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中国:まだら模様の景気回復、続く
2021/08/26

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概要

年後半には、内需喚起を図る景気刺激策を期待

・7月上旬に発表された6月の主要経済指標によると、中国の4~6月期実質GDP(国内総生産)成長率は、堅調な外需と緩慢な国内経済の回復が混在する経済の現状を示唆するものとなりました。7月11日の週に発表された6月の主要経済指標の一部もこうした状況を確認するものでした。

・新型コロナウイルスのデルタ型変異株が、東南アジアを中心に世界中で急速に広がる状況では、中国国外の生産能力の回復に遅れが生じる可能性があると考えます。こうした状況は、中国の好調な輸出が、本年(2021年)下期を通じて継続する可能性を示唆しています。

・中国の内需の回復が外需の回復に遅れを取る中、家計の消費や固定資産投資には先行きを期待させる動きも散見されます。

・政策面では、中国人民銀行が7月9日に預金準備率の引き下げを発表していますが、年後半には、内需喚起を図るための財政刺激策も予想されます。



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中国国家統計局が発表した中国の4~6月期実質GDP成長率は前年同期比+7.9%と1~3月期の同+18.3%を大きく下回りました。一方、2年平均ベースで見ると、4~6月期は+5.5%と1~3月期の+5.0%を上回ります。また、上期(1~6月期)は前年同期比+12.6%でした。

 

 

4~6月期実質GDP成長率や足元発表の経済活動指標の詳細な分析からは、堅調な外需とは裏腹に緩慢な内需の回復が際立つ経済の現状が示唆されます。もっとも、内需には回復の兆しも現われ始めており、年後半には、内需の一段の回復を図った、経済政策が実施される可能性があると考えます。

 

輸出は桁外れの堅調さを維持

中国の6月の輸出は前年同月比+32.2%と5月の同+27.8%を上回りましたが、ここで留意しておきたいのは、足元の輸出の極めて高い数値が比較の基準となる前年の数値が低かったことに起因する「ベース効果」の恩恵を受けたわけではないということです。中国の輸出は昨年(2020年)5月までにコロナ前の水準を回復していたからです(図表1)。言い換えると、6月の数値は、世界の多くの地域で生産能力の回復が遅れる状況下、中国の財に対する強い需要が継続することを示唆していることになります。

本稿執筆時点では、新型コロナウイルスのデルタ型変異株が世界中で急速に広がっており、東南アジアを含む多くの地域で規制の再導入や強化の動きが見られます。こうした状況は、中国国外の生産能力の回復を当初予想よりも後ずれさせる可能性があり、従って、中国の堅調な輸出は、本年(2021年)下期を通じて継続する可能性があると考えます。

 

 

図表1: 中国の貿易額の推移(輸出額および輸入額
単位:10億ドル、季節調整後
輸出額(赤)、輸入額(グレー)

出所: ピクテ・グループ

 

 

 

中国の鉱工業生産活動は、堅調な輸出を背景に、ここ数ヵ月、底堅く推移しています。6月の鉱工業生産指数は前年同月比+8.3%と5月の同+8.8%を下回りましたが、極端なベース効果を均した2年平均ベースで見ると、6月は+6.5%と5月の+6.6%を僅かに下回るに過ぎず、コロナ危機前の水準(2019年通年の+5.8%)を大きく上回ります。

 

内需の回復は遥かに緩慢

対照的に、中国の内需の回復は、総じて、コロナ前の水準を下回り、回復のペースは緩慢です。例えば、6月の小売売上高は前年同月比+12.1%と2桁に乗せた一方で、2年平均ベースでは+5.3%に留まり、コロナ前の約+8%に比べていかにも見劣りします。

 

 

図表2:小売売上高と乗用車販売の推移
前年同月比
小売売上高(赤、左軸)、乗用車販売(グレー、右軸)

出所: ピクテ・グループ

 

 

 

中国の内需の緩慢な回復は、以下の2つに起因すると思われます。

1つは、中国政府が、多くの先進国とは異なって、コロナ危機時においても家計に対する直接的な支援策を講じなかったということです。その結果、家計の平均可処分所得は大きく落ち込み、現在も緩やかな回復の途上にあります。こうした状況は、政府の支援を受け、危機時に家計の可処分所得が膨らんだ一部先進国の状況とは対照的です。中国経済の自立的な回復が緩慢である理由は、個人消費の回復の遅れによるものです。

もう1つは、中国が他国に先駆けてコロナ危機から脱出した後、世界で初めて金融政策を正常化した中央銀行は中国人民銀行だったということです。同行は、2020年5月以降、信用の伸びの抑制と国内金利の上昇を誘導してきました。従って、中国の12ヵ月移動平均ベースの社会融資総量(中国の信用総額を図る指標で、中国人民銀行が毎月発表)は2020年10月にピークを付けた後、伸びが鈍化し、2021年6月単月では前年同月比-2.8%と縮小に転じています(図表3)。信用創出のペースの鈍化は、固定資産投資、とりわけインフラ投資の伸びを鈍化させます。

 

 

 

図表3:社会融資総量の伸びの推移
前年同月比、12ヵ月移動累計

出所: ピクテ・グループ

 

 

一方、6月の経済指標の中には、内需の改善を示唆するものも散見されます。小売売上高指数はコロナ前の水準には届いていませんが、2年平均ベースでは、伸び率が僅か4.4%に留まった5月と比べ、顕著な改善を見せています。また、昨年の売上が好調だったことからベース効果のマイナスの影響が大きかった6月の乗用車販売が前年同月比-4.9%と5月の同+1.1%から落ち込んだにもかかわらず小売売上高が改善したことは、自動車以外の売上の伸びが加速していることを示唆しています。

 

6月の固定資産投資にも幾分ながら改善の兆しが見られ、2年平均ベースの伸び率は+5.5%と5月の同+4.7%を上回りました。伸びの勢いはマクロ経済や政策面の状況を映してセクター毎に異なりますが、製造業セクターの設備投資は前年同月比+17.0%と、とりわけ堅調で、旺盛な輸出需要に対応して生産能力が増強されたことが示唆されます。一方、インフラ投資は同+0.4%と伸びは殆ど見られなかったものの、5月の縮小(同-3.0%)から安定化の兆しを見せました。不動産投資は同+5.8%と5月の同+9.8%を下回って減速基調が続き、政府の投機抑制策を映す形となりました(図表4)。

 

 

図表4:固定資産投資の伸びの推移、業種セクター別
前年同月比
製造業セクター(赤)、インフラストラクチャセクター(グレー)、不動産セクター(青)

出所: ピクテ・グループ

 

 

 

2021年下期の政策は緩和バイアスを強めるか?

2021年下期の政策は緩和バイアスを強めるものと考えます。中国人民銀行は、先般、預金準備率の50ベーシスポイント(0.5%)の引き下げを発表しており、約1兆人民元の流動性が金融システムに供給されることが想定されます。市場にとっては予想外の引き下げでしたが、年初来の引き締め強化に因る弊害を緩和したいとの政策立案者の意向が示された可能性も考えられます。預金準備率の引き下げが緩和局面の始まりを示唆するとは思われませんが、中国人民銀行による金融正常化(金融引き締め)は恐らく終了し、金融政策は中立に移行したものと思われます。

中国の政策に、財政刺激策が欠けていたことは明らかです。例えば、地方政府債の年初来の発行ペースは、2019、2020両年の水準を遥かに下回っており(図表5A)、財政支出も同様です(図表5B)。従って、年後半には財政支出の拡大が予想され、金融政策が引き締めバイアスを弱めていることと合わせて、今後数四半期を通じて内需を押し上げる可能性が考えられます。

 

図表5A:地方政府債の年初来のネットの増加額(累計)
単位:兆、人民元

出所: ピクテ・グループ

 

 

 

図表5B:中国の財政収支の推移(年初来の累積)
単位:10億、人民元

出所: ピクテ・グループ

 

直近発表の中国の経済指標は、国内経済の回復が引き続き順調に進んでいることを示唆しています。内需が外需に出遅れる状況は変わりませんが、個人消費や固定資産投資には、幾分ながら改善の兆しも見られます。年後半の経済政策は緩和バイアスを強めることが予想され、今後の景気回復を後押しすると思われます。

 

 

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