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日本株は割安?割高?
市川 眞一
2023/10/10

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概要

9月後半以降、日本株は調整色が強まった。米国の長期金利が上昇して世界的にリスクオフの動きが広がり、その影響を受けたことが要因だろう。また、米国の政治的混乱や、中国経済の不透明感も重石になっている。日本株は株価純資産倍率(PBR)が低いため、「割安」との評価は少なくない。もっとも、その背景には相対的に低いROEがある。一部の上場企業が増配や自己株取得・消却を積極的に実施しているのは好材料だが、市場全体としてみた場合、国際比較の観点でバリューの面から日本株が割安であるとは言えないだろう。一方、日経平均のイールドスプレッドは、足元、適正水準の範囲内にある。そうしたなか、日経平均の予想1株利益(EPS)と連動性の高い米国の製造業景況感指数が、3か月連続で上昇した。過去のケースから推測すれば、日本株のEPSの伸びは加速することが想定される。政治的混迷下でも米国景気が堅調に推移するのであれば、ここからの下げは長期的な視点で日本株への逆張り投資の機会となるのではないか。



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■ 日本は理論上の解散価値を下回る株価の企業が極端に多い

今年4月以降の海外投資家による日本株の大幅な買い越しは、日銀が植田和男新総裁の下でも大規模緩和を継続する方針を示したことに加え、東京証券取引所による上場企業への企業価値向上へ向けた対策の開示要請が契機になった。日経平均採用銘柄のうち、半数近くがPBR1倍を割れているのは日本株の特徴だ。低いバリューの修正が進んだ場合、日本株の上昇余地は大きいとの判断だろう。

 

 

■ 日本株のバリューの低さはROEで説明される

「株価純資産倍率(PBR)=株価収益率(PER)×自己資本利益率(ROE)」であり、日本株のPERは他市場との比較で平均的な水準だ。つまり、日本株のバリューの評価が低い要因は、資本利益率の低さが要因に他ならない。主要市場におけるROEとPBRは統計的に正の相関があり、企業価値は相対的に資本リターンに比例している。日本株の低ROEから見ると、バリューが割安とは言えないだろう。

 

 

■ 日本のROEは安倍政権が目標とした10%以上を超えていない

2023年における日本株のROEは8.35%に止まり、米国の18.50%、英国の14.65%、ドイツの11.89%を大きく下回る。一部の日本企業は増配や自己株取得を積極化、ROEの改善を目指すようになり、前向きな姿勢と評価できるものの、引き続き米欧主要市場には見劣りする。低いバリューが「割安」として評価されるためには、事業の絞り込みや不要な資産の売却など経営資源の集中が必要だろう。

 

 

■ 日本株はドルベースだと小幅なアウトパフォーム

日本株の年初来の相対パフォーマンスは、円建てだと引き続き良好だ。しかしながら、ドル建ての場合、アウトパフォームの率が急速に縮小する。理由は円安に他ならない。外貨を円転して日本株に投資をしてきた海外の投資家にとって、この円安は頭の痛い問題だろう。リスクオフのムードの下、日本株のパフォーマンスが悪化すると、海外の投資家が利益確定のために日本株を売る可能性は否定できない。

 

 

■ 米国長期金利の上昇に連れて外国人は日本株を売り越し

財務省の対外・対内証券投資調査によれば、今年4-6月、非居住者(海外投資家)は日本株を9兆5,236億円買い越した。一方、8,9月はその3分の2近くに相当する6兆302億円を売り越している。米国の長期金利上昇を背景とした国際金融市場におけるリスクオフの動きを反映したものだろう。また、円安による外貨建てパフォーマンスの悪化も、日本株離れの要因と考えられる。

 

 

■ 日本株はバリュエーションから見ると割高ではない

株式益回りから10年国債の利回りを引いて求める日経平均のイールドスプレッドは、9月末の時点で4.0%になった。過去20年間の平均は4.43%、標準偏差1.62%ポイントであり、足元は適温レベルの範囲内に収まっている。日銀のYCCにより10年国債利回りの適正水準は見え難いが、金利水準との比較でバリュエーションを見た場合、現在の日経平均が特に割高な水準にあるとは言えないだろう。

 

 

■ 日経平均は採用銘柄の1株利益に連動

過去20年間、日経平均は予想1株利益(EPS)に連動して推移してきた。結果として、リーマンショック期を底とする日本株の上昇プロセスで、予想PERは概ね15倍を中心に安定している。従って、企業の利益水準が伸びれば、それに連動して日本株は上昇すると考えられよう。このところの株価の大幅な下落は、予想EPSが4月をピークに頭打ちの傾向を示していたことが背景なのではないか。

 

 

■ 日本企業の業績を左右するのは米国景気

日経平均のEPSの増減率は、米国の製造業景況感指数(PMI)に連動する傾向がある。PMIは3か月連続で上昇、基準である50に迫る水準になった。日経平均のEPSが米国の景気に連動するのは、日本企業の業績が米国経済に大きく左右されているからと見られる。米国のPMIに連動する形で日経平均のEPSが前年を上回る状況になっているのは、日本株にとってプラスの材料と言って良いだろう。

 

 

■ 日本株は割安?割高?:まとめ

米国の政治状況は不透明で、予算成立の遅れが経済に及ぶ可能性は懸念される。ただし、雇用は引き続き堅調であり、腰折れのリスクは限定的だろう。そうしたなか、日本企業が株価を意識して株主への還元を強化しつつあることは間違いない。また、利益のモメンタムは、日本株にとってプラス材料になると考えられる。米国の政治の動向、そして中国指導部の動静を慎重に見極めつつではあるが、ここからの一段の下落局面は、長期的な視点から日本株への逆張り投資の機会になるのではないか。

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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