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インフレと金融/経済史⑤~東西冷戦期④ 社会主義体制の崩壊~
2025/10/08

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概要


冷戦の終結により、社会主義圏の国々が計画経済から市場経済へ急激に転換した結果、激しいインフレが発生しました。


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■社会主義体制における「計画経済」

今回は冷戦が終結した1989年前後に起きた社会主義体制の崩壊とその結果生じたインフレについてご説明いたします。繰り返しになりますが、東西冷戦は、米国に代表される資本主義や自由主義を支持した西側諸国と、ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)に代表される社会主義を支持した東側諸国との間で長期にわたって続いた激しい対立を指します。資本主義や自由主義と社会主義の違いは、前者は自由な経済活動や競争を重んじる「市場経済」の考え方がベースとなるのに対し、後者は「計画経済」を採用していました。社会主義的な思想において、市場経済では富が資本家ばかりに集中し、労働者へ適正に分配されず、この2つの階級の間で貧富の差が拡大していくと考えられていました。そこで社会主義においては、富を社会全体の共有財産となるよう国が管理し、国の計画に基づき経済活動が行われました。これが「計画経済」です。しかしながら、計画経済については、需給バランスの不均衡、コスト・品質の管理不足、不当な補助金、技術革新の遅れなどのさまざまな課題が次第に露呈していき、結果としてソ連やソ連と連帯して社会主義体制をとっていた東欧諸国は技術革新により経済を拡大させていた西側諸国に比べて、経済成長が大きく停滞してしまう事態に陥ってしまいました。

■民主化の進展と冷戦の終結

1985年、ソ連共産党の書記長に就任した故ゴルバチョフ氏は経済再生を図りつつ、社会主義体制を維持するため、ペレストロイカ(再構築)と呼ばれたさまざまな改革をグラスノスチ(情報公開)による政治改革とともに進めました。さらに西側諸国や社会主義圏の国々との外交方針を大きく転換する「新思考外交」を掲げました。これにより欧米諸国との関係性を深めつつ、社会主義圏内の国々、つまり東欧諸国の独立や民主化を支持(新ベオグラード宣言)したことで、東西ドイツの統一に代表されるような社会主義からの脱却や市場経済への転換が一気に進みました(東欧革命)。1989年、故ゴルバチョフ氏はマルタ会談にて米国とともに冷戦の終結を宣言しました。その後、1991年にソ連は軍事クーデターなどもあり、解体され消滅しましたが、ロシア連邦(以下、ロシア)がその資産や国際的地位などを引き継ぎました。その後、ロシアは東欧諸国と同様に社会主義経済から脱却し、市場経済へ移行しました。

■社会主義経済からの転換とインフレ

既述の通り、ソ連や東欧諸国は社会主義経済から市場経済へと移行しましたが、その急激な転換は激しいインフレを招きました。ロシアでは1992年1月より、市場経済への転換という改革のために「ショック療法」と呼ばれる価格の自由化、緊縮財政、自由貿易、国営企業の民営化といった政策が行われました。しかながら、ソ連崩壊前より財政赤字、貿易赤字、生産停滞による供給不足で苦しい状況にあったため、ショック療法により、計画経済のもと抑制されていたインフレが顕在化し、前年同月比で1,000%を超えるインフレ率を記録しました(図表1)。このショック療法は東欧諸国でも行われ注1、多くの国でインフレ、またはハイパーインフレが発生しました注2(図表1、2)。ロシアは失敗例の1つであり、インフレを抑え込むまでに相当の時間を要しました。

注1 ショック療法には複数のモデルがあり、国によって適用されたものが異なりました
注2 ショック療法の成否は国ごとに異なり、結果としてインフレの規模やその期間は国ごとに大きく異なりました

図表1:ロシア、ルーマニア、ブルガリアのインフレ率推移
(月次、1992年1月~1995年12月、前年同月比)




図表2:ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国のインフレ率推移
(月次、1992年1月~1995年12月、前年同月比、チェコ共和国は1993年1月以降)


出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成(図表1、2)

 



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