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- 日本銀行と金融政策⑨ ~日本銀行のBSの変化~
2013年4月にスタートした異次元の金融緩和以降、大きく変化した日本銀行のBSの変化を確認しておくことは、今後の金融政策の見通しを考えるうえで重要だといえます。
■日本銀行のBSの変化
今回はこれまでご説明してきた日本銀行の金融政策において、特に2013年4月以降の異次元の金融緩和により、日本銀行のバランスシート(以下、BS)がどのように変化してきたのかを中心にご説明いたします。そもそも日本銀行は、2001年に量的緩和政策を導入した際、国債保有残高の上限を銀行券発行残高までとする「銀行券ルール」を設けていました。これは財政ファイナンスを目的として、長期国債を無制限に購入することを抑止するために自主的に策定されたものです。しかし、2024年5月に公表された最新の決算報告書において、日本銀行のBSを見ると、負債にある発行銀行券残高は約121兆円ですが、資産にある長期国債残高は約586兆円と、「銀行券ルール」が破られていることがわかります(図表1)。これは、2010年10月に金融緩和をより強力に推進するため「資産買入基金」を創設し、銀行券ルールの例外規定を設けたことや、2013年4月の金融政策決定会合で、前述の基金を廃止した上で、「銀行券ルール」そのものを一時停止し、国債の購入を続けてきたことが要因としてあげられます。また、ETFやJ-REIT等の資産の買い入れも強力に進めた結果、異次元の金融緩和がスタートする前の2013年3月末時点と2024年3月末時点を比較すると、日本銀行の資産は約164兆円から約756兆円へと4倍以上に膨れ上がりました。かつ、その約756兆円のうち、長期国債が約586兆円と大きな割合を占めており、歪な構成になっていることもわかります(図表1、2)。
図表1:日本銀行のバランスシート(2024年3月末時点、単位:兆円)
出所:日本銀行のデータを基にピクテ・ジャパン作成
図表2:日本銀行のバランスシート(2013年3月末時点、単位:兆円)
注1:2013年4月廃止
出所:日本銀行のデータを基にピクテ・ジャパン作成
■想定されるBS上の課題
さらに日本銀行が保有する国債についてもう少し細かく確認すると、2024年3月末時点で日本銀行が保有する国債は簿価589.6兆円に対し、時価は580.2兆円と評価損益がマイナス9.4兆円となっています。イールドカーブ・コントロールの弾力化、その後の廃止、マイナス金利解除を経て、日本の長期国債利回りが上昇する中、評価損は徐々に拡大しています。ただし、日本銀行は会計上、時価評価を採用していないため、このような評価損失は発生しないことになります。しかしながら、一般企業でいえば債務超過の状態に陥る可能性があり、保有する国債の平均利回りが0.298%、平均残存年数が8年程度であることを考えると、利上げにより金利上昇が続けば、さらに評価損が拡大するため、国や通貨の信用棄損につながるリスクがゼロであるとはいえません。さらに金利上昇は同じく膨れ上がった超過準備注2に対する利払い負担も増加させます。もちろん、保有国債やETF等からのインカムゲインやその他にも考慮すべきポイントはありますが、金融政策正常化に向け、大量に保有する国債をどう処理していくかは避けては通れない課題といえます。ちなみに黒田前総裁はマイナス金利政策を総括する論文注3を寄稿されており、その中で日本銀行が赤字に陥る可能性は低く、金融政策の運営に大きな支障をきたさないだろうと指摘しています。その理由としては、日本は急激なインフレ下になく、むしろ2%の物価目標達成の見通しが立つ中での金融政策正常化プロセスにあり、大幅な国債の逆ザヤ注4が生じる可能性が低い点、保有国債が償還する中でその一部を金利が高い国債に再投資することで逆ザヤの可能性を緩和する点、保有国債の収益から損失引当金を積み上げている点、ETFからの運用益(毎年1兆円程)も逆ザヤによる赤字を補填する原資となる点を説明されています。
注2:当座預金のうち、金融機関が日本銀行に預入れなければならない金額(法定準備預金額)を超える金額を超過準備といいます。
注3:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/shiryo/2024ron21-01.pdf/%24File/2024ron21-01.pdf
注4:超過準備への付利金利が保有国債利回りを上回る状態を指します。金利差分が日本銀行の収益にマイナスの影響をもたらします。
図表3:日本銀行が保有する国債の時価および利回り情報(2024年3月末時点、単位:兆円)
出所:日本銀行のデータを基にピクテ・ジャパン作成
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