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セドリック・ルカンプが語るピクテ・ウォーター戦略のエンゲージメント
2021/08/31

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概要

セドリック・ルカンプは、100億ドルを超える運用総額と20年の運用実績を誇るピクテの「ウォーター・ファンド」を運用しており、数多くのエンゲージメントを通じて投資対象企業に変革を促しています。



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近年、エンゲージメントに際して、企業側の対応に変化が見られますか?

ピクテのフィードバックに対する企業側の反応にはこれまで以上の手応えを感じています。かつては、事務的な反応とでも言ったらよいでしょうか、年に一度、送られてきたESGに関する質問書に回答していただけだった企業が、今では、ESGに配慮することが自社の評判、従業員、株価等に大きな影響を及ぼす可能性があることを十分に認識しています。ピクテでは企業に対し、ESGが事業のファンダメンタルズを構成する要素であって事業と独立したものではない、と見なすよう働きかけています。ご存知の通りESGは、取締役会が企業の組織や役員の責任について明確に定義し始めた頃から重要性を増してきています。サステナビリティ委員会やチーフ・サステナビリティ・オフィサー職を設置し、ESG専門チームに取締役会への直接報告を義務付けたこと等、どれも良い兆候だと考えます。

「ウォーター・ファンド」の投資先には、2000年のファンド設定時から投資している企業が多く、現在の経営陣が役職に就く前から株主であり続けた場合が多いのですが、このことは、ファンドのブランドが長期にわたって維持されてきたことを裏付けると考えます。企業側はピクテのフィードバックが目先の利益を追求したものではなく、企業ならびにファンドおよび受益者双方の長期の発展を考えてのものであることを認識しています。相互の観点が整合していると考えます。

 

 

「ウォーター・ファンド」のエンゲージメントのテーマはどのようなものですか?

「ウォーター・ファンド」は、水関連企業を投資対象とするテーマ・ファンドですから、エンゲージメントの多くは基本的に投資先企業が供給する水の質に関連するものとなっています。多くの場合は公益企業の特有な事業運営と規制環境に焦点を当てた企業固有のエンゲージメントですが、セグメント横断的なより広い課題の解決のために、他の運用チームとの協働を通じてエンゲージメントを行うこともあります。例えば、廃棄物処理や水公益事業に従事する企業はいずれも廃水や二酸化炭素排出等の環境課題に直面しています。ですから、ピクテ・エンバイロメンタル・オポチュニティーズ(環境関連株式戦略)の運用チームとの協働を通じ、廃水管理の課題に焦点を当ててセグメント横断的なエンゲージメントを行うこともあり「競合他社がよりよい対応をしているのに、何故このレベルでこうした違反が生じたのか?」というような質問をすることが可能です。ある意味では、エンゲージメントが企業を追求する手段となっています。

環境や社会関連の課題が極めて重要であることは明らかですが、チームの統一テーマはガバナンス(企業統治)です。なぜならば、ガバナンスを通じて企業は環境や社会の望ましい慣行を実現するからです。経営陣の哲学や手法は、従業員や株主が納得した時、組織全体に浸透すると考えます。例えば、科学に基づいた環境や社会面の目標に役員報酬を整合させることは、こうした課題に役員が注意を払うよう促す手段の1つです。

社会の課題は、新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)に伴って重要性を増してきました。雇用主は人的資本の価値をこれまで以上に評価しており、一方、人手不足の状況下、被雇用者は各自の価値を従来以上に認識しています。ピクテは、一時的な人員削減によって経営陣が恩恵を受けている場合には、役員報酬に係る会社提案に積極的に反対票を投じてきました。今後も投資先企業の経営陣が、長期的な観点を持ち責任ある雇用主として考え、行動するよう確認していきたいと考えます。

 

エンゲージメントの実例をお話いただけますか?

エンゲージメントの多くは、複数年にわたって行われ、現在も継続中です。一例として挙げられるのは、規模の大きい多国籍企業で、世界各国で産業用水関連機器を製造販売する企業とのエンゲージメントです。これほど規模の大きい企業の場合、効果的なモニターを行うことは容易ではありません。同社は、環境や社会に係る課題が物議を醸していたにもかかわらず持続性(サステナビリティ)の課題に取り組む意思に欠けているように思われました。ピクテは、持続性との整合を目標に、取締役会による監視手法を改善するためエンゲージメントを開始し、役員報酬の算定基準にサステナビリティ指標を用いるよう促しました。その結果、1年半後には多くのSDGs指標を算定基準とした業界でも最高レベルと考えられる報酬政策を発表しました。これは、ピクテ一社の功績ではありませんが、弊社が多くの株主に加わって議論の一部を構成したことは確かです。

最も困難な課題の1つは、どんな場合にも通用する万能薬のような解決策はないということです。ですから、ファンドの運用に加えてESG活動に携わることが極めて貴重な経験であることを実感しています。「社外取締役の採用に10年の経験」を要件とすることは可能ですが、候補者の一人が生命科学企業で微生物学分野の信じ難いほど素晴らしい再現不可能な研究に携わっていたとしたら、10年基準を撤回することに異論はありません。企業ファンダメンタルズを理解することは、ESGに係るエンゲージメントを行うために極めて重要であり、その逆も然りです。ESGに係るエンゲージメントは、投資の全体像を示してくれます。

 

投資の撤退(ダイベストメント)のきっかけになり得るのはどのようなことですか?

投資の撤退を最終目的にエンゲージメントを始めることは決してありません。インパクト(社会的課題に有益な影響)を追求する投資家にとって、銘柄の保有を続け、企業に変革を促すことは委託された運用業務の一部だと考えます。また、確信を持って様々な投資環境を通じて株式を長期間保有するため、銘柄の組み入れに先立って十分な精査を行います。当然、状況の進展は常に注視しており、経営陣に外部要因の変化やピクテの提言に応える意思があるかどうかを評価しています。ピクテはエンゲージメントを行い、株主総会で会社提案に反対票を投じ、取締役会に書簡を送り、メンバーと議論しますが、それでも変化が見られない、あるいは株式の保有を続けることに大きなリスクが伴うと判断した場合にはダイベストメントを実行します。

 

顧客からESGに係る質問が増えましたか?

確実に増えています。ファンドの投資哲学や投資プロセスにどのようにESG要因を取り入れているかについて受益者の十分な理解が得られるよう、ピクテは常に透明性を重視してきましたが、どのような種類のエンゲージメントを行っているのか、E、S、Gのどれに係るエンゲージメントか、不祥事関連、事業戦略、SDGsのどれが課題か等、これまで以上に多くの質問が寄せられています。また、投資家としてのピクテが得られる基本的なインパクトにもこれまで以上の関心が窺われます。

「インパクトを追求する投資家として、銘柄の保有を続け変革を促すことは委託された運用業務の一部だと考えます。」

 

 

 

 

※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。

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