内で生み出された技術を使う製品の輸出を規制できるため、オランダは米国の対中半導体製造装置輸出管理を受け入れざるを得ないだろう。日米両国は、TSMCを含め自国内における半導体製造生産拠点の誘致に注力し、サプライチェーンの再構築を開始した。

 

■対中輸出抑制なら痛手

米国主導の対中輸出管理強化は、日本企業への負担も大きい。2022年における日本の半導体製造装置輸出のうち、32.4%を中国が占めていたからだ。日本政府は、熊本県へ誘致したTSMCの先端工場へ4,760億円、三重県四日市のウエスタンデジタルとキオクシアの合弁工場に929億円の補助金給付を決めたが、これは国内での生産強化により製造装置の需要を確保する意図も背景と言える。

 

■台湾問題 半導体の動向と対中投資:まとめ

台湾情勢は、2024年の蔡英文総統の退任に向け、さらに緊迫度を増す可能性が強い。中国が武力侵攻する確率は高くないとしても、習近平共産党総書記が任期切れとなる2027年秋までの間に、何等かの行動に出るシナリオは否定できない。米国は台湾への協力を強化、現状の維持に注力している。一方、仮に中国が台湾を統一した場合に備え、日本、韓国、オランダを巻き込み、半導体サプライチェーンの再構築を急ぐ見込みだ。ゼロコロナ政策が放棄され、中国経済は再加速する可能性がある。ただし、中長期的に考えれば、台湾問題は、中国関連への投資をする上で大きなリスクと考えるべきだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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