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インフレと金融/経済史⑦~物価低位安定期②IT分野の技術革新~
2025/11/13

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概要


パソコンやインターネットの普及は経済全体の生産性を向上させ、コストを削減し、価格競争を生み出したことで物価の低位安定を支えた1つの要因となりました。


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■パソコンとインターネットの普及

今回は、1990年代以降、グローバリゼーションが進んだ要因の1つである、IT(情報技術)分野の急速な発展とインターネットの普及についてご説明いたします。1970年代初頭から、現代のパソコンのCPUとほぼ同義であるマイクロプロセッサが世界ではじめて登場し、コンピューターの小型化が進んだことで、パーソナルコンピューター(以下、パソコン)が普及し始めました。1980年代にはIBMやAppleのパソコンが発売され、日本でもNECやシャープ、富士通がパソコンを発売開始し、日本国内でのパソコン市場も徐々に形成されてきました。その後、インターネットが普及する前にパソコン通信サービスが世界で広まりました。パソコン通信サービスは限られたコミュニティ内で情報交換やコミュニケーションを行うための会員制サービスで、サービスを提供するプロバイダーによってその内容は異なり、会員同士の電子メール、電子掲示板などがビジネスや個人の趣味等の広い範囲で利用されました。

インターネットは、1995年にMicrosoft社からWindows95が発売されたことをきっかけに普及が加速しました。もともと、インターネットは軍や研究機関の一部で利用されていた通信技術でしたが、1991年に世界初のウェブサイト(インターネット上の複数のページの集合体)が一般公開され、1993年にはテキストだけではなく画像も表示可能なウェブブラウザである「Mosaic」が誕生しました。一方で、当時のパソコンの操作は非常に複雑かつインターネットへの接続も技術的な知識が不可欠でした。その難しい操作や設定等を大幅に簡略化してくれたものがWindows95でした。これにより一般家庭でもインターネットサービスの普及が加速し、さらにパソコンの低価格化が進んだことで、パソコンの普及自体もさらに進みました。インターネットへの接続設定が簡単になったことで、日本でもインターネット接続サービスを提供するプロバイダーが数多く登場し、「インターネット元年」とよばれた1995年を起点にパソコンやインターネットが急速に拡大していきました(図表1、2)

そしてこの「IT革命」ともよばれた、IT分野の発展とインターネットの普及は経済全体の生産性を飛躍的に向上させ、物価の安定を支えた1つの要因となりました。


図表1:全世帯における日本のパソコン普及率
(年次、1987年~2004年)


出所:内閣府のデータを基にピクテ・ジャパン作成

図表2:世帯・個人・企業・事業所のインターネット利用状況の推移
(年次、1997年~2005年)


出所:総務省統計局のデータを基にピクテ・ジャパン作成

■IT革命と物価への影響

世界でのITの急速な発展とインターネットの普及により、既存のビジネスの生産性が飛躍的に向上したことに加え、新たなビジネスモデルが次々に出現し、あらゆる分野においてITへの投資が進みました。生産性の向上は、たとえば、サプライチェーン(原材料調達、製造、流通、販売、消費までの流れ)管理において、全体のデータをリアルタイムで収集し、分析することでさまざまなコストを削減し、在庫調整を最適化し、顧客ニーズを精緻に予想することができるようになった結果として実現されました。新たなビジネスモデルは、たとえばオンラインショッピング、ネットオークション、音楽や映画といったデジタルコンテンツ販売等のeコマース(電子商取引)が代表的なものとして挙げられ、従来の販売チャネルよりも安価に簡単に商品を手に入れることができるようになりました。さらに消費者がインターネットを通じて、さまざまな情報にアクセスできるようになったことで、あらゆるモノやサービスの価格が比較されるようになり、企業間の価格競争の激化を生みました。先進国の多くの企業はさらなる生産性向上のため、生産拠点を労働コストが安いところへ移すこと(オフショアリング)で、激しい価格競争に打ち勝とうとしました。これは、ITの発展により、遠く離れた国でも高度な生産技術等を新興国へ持ち込むことが可能になったことで、実現できたサプライチェーンのグローバル化だといえます。

ITの急速な発展とインターネットの普及がもたらした社会構造の大きな変化や経済活動のグローバル化は、さまざまなコスト削減を可能にし、生産性の向上を実現し、さらに企業間の価格競争を激化させたことから、インフレ率の低下に一定程度寄与したと考えられます。特に米国はこのIT革命の恩恵を受け、相対的に高い経済成長を実現することができました。インフレなき成長が実現できたとされたこの時代は「新経済」の時代ともよばれ、現代のデジタル社会の基盤が築かれた重要な時期とされています(図表3、4)


図表3:米国のCPI(前年同月比)
(月次、1985年1月~2000年12月)


出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

図表4:米国のGDP推移(前年同期比)
(四半期毎、1985年3月~2000年12月)


出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

                       

 



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