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インフレと金融/経済史⑨~物価低位安定期④中国のWTO加盟①~
2025/12/11

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概要


社会主義国家である中国は計画経済から、市場経済を部分的に導入する社会主義市場経済の体制を構築することで高い経済成長率を記録してきました。


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■中国の計画経済

今回は、グローバリゼーションの進展と世界の物価低位安定に大きな影響を与えた中国のWTO(世界貿易機関)加盟について、加盟前の史実を振り返りながら2回にわけて説明いたします。前回、ご説明したようにWTOとその前身であったGATT(関税及び貿易に関する一般協定)は自由貿易を推進するためのものですが、中国はもともと計画経済を行っていた社会主義経済の国でした。つまり、WTO加盟までに市場経済へと移行していったことになりますが、まずこの流れについて先に振り返ります。

1949年に建国した中華人民共和国(以下、中国)は主要産業の国有化を進める中で、同じく社会主義国家であったソ連(当時)の影響を受け、「第1次5ヵ年計画(1953年~1957年)」と呼ばれる計画経済注1を導入しました。この計画経済のポイントは、資本主義国家に対抗するための急速な重工業化推進と農業の集団化でした。その後、「第2次5ヵ年計画(1958年~1962年)」も導入され、さらなる計画経済の推進が図られましたが、非現実的な生産目標や、行き過ぎた管理による生産意欲と能力の低下、未熟な技術に基づく工業化の失敗、自然災害による大飢饉の発生が追い打ちをかけ、経済は大きく成長することはありませんでした。

注1:国家の計画に基づいて経済全体を管理・運営する経済体制であり、資本主義批判から生まれたこの体制は多くの社会主義国家で導入されました(参考:https://www.pictet.co.jp/basics-of-asset-management/new-generation/economics/20240321.html、https://www.pictet.co.jp/basics-of-asset-management/new-generation/financial-history/20251008.html)

■部分的な市場経済導入への転換

1976年、計画経済を主導し、建国時からの最高指導者であった毛沢東が死去すると、その後に事実上の最高指導者となった鄧小平は1978年に「改革開放政策」を打ち出し、社会主義を維持しつつも、部分的に市場経済を導入していくといった大きな方向転換を示しました。「改革開放政策」の「改革」とは国内体制を大きく転換する政策、「解放」とは外国資本や技術を受け入れて国際経済に参加する政策を意味します。具体的には、改革政策として農業の集団化政策の見直し(生産責任制注2の導入)、中央財政と地方財政の分離、対外貿易システムの改革、価格体系の改正や市場メカニズムの導入等があげられます。開放政策としては、経済特区や開放都市を設け、外資企業の進出を優遇し、対中投資を活発化させ、そこから得た外貨で国内の重工業やインフラ整備への投資を行うといった政策があげられます。

注2:農業従事者は一定数量の生産を政府から請け負い、上納する代わりに、それ以外の農作物は自由に販売してよいという仕組み

■社会主義市場経済のさらなる推進

その後、1989年に中国政府に対して民主化を求めた学生・市民らを武力弾圧した(第2次)天安門事件が発生すると、先進諸国はこの事件に対して人道的理由から中国に対して激しく非難をし、経済制裁を加えました。これにより中国経済は危機的状況に陥り、改革開放政策も一時的に停止せざるを得ない状況となりました。この状況を打開すべく、鄧小平は改革開放政策のさらなる推進が重要だと考え、1992年1月から2月にかけて、深セン、上海といった中国南部の経済特区を訪問し、改革開放政策をより強力に進めていく必要性を説き、計画経済も市場経済も中国経済発展の手段にしかすぎず社会主義国家においても市場経済が存在しても問題ではないと主張しました(南巡講話)。そして、同年の中国共産党第14期大会において、社会主義市場経済の構築が提起され、ここから中国への投資ブームがスタートすることとなりました。

中国のGDP成長率や1人当たりGDPの推移を確認すると、改革開放政策がスタートした1978年を境にその伸びが増し、さらに1992年以降さらに加速していることがわかります(図表1、2)。                    

図表1:中国のGDP成長率推移
(前年比、1953年~2024年)

出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

図表2:中国の1人当たりGDPと変化率推移
(年次、1952年~2023年)

出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成

                           

 



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