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インフレと金融/経済史④~東西冷戦期③ 軍事費と財政、インフレ~
2025/09/24

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概要

冷戦期における軍事費の増大は財政赤字の拡大を招き、同時に供給能力以上の需要を高めることとなったため、インフレ圧力を高める要因となりました。




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■冷戦期における軍事費増大

今回は冷戦期における軍事費と財政、インフレの関係性に焦点を当てて、ご説明いたします。本テーマの第1回で既述の通り、冷戦期には米国とソ連が直接武力衝突することがなかったものの、実際には第三国を介して間接的に戦争に関わった代理戦争が頻発しました。この間、米国は軍事費を増大させましたが、それは財政収支の悪化につながり、財政赤字が拡大していくこととなりました。軍事費が増えたことで財政が悪化する中、債務でその赤字部分が補填されると、市場に供給される通貨量が増加するため、インフレ圧力を高めてしまう可能性があります。また、支出拡大は総需要を高めますが、一方で、その分の供給ができない場合、需給バランスが崩れ、インフレ要因となりえます。米国を例に確認いたします。

第2次世界大戦後、すぐに勃発したのが朝鮮戦争でした。1948年に朝鮮半島は分断国家として、南に大韓民国(韓国)、北に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が建国されましたが、1950年6月に北朝鮮が韓国に侵攻して、北朝鮮を支援する中国とソ連、韓国を支援する米国中心の国連軍との戦争になりました。ちなみに朝鮮戦争勃発直後に、米軍の資材調達のための司令部が日本に置かれ、大量の物資が直接日本企業から買い付けられました。終戦までの3年間の調達金額として10億米ドル、将兵の日本での消費などを含めると1955年にかけて36億米ドルの特需(朝鮮特需)がありました。実際に朝鮮戦争の期間中、米国の軍事費は前年比で激増していることがわかります(図表1)。

さらに朝鮮戦争の後、勃発したのがベトナム戦争です。朝鮮半島の分断と同様に、ベトナムにおいても南北での分断が起き、社会主義体制を掲げる北ベトナムは中国やソ連から支援を受け、反共主義を掲げる南ベトナムは米国の支援を受け、1955年に戦争が始まりました。特に米国がベトナム戦争への直接介入を始めた1964年から1967年までの間に軍事費は増大しました(図表1)。ベトナム戦争は朝鮮戦争に比べ、予想以上に泥沼化し、戦争終結まで約20年間続いたこともあり、多額の戦費が費やされました。加えて、同時期に米国ではリンドン・B・ジョンソン大統領による「偉大な社会(グレート・ソサエティ)」という大規模な社会改革政策がとられ、非軍事支出も大きくなったことから、よりインフレ圧力が高まっていったといえます。

このように朝鮮戦争やベトナム戦争による軍事費の増大が財政を圧迫する状況に陥ったことに加え、総需要の高まりに対して供給不足が露呈したことでインフレ圧力はいずれの局面においても高まりました(図表2)。第2、3回でご説明した2度にわたるオイルショック等もあり、特に1960年代半ばから1980年代前半まで続いた高インフレ状態は「グレート・インフレーション」と呼ばれます。        


図表1:米国軍事支出と前年比の推移
(年次、1950年~1982年)


出所:ストックホルム国際平和研究所、SIPRI Military Expenditure Database 2025
(https://www.sipri.org/databases/milex)のデータを基にピクテ・ジャパン作成

図表2:米国のインフレ率推移
(月次、1950年1月~1982年12月、前年同月比)


出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

           

 



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