国際写真賞 プリピクテ 第11回 Storm (嵐)
Prix Pictet(以下、プリピクテ)は、写真と持続可能性(サステナビリティ)を対象とした、世界有数の国際写真賞です。 2008年にピクテ・グループによって創設され、写真の力を通じてサステナビリティという重要な課題への関心を高めることを目的としています。 第11回となるプリピクテでは、これまでと同様に各回ごとに持続可能性に関するテーマが設定されており、本展では「Storm(嵐)」をテーマに作品を紹介します。
本展「プリピクテ Storm(嵐)」では、第11回プリピクテの受賞者であるアルフレド・ジャーをはじめ、最終選考に残った12名の優れた写真家による作品を展示します。 彼らの作品は、説得力ある写真表現を通してテーマを多角的に掘り下げ、現代における最も喫緊の課題、なかでも加速する気候危機が環境と社会に及ぼす影響に真摯に向き合っています。
最終選考に残った作家たちの作品にはいずれも、伝えるべきナラティブ(ストーリー)が凝縮されています。 その多くは、過去の悲劇や差し迫った危機を象徴するような内容を含みますが、一方で未来への希望を感じさせる作品も含まれています。 これらの作品は、地球の守り手としての私たちの役割を改めて問いかけるとともに、2008年の創設以来プリピクテが掲げてきた「地球規模の持続可能性(グローバル・サステナビリティ)」という重要なテーマに光を当てています。
巡回展 開催情報
開催場所:東京都写真美術館 〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開催期間:2025年12月12日(金)~2026年1月25日(日)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(12月29日~1月1日)※1月2日(金)は10:00-18:00開館
開催時間:10:00~18:00(木・金曜日は20:00まで、図書室を除く) ※入館は閉館時間の30分前まで
料金:無料
展示作家:
新井卓 日本/ドイツ
マリーナ・カネーヴェ イタリア
トム・フェヒト ドイツ/イタリア
バラージュ・ガールディ ハンガリー/アメリカ
ロベルト・ワルカヤ ペルー
アルフレド・ジャー チリ/アメリカ (受賞者)
ベラル・ハレド パレスチナ
ハンナ・モディグ スウェーデン
ボードワン・ムワンダ コンゴ・ブラザビル
カミール・シーマン デンマーク/アメリカ
レティシア・ヴァンソン フランス
パトリツィア・ゼラノ イタリア
2025年 受賞者
Alfredo Jaar, The End, 2025
アルフレッド・ジャー 《The End(終焉)》2025
《終焉》は、ユタ州のグレートソルト湖を記録。湖は19世紀半ば以降73%の水量を失い、「環境的核爆弾」とも形容されている。小さなプリントサイズでこの災厄を「視覚的なささやき」として表現。
2025年 ショートリスト
Takashi Arai, Exposed in a Hundred Suns, 2011– ongoing
新井 卓 《Exposed in a Hundred Suns(百の太陽に灼かれて)》2011年~現在
《百の太陽に灼かれて》は、日本、アメリカ、マーシャル諸島の核関連史跡や記念碑を巡りながら、6×6cmのダゲレオタイプで撮影された「マイクロモニュメント」から成るシリーズ。冷戦下の日本で被爆者の証言を聞いた経験や、ハリウッド映画に登場する核のイメージが本作に影響を与えている。
Marina Caneve, Are They Rocks or Clouds?, 2015–19
マリーナ・カネーヴェ《Are They Rocks or Clouds?(それは岩か雲か?)》2015–2019
《それは岩か雲か?》は、1966年に北イタリア・ドロミテ山脈を襲った洪水や土砂崩れの再来を予測しようとする試み。山の荘厳な風景ではなく、その脆さや断層を視覚化する曖昧なイメージを通じて、人と山との関係性を問い直す
Tom Fecht, Luciferines — entre chien et loup (Luciferines — Between Dog and Wolf), 2015–25
トム・フェヒト《Luciferines — entre chien et loup(ルシフェリンズ — 薄明かりの間)》2015–2025
《ルシフェリンズ — 薄明かりの間》は、ブルターニュ沿岸で観察される自然の生物発光現象を捉えたシリーズ。冷水性プランクトンであるルシフェリンズは、海面の乱流と酸素によって光を発するが、地球温暖化によって絶滅の危機にある。
Balazs Gardi, The Storm, 2020–21
バラージュ・ガルディ《The Storm(嵐)》2020–2021
《嵐》は、2021年1月6日に起こったアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を記録した作品。ハンガリーでプロパガンダによって民主主義が崩れた経験を持つガルディは、「それはどこでも起こりうる」と警鐘を鳴らす。
Roberto Huarcaya, Amazogramas, 2014
ロベルト・ウアルカヤ《Amazogramas(アマゾグラマ)》2014
《アマゾグラマ》は、アマゾンのヤシの木を川床に横たえ、30メートルの感光紙に稲妻4回の閃光によってイメージを焼き付けた作品。自然との協働を目指すその姿勢が表れている。
Belal Khaled, Hands Tell Stories, 2023–2024
ベラル・ハーレド《Hands Tell Stories(手が語る物語)》2023–2024
《手が語る物語》は、戦争で自宅を失い、ガザ・ナセル病院前のテントで暮らすなかで始まったシリーズ。瓦礫の下から人を探す手、死者の手、希望を握る手など、声なき物語を「手」を通して伝える。
Hannah Modigh, Hurricane Season, 2012–16
ハンナ・モディグ《Hurricane Season(ハリケーン・シーズン)》2012–2016
《ハリケーン・シーズン》は、ルイジアナ南部に暮らす人々の不安、怒り、脅威と日常が交錯する感情を描く。嵐は自然現象であると同時に、社会的・心理的なメタファーでもある。
Baudouin Mouanda, Le ciel de saison (Seasonal Sky), 2020
ボードゥアン・ムアンダ《Le ciel de saison(季節の空)》2020
《季節の空》は、2020年のロックダウン中にコンゴ・ブラザヴィルで起きた洪水を再現。洪水の現場には入れなかったが、被災者たちの証言をもとに地下室で状況を再構築した。
Camille Seaman, The Big Cloud, 2008–2014
ミーユ・シーマン《The Big Cloud(巨大な雲)》2008–2014
《巨大な雲》は、スーパーセル(巨大積乱雲)を追いかけたシリーズ。その雲は直径80km、高さ20kmにも達し、劇的な自然現象の美しさと恐ろしさの両面を捉えている。
Laetitia Vançon, Tribute to Odesa, 2022
レティシア・ヴァンソン《Tribute to Odesa(オデーサへの賛歌)》2022
《オデーサへの賛歌》は、戦争の最前線から少し離れたウクライナ・オデーサで、人々の静かな抵抗と日常の営みを讃える。希望や連帯、優しさが困難な状況下でも生き続けていることを伝える。
Patrizia Zelano, Acqua Alta a Venezia (High Water in Venice), 2019
パトリツィア・ゼラーノ《Acqua Alta a Venezia(ヴェネツィアの高潮)》2019
《ヴェネツィアの高潮》は、2019年11月13日に記録された高潮から救出した書物を題材に、文化と知識の脆さと回復力を視覚的に表現。書物が波や海景のように変化していく様子を通じて、人間と自然、文化の関係性を問いかける。
2025 審査員一覧
- サー・デイヴィッド・キング(議長)気候危機諮問グループ創設者・代表
- フィリップ・ベルテラ(MAMCO財団ジュネーブ会長)
- ジャン・ダリー(フィナンシャル・タイムズ寄稿編集者)
- ダンカン・フォーブス(ヴィクトリア&アルバート博物館写真部門責任者)
- ゼウディトゥ・ゲブレヨハネス(ロンドン・プロスペリティ研究所)
- ガウリ・ギル(プリピクテ「Human」受賞者)
- フンミ・イヤンダ(OYAメディア クリエイティブ・ディレクター)
- ジェフ・ローゼンハイム(メトロポリタン美術館写真部門)