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米国金利の上昇などが金価格の重石に~金を取り巻く環境は?~
2021/03/15

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概要

新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などを受けた景気回復期待や米国金利上昇などを受けて、足元、金価格は軟調な動きとなっています。一方で、米国の実質金利の水準や米ドルの水準などは、金価格を下支えする要因となる可能性があると考えます。



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景気回復期待や米国金利上昇などが金価格の重石に

足元、金価格は軟調な推移となっています(図表1参照)。

金価格は昨年8月に史上最高値を付けましたが、その後は調整局面に移行し、軟調な推移となっています。その背景としては、①新型コロナウイルスのワクチン接種が拡大する中、景気回復期待が急速に高まり安全資産としての金の需要が後退したこと、②米バイデン政権による1.9兆ドル規模の追加経済対策などを受け財政拡大が予想され米国の長期金利が急上昇したこと、③米国金利の上昇を受けて金と代替資産の関係にある米ドルが主要通貨に対して上昇基調となったこと、などが挙げられます。

実質金利の水準と米ドルの水準が金を下支えする可能性

一方で、実質金利の水準と米ドルの水準については金を下支えする可能性があると考えます。

【米国の実質金利の水準は依然としてマイナス圏に】

足元では確かに米国国債の利回り(名目金利)は上昇しています。現在の水準は、コロナ・ショック前の水準まで回復している一方、経済の本格的な回復にはまだ不確実性が高い状況にあり、今後は金利上昇ピッチの一服感が広がる可能性があるとみられます。

また、物価上昇を考慮した実質金利(=名目金利-期待インフレ率)も上昇していますが、期待インフレ率が上昇傾向にあることもあり、その水準は依然としてマイナス圏での推移となっています(図表2参照)。

米連邦準備制度理事会(FRB)は雇用市場の回復が鈍いことから金融緩和姿勢を維持する姿勢です。FRBがある程度のインフレを容認しつつ緩和的な姿勢を継続するのであれば、それは実質金利を低位に保つことにつながる可能性もあるでしょう。

そうした中、巨額の財政出動や過剰な資金供給を背景に期待インフレ率がこれからも上昇することで、再び実質金利が低下する可能性も考えられます。加えて、インフレ率の想定以上の上昇は、実物資産である金にはプラス要因といえそうです。

【米ドルの水準】 

世界の主要通貨に対する米ドルの動きを示すドル・インデックスの推移をみると、足元では2020年末から2021年2月頃にかけての底値から反発しています(図表3参照)。金は価値保存手段として米ドルの代替資産とみなされており、米ドルと金価格は逆方向に動く傾向があります。足元で米ドルが上昇していることは金価格の下落要因ではありますが、それでもなお、ドル・インデックスの水準は依然として低く、昨年8月の水準をいまだ下回っています。今後、米国金利の上昇の落ち着きによる米ドル安は、金価格にとって追い風になる可能性もあります。

さらに、米国では、貿易収支と財政収支の赤字、いわゆる「双子の赤字」のリスクが高まりつつあるとみられます。トランプ前政権、およびバイデン政権の多額な財政出動による財政悪化傾向は加速しており貿易赤字の拡大と併せて、ドルへの信認の低下、すなわち、長期的なドル安圧力となる可能性が考えられます。

まとめ

金はそのものに価値がある資産である一方、利子や配当があるわけではありません。そのため、一般に、金利水準が高くなる局面では金への投資妙味は薄れるほか、リスク資産が過度に選好されるような局面では安全資産としての金への投資ニーズも低下する傾向があります。

しかしながら金を取り巻く環境をみると、低位で推移する実質金利や米ドル安の可能性など金価格を下支えする要因もみられます。

金にはバリュエーション指標等がないことから、その局面局面での事象で市場が着目する変動要因が変化することが多いのも特徴であり、金を取り巻く環境を冷静にみていくことが重要と言えそうです。    


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