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インフレと金融/経済史⑧~物価低位安定期③WTOの設立~
2025/11/27

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概要


第二次世界大戦後のGATTのもと促進された自由貿易は世界経済を大きく発展させ、さらに国際機関のWTO設立により、さらに多くの国々が自由貿易の恩恵を受けています。


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■GATTにより促進された自由貿易

今回は、WTO(世界貿易機関)設立についてご説明いたします。1990年代以降、世界のグローバリゼーションを推し進め、物価の低位安定時代を築いた要因の1つとしてWTOの設立と中国の加盟があげられます。WTOとは1995年1月1日に設立された国際機関で、貿易に関するさまざまな国際ルールを運用し、新たに発生する多様な課題に対しての取り組みを行います。そして、その大きな目的は「自由貿易の促進」であり、つまり、WTOの設立はグローバリゼーションに大きく貢献してきたことがわかります。

世界全体で、自由で開かれた貿易が促進されてきた理由には第二次世界大戦の反省があります。1929年の世界大恐慌後、金本位制度が崩壊し、その結果として世界各国が保護主義的な貿易政策(ブロック経済)に走りました。そして、そのブロック経済圏の拡大のための植民地拡大が第二次世界大戦へと発展した1つの要因となりました。そのため、戦後にはそれらの反省を踏まえ、まず通貨制度を安定させ、自由な貿易により経済を発展させるためのブレトンウッズ体制を確立し、それに伴いIMF(国際通貨基金)やIBRD(国際復興開発銀行)が誕生しました。さらに、貿易の基本的ルールを整備すべく1947年に作成されたものがGATT(関税及び貿易に関する一般協定)であり、これがのちにWTO設立へとつながりました。

GATTでは最恵国待遇、内国民待遇、数量規制禁止、関税引き下げの4原則が設定されました。最恵国待遇とはすべての加盟国が同等の貿易条件をもつことで、内国民待遇とは輸入品を国産品と同様に扱うことです。これらの原則をもとに、GATTではすべての加盟国が参加する貿易交渉(ラウンド)の場を通じて自由な貿易を促進してきました。実際に関税は戦後からWTO設立までの間に大きく下がり、日本をはじめ多くの国々が自由貿易の恩恵を受け、世界全体の貿易額は増大していきました(図表1、2)。しかしながら、GATT自体はあくまで協定であり、国際機関でなかったが故に貿易紛争を解決する力は不十分でした。そこで1986年から1994年の間に行われたウルグアイ・ラウンドにて、権限や規制力を大幅に強化し、紛争解決力を備えた国際機関をつくることが採用されました。この国際機関がWTOです。


図表1:世界貿易額の推移(輸出+輸入、名目ベース)
(年次、1950年~2024年)


出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

■WTOの設立

国際機関となったことで、世界の多角的貿易体制がさらに強化されました。具体的には、①貿易ルールの強化、②新たな分野のルール整備、③紛争解決手続きの強化などがあげられます。②については、「モノ」以外の投資、知的財産、サービス等の分野が新たに対象となりました。③については、DSB(紛争解決機関、Dispute Settlement Body)が設置され、DSBが紛争解決のプロセスを監督し、パネル(委員会)の設置や報告書の採択、紛争勝訴国による制裁措置(紛争敗訴国が是正措置に従わない場合)の承認などを行います。そしてこの紛争解決プロセスには法的拘束力があるため、すべての加盟国は従う必要があります。国際機関となったことでより世界の貿易を自由に促進するためのさまざまなルールが整備されたといえます。WTO設立後、社会主義経済から自由経済へと移行した国々が加盟し、その他の新興諸国の加盟も増え、現在の加盟国は160を超えています。また、特に世界の貿易や物価に大きな影響を与えたのは中国の加盟ですが、こちらは次回でご説明いたします。

             



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