Interview 2
菊地智子
Tomoko Kikuchi
第1回Prix Pictet Japan Award(2015)
受賞
Artist Interview
「The river」 は世界有数の大河を舞台に現代社会における死生観を問う作品です。
経済発展のために破壊された自然、そこに生きるために、現地に住む漁⺠や農⺠、放牧⺠がやむおえずゴミや死体を回収して生きる姿、河に流れ着いた、生きる意味を見失って死を選んだ人たち。これら三角関係を通して、現代社会における「生」の光と影を探索するために数千キロの旅に出ました。
©︎Tomoko Kikuchi - The River
近代化・経済発展で失われたもの
河の流域の姿は十数年前とは全く様変わりしていました。何千キロと回った川沿いの村や町の多くは、水力発電ダムの開発で自然は破壊され、それまであった美しい村は消え、数千年続いた農業や漁業や放牧を中心とした人々の生活の営みや、宗教、人と人との関係は、河の下に沈んで消失してしまったかのようでした。
数千年の文化や太古からの自然が経済発展のためにたったの十数年で消失していく様子は、人類がまるで自然の限界に挑戦している姿のようでした。
近代化と経済発展は人と土地、人と自然、さらには人と人の関係を根本から変えてしまったかのようでした。
破壊された自然の中で、やむを得ない仕事をせざるを得ない人々の姿は競争社会の中で生きていくために、感情を押し殺し、麻痺させ、焦燥感を募らせる今のグローバル化した世界に生きる私たち一人一人の姿と重なります。
そして死を選んだ人々と接しながらその表情から私が発見したのは、現代を生きる人々が失いつつある人間の尊厳でした。
2018年12月12日
代官山 ヒルサイドフォーラムにてインタビュー